

2度目のオスカー受賞エマ・ストーン、ピュアで残酷…“ただ者ではない”演技にうっとり<哀れなるものたち>

2019年に公開されたヒット作「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督と主演女優エマ・ストーンが再び組み、約140分を一気に魅せる「哀れなるものたち」が4月24日に配信された。2024年3月に開催された「第96回アカデミー賞」で大きな話題を集め、今なお全国の映画館でも上映中の同作だが、とにかく物語は伏線に富んでいて、モノクロとカラーを使い分けた色調、魚眼レンズの使い方、妙に音程のふらふらした箇所を含む音楽など、「大きく楽しんでも、マニアックに探求しても、どちらにしても満足が得られること間違いなし」と言いたくなる内容に。スクリーンの大画面で浴びて、それから配信でマニアックに各シーンを見つめていくのもいいだろう。そんな今作を、幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が視聴し、独自の視点で魅力を紹介する。(以下、ネタバレを含みます)
賞レースを席巻する大作
同作は、第96回アカデミー賞で主演女優賞受賞(エマ)、さらに衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、美術賞の計4部門を受賞し、第80回ヴェネチア国際映画祭では金獅子賞を、第81回ゴールデングローブ賞ではミュージカル・コメディ部門の作品賞、主演女優賞をそれぞれ受賞するなど、賞レースを席巻。それも納得の濃厚にして繊細、ポップでキャッチー、スケールの大きな力作である。
原作はスコットランド出身の作家、アラスター・グレイが1992年に刊行した同名小説で、ウィットブレッド賞やガーディアン賞を受賞している。舞台は19世紀末、同国のグラスゴー。エマが扮(ふん)する主人公のベラは、映画が始まって本当に少ししかたっていないところで身投げする。「いきなり主人公が自滅行為をしてしまうなんて、あと2時間少々どうするのだ」と考えだしたら、もうそこでランティモス監督の術中にハマっているといっていい。彼女の体は天才外科医・バクスター(ウィレム・デフォー)のもとに渡り、彼は彼女の脳に幼児のそれを移植。結果として「容姿は大人の女性、思考や動きは幼児」という新たな生命体・ベラとなった。
「無邪気、素朴、かわいい」一面と、「残酷、勝手、容赦ない」一面をメダルの表裏のように持っているのが子どもというものだ。思い通りにいかないと駄々をこね、癇癪(かんしゃく)を起こす。感じたことをそのままストレートに言うから、周りの者はひやひやもするし、怒ることもある。だがそこに「ピュアの美」のようなものを見いだす向きも多く、この映画でも知性的と言えそうな男たちが次々とベラにひかれていく。
加えて、ベラは「世間的に望ましくないこと」が何なのかを知らない。そこにピュアな博愛主義が加われば、どうなるか。数多くの男と行為に及ぶのも、「向こうが喜んでくれるし、私も気持ちいいし、お金ももらえるから」。この真っすぐ過ぎるほどの考えの前では、「倫理」だの「概念」という言葉はマシュマロ以上に柔らかい。「ああ、谷崎潤一郎が描く世界の西洋版だな」とも感じた。そして、エマの圧巻ともいえる演技に触れてうっとりし、あらためて“ただ者ではないな”と痛感させられた。
ベラの身に起きた出来事とは…
ある種爽快なコメディーだ。考えさせられた後にクスッとほほ笑ませるというよりは、4コマ漫画的なオチが、いろんな場所にちりばめられているというか。だが物語が進むにつれて思うのは、「それはそれとして、どうしてベラは身投げしたの?」ということ。そこで後半、待ってましたとばかりに、「年齢相応の自分の脳を持っていた頃の」女性のたどった道が明かされていく。それを、画面を通じて我々が知らされる頃には、劇中のベラはいくつもの土地で歳月を重ねていて、いろんな人々からいろんなことを学んで、自分を磨き、彼女の脳はもう幼児状態のままではなかった。
エマは、この映画で「ラ・ラ・ランド」(2016年公開)に続いて2度目のアカデミー主演女優賞を獲得した。近々またランティモス監督とのコンビによる映画「憐れみの3章」が公開されることも決定しているという。とどまることを知らない黄金コンビの最新作を見た後も、“いとあはれ”な感情が押し寄せてくるんだろうなあ。
映画「哀れなるものたち」はディズニープラスの「スター」で見放題独占配信中。
◆文=原田和典
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