映画「僕と幽霊が家族になった件(Marry My Dead Body)」より

「僕と幽霊が家族になった件」から見る、台湾映画の“笑い”が演出するヒューマンドラマの魅力

2023.10.24 12:00
映画「僕と幽霊が家族になった件(Marry My Dead Body)」より

10月から台湾の名作映画を紹介する上映イベント「TAIWAN MOVIE WEEK」が10月13日から開催されるなど、近年盛り上がりを見せている台湾映画をWEBザテレビジョンでも特集。数ある名作の中から、台湾で旧正月映画として2023年2月に公開されて大ヒットし、興行収入3.6億台湾ドル(約16億円)を突破した「僕と幽霊が家族になった件(Marry My Dead Body)」を紹介する。タイトル通り死者との結婚を描いたファンタジーながら、笑って泣けてハラハラドキドキもさせてくれる、見どころがたっぷりのエンターテインメント作品となっている。

水と油の青年同士が"冥婚"することに!?

本作には水と油ぐらいに、相容れない2人の男性が登場する。1人は警察官のウー・ミンハンで、うだつの上がらないノンケの青年で一言で言うとノンデリカシー人間。思ったことをポンポンと言って同僚に煙たがられる場面も。

もう1人はゲイの青年のマオ・バンユー。地球温暖化やSDGsに関心がある意識高い系で、傷つきやすい繊細さを持っている。そんな正反対とも言える2人がひょんなことから生活をともにすることになる。はじめは反りの合わない者たちが徐々に距離を縮めていく王道の流れはやっぱり見ていて面白い。

ひょんなことというのは古くから伝わる習俗である"冥婚"(めいこん)。この"冥婚"というのは未婚のまま亡くなった若者を結婚させるもので、中国を始めとする東アジアや東南アジアに古くから見られる風習。台湾を含め一部地方の場合では、若者が未婚のまま亡くなると、遺族が本来ご祝儀を入れる赤い封筒“紅包”を路上に置き、拾った者は死者と形式上の「結婚式」を行わなければいけないのだとか。もしもそれを拒否すると、罰が当たり不幸になるという説もあるそうだ。

マオ・バンユーは若くしてひき逃げ事故で亡くなってしまっており、彼の祖母がマオ・バンユーの"冥婚"相手を探す。ウー・ミンハンは道端に落ちていた“紅包”を拾ってしまい、マオ・バンユーの"冥婚"相手となることに。

台湾の国民的人気スターがキャラクターを魅力的に好演

"冥婚"相手になったウー・ミンハンとマオ・バンユーだが、前述したようにまったくタイプが異なる男性だ。

警察官の無骨なウー・ミンハンを演じるのは、台湾で「新・国民的彼氏」と呼ばれるほど人気があり、「ひとつの太陽」や「時をかける愛」などで知られるモデル兼俳優のグレッグ・ハン。直情的ですぐに手が出るのはよろしくないけれど、ウー・ミンハンの愛嬌のある憎めなさをグレッグ・ハンが表情豊かに体現。驚いたり困り果てたり怒ったり、いつも一生懸命なところは愛らしくもある。犬柄パンツを履いてる姿はダサいけど、体格のいい体はカッコ良くてさすがモデルと面目躍如。

一方、ゲイの青年のマオ・バンユーに扮するのは「恋の病 ~潔癖なふたりのビフォーアフター~」「青春弑恋」などの若手実力派俳優リン・ボーホン。短髪直毛のウー・ミンハンと違って巻き毛のマオ・バンユーに扮した彼は柔らかい雰囲気が漂っている。野良犬に愛情を示したり、大好きな祖母に会って涙を流している様子は慈愛に満ちていて、グッと胸をつかまれる。グレッグ・ハンとリン・ボーホン、コントラストある彼らが出色で、賞レースも賑わせている。

随所にちりばめられた「笑い」により魅力的に演出されるヒューマン・ドラマ

そんな2人が生み出す笑いは本作の大きな魅力だ。マオ・バンユーはこの世に未練があって成仏できずにいるのだが、気の合わない彼が鬱陶しくてしょうがないウー・ミンハンは彼に早く成仏して消えて欲しい。そのために彼の願いを叶えてあげようと奔走するウー・ミンハンの姿がおかしい。マオ・バンユーはなんだかんだとウー・ミンハンに生意気な口をきいて、エコプロジェクトに寄付させたり、野良犬の世話をさせたりする。さりげなく時流を捉えた笑いを取り入れているところも本作が支持される要素のひとつだろう。

祖母の家に行って大好きな祖母と一緒に食事をしてマオ・バンユーは涙するが、それとは別に携帯を手に入れて、彼氏といちゃついている動画や画像などを削除するミッションをウー・ミンハンに与える。マオ・バンユーはウー・ミンハン以外の人には見えていないことを活かし、他の人間たちとのちぐはぐなやり取りがさらなる笑いを生み出す。マオ・バンユーの父親は彼の携帯にログインできずに四苦八苦するが、ウー・ミンハンはマオ・バンユーにパスワードを教えてもらえれば一発というわけでやすやすとログインできてしまう。しかし、それを父親たち家族の前で悟られずに、ログインできないふりをしながら、しれっと動画や画像を削除していく様子に笑ってしまう。

また、このシーンではかの「ミッション:インポッシブル」の有名なテーマ曲を彷彿とさせる楽曲が流れ、スパイ映画のような様相を呈する。パロディもセンスがいい。そうかと思えば、携帯の動画のあられもない声が漏れてしまい、ごまかすためにウー・ミンハンは辛い物を食べてあえぐふりをする。ドタバタシチュエーションで笑いを取ることも忘れちゃいないのだ。

問題を乗り越え育む友情物語&サスペンス・アクションのバディムービー要素も

ただ、この画像削除はマオ・バンユーが恋人の存在を家族に隠そうとしていることも意味する。マオ・バンユーは生前、父親とぎくしゃくしているふしがあったのだ。笑えるだけの作品じゃなく切ない人生の影の部分もちゃんと盛り込まれているのも特筆すべきポイント。しかも、父親は息子を単純に嫌っているわけではない。息子をひき逃げした犯人は誰なのか、突き止めようとしており、そこに父親の息子への愛を感じさせて胸を熱くする。

そして、ウー・ミンハンには、マオ・バンユーを成仏させるミッションをこなしながら彼と彼の家族たちと関わっていくうちに、マオ・バンユーとの友情が芽生えていく。あんなにマオ・バンユーを鬱陶しがって早く消えてくれと思っていたウー・ミンハンの変化にもまた心動かされる。

さらに、本作の見どころはこれだけでは終わらない。警察官であるウー・ミンハンは、マオ・バンユーのアドバイスもあって、ある事件の解決に乗り出していく。ここからはサスペンス・アクションとしての手に汗握るシーンを披露。緊迫したテンションで魅せながら、笑いも織り交ぜた緩急で楽しませ、心昂らせたままクライマックスへ。ラストには感動が待ち受けている。

笑って手に汗握って涙を流して、感動のジェットコースターとも言える本作。1つの作品でいろんな映画の良さがギュッと詰まった見応えに、きっと満足してもらえるはずだ。

◆構成・文=牧島史佳

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