「ラスト・リペア・ショップ」はディズニープラスのスターで独占配信中

アカデミー賞受賞作「ラスト・リペア・ショップ」は音楽界の“陰の功労者”に迫る快作 楽器修理に魂を注ぐ姿に感銘

2024.03.14 11:10
「ラスト・リペア・ショップ」はディズニープラスのスターで独占配信中

アメリカ最大の都市・ロサンゼルスで1959年から続く、楽器を無料で修理して公立学校の生徒たちに提供する様子を描いた作品「ラスト・リペア・ショップ」が、2024年3月10日(現地時間)に開催された「第96回アカデミー賞」にて短編ドキュメンタリー賞を受賞した。同作は過去にも「アカデミー賞」ノミネート経験のある2人の監督ベン・プラウドフットとクリス・バワーズが、倉庫の隅々まで撮影し、生徒のために8万を超える楽器の修理に情熱をかける職人たちのインタビューとともにつづるドキュメンタリー。今回、音楽をはじめ幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が本作を視聴し、独自の視点で見どころを紹介する。(以下、ネタバレを含みます)

音楽家にとってのリペアマンとは?

スポーツ選手にとってのトレーナーに相当するものが、音楽家にとってのリペアマン(楽器を修理する職人)なのではないか。私の知る限り、大物音楽家には「かかりつけのリペアマン」がいて、楽器の鳴りや操作にちょっとでも違和感を覚えたら、即駆け込む。ピアニストの中には、決まった調律師を擁している人もいる。ミュージシャンの誰もが自分にとってのベストな響きを、よりよい状態で聴き手に届けたいと望んでいるから。音楽界における“陰の功労者”というべき存在だ。

誰一人同じ体形や性質の人がいないように、少なくともアコースティック楽器には同一のものはない。固有の人間が、固有の楽器を、自分にとって最もカンファタブルである状態にチューニングすること。条件を整えることで、より良いプレイができる。

もちろん“モダン・ジャズの父”などとも呼ばれるアルト・サックス奏者のチャーリー・パーカーのようにサックスのキー(穴を押さえる道具)が吹き飛んでもチューインガムか何かでその穴を埋めていたとか、アルトではない他人の楽器を借りて吹いても変わらぬ天才性を発揮したというエピソードもどこかで読んだことがある。

それはもう、「聖徳太子が同時に10人の話を聞き分けた」とか「モーゼが海を割った」などと大して変わらない伝説レベルの話であろうし、興味深いけれど「盛ってる」んじゃなかろうか、と考えるのが2024年の感覚としてはまあ、外れていないだろう。

先日のアカデミー賞で短編ドキュメンタリー賞を受賞した「ラスト・リペア・ショップ」では、ロサンゼルスで1959年から続く、楽器を無料で修理して公立学校の生徒たちに提供する修理店の様子が描かれている。「リペアに魂を注ぐ職人たち」「楽器演奏の楽しさに目覚めた子どもたち」の両方にスポットを当てた快作だ。

加えて職人たちの、これまで歩んできた道が紹介されていく。カントリー&ウェスタンのバンドを組んでエルヴィス・プレスリーのコンサートの前座をした人(デイナ・アトキンソン)もいれば、アゼルバイジャンの都市・バクーから命からがら渡米した人もいる。性別やシングルマザーへの偏見と闘ってここまでやってきた人もいる。共通しているのは、音楽を愛していることと、楽器をより良い状態に直して子どもたちのもとに返したいということ。

音楽に親しむことや楽器演奏には、私に言わせれば次のような効能がある。「他の芸術や歴史への理解も深まること」「肌や性別や信条を超えて調和できること」「無理のない呼吸法や指使いや姿勢を学ぶことで健康にもつながること」「楽団に所属することによって“時間を守る”などの習慣が身につくこと」「一つのことに打ち込むエクスタシーを得ること」「人前で芸事を披露することによって身なりや口調にも気を使うようになること」、アメリカであればさらに「銃」「麻薬」から遠ざかる手段としても有効なのだろう。(※個人の感想です)

楽器に縁のない人でも見やすいドキュメンタリーに

40分弱の短編ドキュメンタリーなので「他の予定を大きくずらして、これを見るための時間をわざわざ作る」必要もなく、日々の生活の延長としてサラッと見ることができるのもいい。楽器に縁のない人であっても、「いい音」を出すには、こうした努力や注意が払われている背景があるのだ、と何か新しい知識を得た気持ちになるはず。

音楽監督はジャズピアニストであり、映画のサウンドトラック(『グリーンブック』など)にも才能を発揮するクリス・バワーズが担当。ラストでは書き下ろしの楽曲「ジ・アラムナイ(卒業生たち)」が、大オーケストラによって演奏される。リペア・ショップにお世話になったロサンゼルスの高校の歴代卒業生たちと、そのリペア・ショップのスタッフによる合同パフォーマンスだ。顔ぶれを見ると、若手や中堅もいれば、重鎮ミュージシャンのフェルナンド・トーレスやマーティ・クリスタルなどもいる。

世代も皮膚の色も性別もさまざまな面々が、音楽教師のビンセント・ウォマック指揮の下、一丸となって演奏に打ち込む。まさに“イン・ハーモニー”、胸のすく思いだ。

「ラスト・リペア・ショップ」は、ディズニープラスのスターで独占配信中。

◆文=原田和典

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