

台湾映画「親愛なる君へ」に見る、カタルシスを増幅させる“ミステリー手法”

近年盛り上がりを見せている台湾作品の特集をWEBザテレビジョンでも展開。本記事では台湾金馬奨において最優秀主演男優賞と最優秀助演女優賞を受賞するほか、国内外で評価の高い台湾映画「親愛なる君へ」を取り上げ、ミステリー手法を用いた感動演出を考察する。
金馬奨最優秀主演男優賞&助演女優賞受賞
「親愛なる君へ」は亡き同性パートナーの家族を支える青年・ジエンイーの姿を通して、血の繋がりを越えた家族の絆を描いた感動の人間ドラマ。ジエンイーを「一年之初」のモー・ズーイー、ジエンイーの亡きパートナーの母・シウユーを演技派女優のチェン・シューファンが演じ、それぞれ第57回金馬奨において最優秀主演男優賞と最優秀助演女優賞を受賞している。
青年ジエンイーは、年老いたシウユーの介護とその孫のヨウユーの世話をひとりでしていた。彼女たちと血の繋がりはなく、ただの間借り人であるジエンイーだったが、今は亡き同性パートナーの家族である2人の面倒を見ることで、彼への弔いになると思っていたのだった。そんなある日、シウユーが急死し、その死因を巡ってジエンイーに疑惑の目が向けられる。警察の捜査によって不利な証拠も見つかり、ジエンイーは罪を認めてしまう。果たしてジエンイーは本当にシウユーを死なせたのか、死なせていないのならなぜ罪を認めたのだろうか。真実がしだいに明かされていく。
本作はミステリー方式で展開していくのだか、この方式がとても効果的で淡々と語られる通常のパターンの倍、いや何倍も多くの感動をもたらせてくれるのだ。
悪人とは思えない善人が容疑者だからこそ、視聴者の心を掴む
序盤のシーン、主人公のリン・ジエンイーは鉄格子のある留置所と思われる場所で手錠をかけられて部屋から出ていく。そして、狭い階段を登っていき、彼に対しての取り調べを行われる。インパクトのあるシーンを見せて一気に物語に引き込んでいき、このジエンイーはいったいどんな悪いことをしたどんな悪人なのだろうと思わせて、こちらの好奇心を刺激してくる。そして、次に繰り広げられるのは、エプロンをしたジエンイーが甲斐甲斐しくキッチンで料理をし、よく知らない親戚の叔父さんとまだ挨拶をしていないという少年に、料理の手を止めて少年の目線にかがんでやさしく挨拶を促す姿が描かれる。
悪人のイメージを抱かせられたジエンイーが、とてもそうとは思えない家庭的な善人に見えて、いったいどういう訳だ?と混乱する。逆にこの善意の塊のように見えるジエンイーがどんな悪いことをしたのだろう?と疑問が頭をもたげる。
これはよくあるミステリーの手法だ。殺人や事件が起きて、いったい犯人は誰であるかという一番一般的なミステリーではないが、結果や犯人と思われる容疑者を見せておいて、本当に犯人であるのか、犯人であるならなぜ事件を犯したのか、その理由を探っていくのである。
ここで重要なのは容疑者がいかにも容疑者らしい裏がありそうな怪しい人物や強面の人物であれば、この手法は成立しないだろうということ。この人が罪を犯すならさもありなん、と納得できてしまって、この人物が本当に犯罪を犯したのか真実を知りたいとは視聴者が食いつかないからだ。犯罪とは程遠く思える人物であればあるほど、本当に?どうして?なぜ?と見るものの興味を引き、最適というわけだ。
ミステリー手法により、カタルシスを増幅
前述したように、本作の主人公・ジエンイーは家庭的で優しくて凶悪な犯人とはとても思えない人物。しかし、ジエンイーは容疑をかけられるとあっさりと罪を認めてしまう。それはなぜなのか、そこには愛する者を守りたいというジエンイーの思いが込められた深い理由があり、見るものはやがてそれを知ることになる。さらに少年ヨウユーの父であり、ジエンイーのパートナーであった男との過去も描かれていき、視聴者に衝撃的な事実も明かされ、感動の涙を誘う。
これがミステリー方式ではなく、順を追って時系列に描かれると、ジエンイーに対して当然のことのように思う視聴者もいるかもしれないし、感動は薄くなると思われる。結果を見せてから、隠されていた事実を見せられることによって、より大きなカタルシスへと導かれると言えるだろう。
「親愛なる君へ」は贖罪を描いたヒューマンドラマであり、真実を後から明かすミステリー手法によって心の揺さぶりをさらに増幅させた感動作なのだ。ジエンイーが罪を認めたその真意とは、そして過去に何があったのか。その事実を知ったときに打ちのめされるような感銘を受け、涙を落とすだろう。
◆構成・文=牧島史佳
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