「人面魚 THE DEVIL FISH」より

<台湾ホラー考察>「人面魚 THE DEVIL FISH」に見る民間信仰・伝承をもとにした恐怖と“絶妙な違和感”

2024.03.12 12:00
「人面魚 THE DEVIL FISH」より

近年盛り上がりを見せている台湾映画・ドラマをWEBザテレビジョンで大特集。今回は台湾ホラーブームの火付け役といわれる「紅い服の少女」シリーズのスピンオフ作である、「人面魚 THE DEVIL FISH」を紹介する。本作を通じて台湾ホラーが日本でウケているのか、本作を通して考察したい。

ビビアン・スーの振り切った演技は必見

「人面魚 THE DEVIL FISH」は、昨今の台湾ホラーブームの立役者である紅い服の少女シリーズのスピンオフ作だ。本作は、第一章・第二章でメガホンをとったチェン・ウェイハオから、デビッド・ジュアンに監督がバトンタッチ。制作順としては3作目なのだが、シリーズの前日譚的な立ち位置となっている。エンドロール、そしてエンドロール後までしっかり見ることをおすすめしたい。

本作は「人の顔をした魚に霊が宿る」「かつて魔神に悩まされていたが、虎爺が魔神たちを倒して混乱を鎮めた」という言い伝えが残る台湾のランタン地方を舞台に、魔神の恐怖や家族の絆などが描かれている。

主演は、かつて日本のバラエティ番組で活躍していたビビアン・スーだ。彼女は、魔神にとり憑かれてしまう、悩み多き母親役を演じている。魔神の恐ろしさ、不気味さ、得体の知れなさが余すところなく伝わってくる、かなり振り切った鬼気迫る演技は必見だ。

魔神が宿った魚が悲劇と恐怖を引き起こす

山中で男性たちが釣りを楽しんでいるシーンから、物語は始まる。釣りあげた魚を焼いて舌鼓をうっていた彼らの耳に聞こえてきたのは、不気味な問い掛け。やがて、焼き網の上の魚が人面魚へと変貌し、恐ろしい悲劇の幕が開くー。

玄虎宮のジーチェン(チェン・レンシュオ)のもとに、刑事がやってきた。自分の家族6人を絞殺するというおぞましい事件を起こした男が、虎爺に会いたがっているという。ジーチェンは、虎爺を自分に降ろすことができる霊媒師なのだ。

虎爺は久しく自分に乗り移っていないので無理だと答えたジーチェンだったが、男が魔神に憑かれているのを察し、危険な悪魔祓いの儀式を行うことを決意する。実はその男は、山中で魚を釣り上げたあの男性だった。

一方で、精神科にかかっている母ヤーフェイ(ビビアン・スー)を元気づけるため、優勝したら海外に行けるというビデオコンテストに出場しようとネタ探しをしていた少年が、その儀式のことを立ち聞きしてしまう。

そして、儀式のときー。ジーチェンは危うい目に遭いながらも、男の中から出てきた黒いモヤを魚に閉じ込めることに成功する。儀式を撮影しようと潜んでいた少年は、その魚が吐き出した稚魚をひそかに自宅へと持ち帰ってしまうのだが……。

台湾ホラーに息づく実体感のある怖さ

台湾ホラーには、土地に根ざした民間信仰、伝承、都市伝説などをもとにした作品が少なくない。本作もそうだ。紅い服の少女シリーズの1・2作目は、心霊番組に投稿された1本の動画から広がった都市伝説と、山には魔神仔という妖怪もしくは精霊がいるという言い伝えを合わせて、「紅い服の少女は魔神仔だ」という説に基づいてつくられている。

シリーズ3作目である本作では、2作目に出てきた虎爺に焦点があてられた。虎爺もまた、台湾では民間信仰の対象だ。

ゾンビや殺人鬼が意味もなくあらわれて惨劇が繰り広げられるというパターンは、台湾ホラーではあまりお目にかからない。代わりに、昔から言い伝えられたものや実際にあった出来事に、人の愛憎や罪や後悔が織り重ねられて、恐怖が形作られていることが多いように思う。実在のモノに人として不変の感情を掛け合わせることで、心にじっとりとまとわりつくような、湿度や粘度の高い実体感がある恐怖が生まれるのだ。

荒唐無稽な世界観に納得感を持たせる絶妙な違和感ぐあい

加えて、実在の民間信仰、伝承、都市伝説などをもとにしていることによって、台湾ホラーには多少の荒唐無稽さや理屈の通らなさも「台湾ではこういうものなのだな」と力技で納得させられてしまう力強さがある。

例えば、本作では多くの日本人が「人面魚」と聞いて思い浮かべるであろう人面魚は出てこない。「え、そこが人面なの!?」とギョッとするのではないだろうか。

また、悪魔祓いの儀式をするにあたって、霊媒師のジーチェンは「魔神を揚げる」と宣言する。翻訳のニュアンスがなにかおかしいことになったのかと考えつつ見ていたのだが、ジーチェンは魔神が宿った魚を言葉の通り"油で揚げた"ので、度肝を抜かれた。しかも、その魚を普通にゴミ捨て場に捨てる(だからこそ、少年が稚魚を拾えてしまったわけだ)に至っては、日本の当たり前とは異なりすぎて「そういうものなのだ」と納得するしかない。

台湾は日本と似ているようで、やはり異なる文化を持つ異世界なのだ。そう感じさせる絶妙な違和感が散りばめられていることで、作品全体の世界観にかえって違和感なく没入できる。「虎爺を自分に乗り移らせる」というのも、「魔神 vs. 虎爺」という構図も、台湾ホラーにやたら道士が出てきて強い力をふるっても、スッと受け入れて純粋に"台湾ホラー"という異世界を楽しむことができるのだ。

荒唐無稽な世界観でも納得感を持って没入でき、そこに実体感のある恐怖が用意されている。だからこそ、日本人は台湾ホラーに惹かれるのではないだろうか。

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