<ぼくのお日さま>池松壮亮と奥山大史監督、日藝のイベントに登壇 こだわりのシーンは「ほとんどアドリブ」
映画「ぼくのお日さま」に出演する池松壮亮と監督・奥山大史が7月25日に行われた、映画について学ぶ日本大学藝術学部の学生に向けたQ&A付き試写会に登壇した。池松は日藝の卒業生。映画では夢に敗れた元フィギュアスケート選手のコーチ・荒川を演じる。
本作は、田舎街のスケートリンクを舞台に、吃音のあるホッケーが苦手な少年・タクヤ、選手の夢を諦めたスケートのコーチ・荒川、コーチに憧れるスケート少女・さくらの3つの心がひとつになっていく。雪が降りはじめてから雪がとけるまでの、淡くて切ない小さな恋たちの物語が描かれる。5月に開催された「第77回カンヌ国際映画祭」では日本作品で唯一オフィシャルセレクション部門に選出され、上映後は約8分間のスタンディングオベーションを受けた。
監督もスケート靴を履いての撮影 池松は子どもたちと「心を通わせた」
奥山監督と池松は、満席となった教室で学生たちに温かい拍手で迎えられた。監督は「初めてこの大学に来ましたが、感激しています。こんな設備があるんですね」と笑顔を見せた。久しぶりに母校を訪れた池松は「実は今日の試写は、一般の方に初めてのお披露目なんです。自分の母校ということもありますが、これから未来に羽ばたいていく皆さんにお届けできるということは本当に光栄だなと思っています」と感慨深い様子だった。
3人のスケートシーンについて「どのように撮ったのか?」と問われた監督は「自分もスケートの経験があったので、スケート靴を履きながら撮りました」と状況を説明。「けっこう照明にもこだわって、スケートリンクには窓の数だけ大きい照明(器具)を用意してもらいました。基本的にスケートのシーンはドキュメンタリーであって、台本には“だんだんうまくなっていく3人”としか書いてなく、池松さんに演出していただきながら演技をしてもらいました。ほとんどアドリブでしたね」と振り返った。
司会者から「スケートがお上手でしたね」と言われた池松は「上手じゃないですよ。ごまかし、ごまかしね…(笑)」と照れながら、「これまでも色々なことに取り組ませていただきましたが、今までで一番難しかったです」と本音を漏らした。「奥山さんも監督をしながらカメラを回して、実際に滑りながら撮影していますから。湖のシーンは4人で2日間(カメラを)回しっぱなしでした」と苦労を語った。
池松のクランクインは湖での3人のシーンで、「子どもたち2人には脚本を渡していないので、カメラの前であらかじめ決められたことをやるというよりも、新鮮に物語と出会っていくというスタイルだったんです。なので、どうしても自分がコーチ役として2人を導いていかなければいけなかったですし、とにかく2人のキラキラした輝きをどれくらい映画に残していけるかでした。俳優は皆そうですが、人は反射するものなので構えることなく本当に心を通わせるということの一点勝負だったと思います」と役と向き合った様子を語った。
子どもの頃の経験を作品にする…奥山監督、映画作りの根底となる感情について語る
この日は学生からも多くの質問が飛び交い、1つ1つ丁寧に答えた監督と池松。「タクヤの学校が円形校舎でしたが、それを選んだ理由は?」という質問に、監督は「石狩にある校舎だったんですが、物語を2000年くらいの時代に設定したかったんです。限定した時代ではなく余白を作りたかった。今はあまり見なくなった校舎で2000年代がピーク(に建設された)らしいんです。独特な画も作れて、屋上の景色がとにかく素晴らしくて」と答える。
フィギュアスケート経験者だという学生から「指導の方法の表現がすごく良かったです。どのようにその場面を作っていったのか?」と、突っ込んだ質問も。監督は「元フィギュアスケーターの方に監修に入ってもらい、その方と池松さんとでリアリティーあるシーンを作ってもらいました」と明かす。
奥山監督の代表作でもある「僕はイエス様が嫌い」も本作も、監督の子どものころの経験をヒントに制作されているが、「子どものころの経験を作品にするうえで大切にしていることは?」という問いに、監督は「やっぱり子どものころって、今よりももっともっと感情起伏があったというか、本当に些細な事ですごく落ち込んだり、舞い上がったりとして、あのときの時間がとても長く感じたし、キラキラして見えるし、そういったものがカメラのレンズを通せば、もう1回呼び起こされるんじゃないかと思うし、そういう映画を作りたいと思っています」と言い、「実体験ではないところの感情をどう取り入れいくか、考えながら撮影していきました」と、自身の映画作りの根底となる感情を伝えた。
子役時代の“映画を体験する”という実感を振り返る機会
一方で、池松は「学生の頃の経験は全部活きていると思います。いい学校ですもんね(笑)。(大学生でいた)社会に出る前の4年間は、本当にギリギリに残された猶予として、(自分は)あまり褒められた学生ではなかったんですが、映画を観たり、ひたすら考えたり…そういう時間を過ごしたことが、その後の自分の俳優活動にものすごく活きてきたと思っています。幼少時代では、今回の子役の子たちと同じくらいの11~12歳がデビューだったので、初めて俳優に触れたくらいの歳。何もわからない状態でしたが、そんな中で映画を体験するってどういうことなのか、自分は初めて映画に参加した時に何を思っていたか、どういうふうに世界を見ていたのかを、今回たくさん振り返る時間になりました」と、自身の経験をも振り返っていた。
「自分の表現を磨いていく方法があったら教えてもらいたい」という言葉に、監督は「それは僕も探し中ですが、結局は何か好きな作品を見つけたら、その作品に関してなぜ自分が好きだと思ったかを言葉にしていく。それを繰り返していくしかないと思います」と持論を展開。
池松は「僕は常に流動的でありたいと思っていますし、さまざまなスタイルを獲得していきたいと思っています。昔は自分のスタイルって何なのかなと考えましたけど、今はいろんなものをマネしていいし、そして自分の表現に対して素直になることだと思っています。そうしたら必ず自分のスタイルというのは結果として出てきますから。どんどん取り込んで、どんどん素直に表現していけばいい」と、俳優としての観点から意見を述べた。
池松、本校の監督コースの専攻した理由…演技について持論を展開
池松は同校で監督コースを専攻していたが、監督から「どうして監督コースだったの?」と問われると、「監督は専門的なことを知らないとできないですが、演技は誰かに教えてもらうものではないのではないかと若いころから勝手に思っていて。技術ではない表現が、自分のお芝居の理想だと思っていたところがあった」と答えた。
最後に監督は「これだけ素晴らしい技術と素晴らしい先輩がいる中でその背中を追いかけながら学べるのは最高にうらやましいです。そう思われる場所にいることに誇りを持って、映画作りを目指していってほしい。いつかお仕事でご一緒できたら」と声をかけ、池松が「監督は皆さんとあまり歳が変わらないんです。大活躍の監督が脚本もカメラもやるという、これまでのルールを破っていく。いい映画を作っていくのにルールは必要ない。これまでのルールをぶち壊して新しい世界を作っていきたいと思いますし、ぜひ僕も皆さんとお仕事できる日を楽しみにしています」とエールを送り、イベントを終了した。
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