村山佳子氏にインタビューを行った

ピクサー新作で“快挙”日本人がキャラクターデザインのすべてを監修 “日本と海外のアニメの違い”とは?<インサイド・ヘッド2>

2024.08.04 08:10
村山佳子氏にインタビューを行った

「第88回米国アカデミー賞」長編アニメーション賞を受賞した「インサイド・ヘッド」(ディズニープラスで配信中)の続編であるディズニー&ピクサーの新作「インサイド・ヘッド2」が8月1日に公開された。同作は日本に先駆けて6月14日から全米をはじめ世界各国でも公開されていて、ピクサー作品史上最高の世界興行収入を記録している。WEBザテレビジョンでは、2022年にピクサーに入社して長編映画「私ときどきレッサーパンダ」(2022年)のキャラクターデザインを務め、今作でキャラクター・アート・ディレクターとしてチームを束ねながらキャラクターデザインのすべてを監修した村山佳子氏にインタビューを実施。キャラクターに込めた思いや製作秘話、日本と海外のアニメーションの違いなどについて語ってもらった。

同作では、前作で小学生だった明るく元気な女の子・ライリーが高校入学を控えたティーンエージャーに成長。これまでの「ヨロコビ」や「カナシミ」などに加え、「シンパイ」「ハズカシ」「イイナー」「ダリィ」といった大人の感情たちが新たに登場し、思春期ならではの悩みや葛藤が描かれる。

新作で苦労したキャラクターは「イイナー」

――本作は、ピクサー作品史上最高の世界興行収入を記録していますが、作品の魅力についてはどんなふうに感じていらっしゃいますか?

まずはキャラクターたちがかわいいということ。そして、作品のテーマに共感してくださる方が多いのかなと。不完全でも完璧でなくてもあなたの感情はあなたを守ろうとしていて、あなたのことが大好きなんだよというメッセージが伝わればいいなと思っています。

――前作よりちょっと大人になったライリーや、新たに加わった“大人の感情”たちのキャラクター作りではどんなことを意識しましたか?

「イイナー」は、すごく苦労したキャラクター。嫉妬という感情はかわいくないからどのバージョンも好きになれないという意見が多くて。どうしたらいいのか困っていたら監督とプロダクションデザイナーから「いいなぁ」や「うらやましいなぁ」という感情は雨に濡れた子犬のような顔がいいんじゃないかとアドバイスされて、みんなで「それだ!」ってなったんです。そこから「イイナー」の方向性が決まりました。

“いいな”は英語で「envy」っていうんですけど、語源であるラテン語の「invidia」は目に関する言葉。キャラクターを描くときに目をすごく強調しました。目をキラキラにすると、うらやましいという感情がポジティブに見えるんです。

――「ハズカシ」も特徴がありますよね?

「ハズカシ」は割とストレートなプロセス。監督の中で一番体格が良くてフードをかぶっているというイメージが固まっていたんです。難しかったのは恥ずかしいという感情の表現。恥ずかしいと感じるポイントは人それぞれ違うじゃないですか。だから、どういうときにどんな表情をしたら伝わるのか。恥ずかしいときの表情は怖いとかビックリしたっていうときの表情と似通っているなと思ったので、その違いをどうやって出していけばいいのかいろいろ考えました。

――ライリーの“秘密の推しキャラ”「ランス・スラッシュブレード」はどんなイメージですか?

ランスはデザインを始めるにあたって、チームのオタク女子と男子を全員集めて、みんなで「ドリームボーイフレンド」を描こうと。それを具現化したのがランス。みんなの夢が詰まっています。それと、ライリーが隠したくなるようなツッコミどころも満載しました。

「ライリーがかわいくなくなった」という声も“狙い通り”

――前作よりも成長したライリーは思春期の何とも言えない感じが出ていますね。

監督の中にある程度イメージがあって、お母さんより背が高くなっているけど目立ちたくないから猫背になっていたり、歯を矯正していてニキビに困っているという設定。前作のデザインがあるのでやりやすかったです。その反面、成長したとはいえ同一人物に見せないといけないという難しさがありました。

アメリカで公開されたときにInstagramなどで「ライリーがかわいくなくなった」というコメントが出ていて。でも、本当にその通りで思春期って顔が子どもではないし大人でもない。その微妙な気まずさを出したかったんです。

映画のテーマもそうですが、不完全さとか美しさ、美しくないところ全部含めてかわいい。そんな等身大の13歳を描くことを心掛けました。

――今回のキャラクター造形で参考にしたものはありますか?

キャラクターデザインをしていると、今まで経験したことの集合体みたいなものが表れるんです。今回に関しては特にこれっていうものはなくて、続編なので前作のルールやスタイルに沿うということが大前提。製作総指揮であり、前作の監督でもあるピート・ドクターさんは形を大切にする方なので、それにならって形を重視しました。

オリジナルと新しい感情はストーリー的にペアがあって。例えば「ムカムカ」は三角形のイメージでデザインされていて、そのペアである「イイナー」は富士山の形。「カナシミ」は涙形で、ペアになる「ハズカシ」は卵型といった感じで元の形からインスピレーションを受けてデザインしました。

日本のアニメキャラは「すごく細かく考えてデザインされている」

――日本のアニメは国内外問わず人気がありますが、海外のアニメとの違いはどこに違いがあると思いますか?

アメリカのアニメーション映画のキャラクターをデザインする時は形とシルエットが最重要。画面に一瞬映っただけで誰なのか分かるようにシンプルに研ぎ澄まされています。アニメーションのキャラは劇中で伸びたり縮んだりするんですけど、基本的に形が崩れることはありません。そういう制限がある中でどうやって最大限に表現していくのか。クリエイターの皆さんが研鑽した結果、CGアニメーションがすごく進化したのかなと思っています。

一方、日本のキャラクターデザインは、すごく細かく考えてデザインされているという印象。「美少女戦士セーラームーン」や「ジョジョの奇妙な冒険」など、髪形や服装に工夫を凝らしているものが多いですよね。

個人的な意見ですけど、日本のキャラクターデザインは漫画やアニメなど、長いシリーズものに適しているのかなと。長い時間をかけてキャラクターになじんでいって、そのキャラクターの性格や趣味が髪形や服装にも表れる。とても奥が深いなと思います。

ジブリ作品への敬意「本当に美しい」

――シリーズものというわけではないですが、スタジオジブリの作品も長年国内外問わず人気がありますよね?

ジブリのキャラクターデザインは本当に美しいです。「崖の上のポニョ」に出てくるお父さんのジャケットの描き方をはじめ、細かい情報がいろいろと自分の頭の中に入っていて、キャラクターを生み出すときに反映されることもあります。

――最後に「インサイド・ヘッド」っぽい質問を。村山さんの「感情のバランス」はどんな構成になりそうですか?

基本は「ビビリ」と「シンパイ」がベースにあって、仕事をしているときは「ヨロコビ」と「イイナー」ですかね。ピクサーで働いていていいなあと感じるところは周りにすごい方がたくさんいるということ。みんな絵がうまくて、自分にとって刺激になるけど時には毒にもなります(笑)。

◆取材・文=小池貴之

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