「マスク時代」だからこそ、リップから始める。吉川康雄が語る新ブランド「UNMIX」への思い

「マスク時代」だからこそ、リップから始める。吉川康雄が語る新ブランド「UNMIX」への思い

2021.04.22 17:10

名品コスメが作られた裏側を探る連載「コスメ誕生秘話」。

第3回の今回は4月1日にブランドデビューした「UNMIX(アンミックス)」の「モイスチャーリップスティック」です。

2019年に惜しまれつつもブランドを終了した「CHICCA(キッカ)」のブランドクリエイターとして知られる吉川康雄さんが手掛ける新ブランド。今回は吉川康雄さんが「本当につくりたかった1本のリップスティック」と語る「モイスチャーリップスティック」ついて、お話を伺いました。

今回の名品コスメ

モイスチャーリップスティック

(UNMIX)

化粧膜を限りなく薄くし、“素の唇”が透ける透明感を持ったリップスティック。オリジナルのフォルムにより、直接塗るだけでプロのように仕上がる。質感は艶高い“グロウ”と、やや艶を抑えた“ステイン”の2種展開。

■ひとつひとつ商品を説明し、使う側とコミュニケーションをとっていきたい

――UNMIXのブランドデビュー、おめでとうございます! CHICCA(キッカ)からのファンで、発売をとても楽しみにしていました。CHICCA終了後はwebメディア「unmixlove」などで活動されていましたが、「UNMIX」はどのようにしてブランドがスタートしたのでしょうか。

CHICCAというブランドが終了した時に、それまで発信してきたことを、どのようにして続けていけるかを考えたのが、新しいブランドへの思いの始まりです。

だから、UNMIXで伝えたいことは僕の今までのメッセージを継承しているんです。今までより自分の考えをダイレクトに皆さんに伝えていけたらと思っています。

――たしかに、「モイスチャーリップスティック グロウ」はCHICCAのリップスティックの質感を踏襲しているように感じました。CHICCAのファンデーションに使われていたオイルも使用されているんですよね。CHICCAのスピリットを継いでいるように感じました。

そうですね。「グロウ」に関してはそんな感じです。

一方で「ステイン」はより色を楽しめるブランドにする意味合いで生まれた質感。ただ、はっきりと発色する中にも「極薄膜」が作り出す「透明感」にこだわっているので、発色しつつも肌の質感を見せるような、違和感が無い仕上がりが出来上がりました。

――「ステイン」を使ってみて、今まで“赤い口紅”に対する苦手意識が減った気がします。本当になじむ、まさに“血色リップ”ですよね。

ありがとうございます。UNMIXでは商品を一気にたくさん発売するのではなく、1点ずつ僕の思いと共に世に出していくことで皆さんに「この色はこういう意味なんだな」と伝えられたらと思っています。

商品を生む側と使う側のコミュニケーションをとりたいんですよね。そう考えたら「少しずつ商品を展開していこう」となったんです。今回なら、「赤が苦手な方も大丈夫ですよ」ということを、コミュニケーションを通して伝えたかった。

これから出していく新しい色や商品も、こだわりを感じていただいて、なにか新しい発見をしてもらえたらと思います。

――UNMIXがどんなブランドになるか、何となくイメージできてきた気がします。UNMIXの立ち上げには、やはりunmixloveの活動を通して得たことが関係してきているのでしょうか?

例えば、今の世の中の美容情報の中で生きていると、肌の色も姿形も年齢も、つい自分自身に否定的になってしまいがちです。誰かが決めた美に自分を当てはめたり、そうなることで誰かに褒めてもらおうと頑張る。

でも、ずっとそうしていると辛くなってきてしまいますよね。それぞれがもって生まれた素材や育んできたものを大切に思える美容であって欲しいなって僕はずっと思って来ました。

unmixloveでは世の中のいろんな人たちの人生を通して、自分にイエスって言ってあげられるいろいろな生き方や解決法があるということを世の中にドキュメントとして伝えていけたらと思い発信してきました。

この2年間プロダクト無しでメッセージを伝えてきたわけですが、UNMIXでは「結局何を使っていけば良いのか?」、言い換えたら、僕の考える自分らしさを素敵に演出できるプロダクトを多くの人に伝えていきたいです。

もちろん、既に世の中にあるものでも使い方次第でそこにたどり着けるのですが、テクが必要になって来ます。自分がせっかくプロダクトをつくれるのならそれが一番伝わるので。

unmixloveでいろいろな女性たちの「自分を大切にする」メッセージを伝え、UNMIXでそのメッセージを、僕の考えるプロダクトで伝えることを意識しています。

■コロナ禍だからこそ感じられる「唇のこと」

――unmixloveには本当にいろいろな女性のインタビューが掲載されていて、コロナ禍で自分と向き合う時間が増える中、とても影響を受けました。ちなみに、UNMIXの誕生にコロナ禍はどのように影響していましたか?

本当は2020年の秋にデビューする予定だったのですが……。ブランドを計画している時にはまだ新型コロナウイルスが流行していなかったんですよね。

コロナ禍でマスクを着けている状況の中で、いずれワクチンが出てきて、安心してマスクを外せるようになった時にデビューするブランドが口紅から始まったらちょうどいいんじゃないかなと考えたんです。皆さんの気分も上がるだろうし……と単純に。

でも新型コロナウイルスの流行がこんなに長引くなんて予想外でした。ブランドデビューを半年延期することを決めて、昨年末に、さらにもう1度延期するか、4月にデビューするか決断しなければならない時期が来たのですが、その時既に「来年の春にこの状況は変わっていないだろう」と感じていました。

そこで「ワクチンが出て、ある日マスクをしなくても良くなる“Xデー”を待つより、マスクをしているからこそ共有できる感情を大切にした方が良いのはないか」と気づいたんです。マスクで隠れてしまった唇の話ってたくさんの人と共有できるのではないかと。

口紅の大切さを考えるにはベストな時期なのではと思い、4月に口紅からブランドをスタートさせる決断に至りました。

――たしかに、「withマスク」になって最初のうちは「リップを塗らなくて良いから楽!」と思っていましたが、冬くらいからだんだん「やっぱりリップも楽しみたい」と思うようになりました。そこでUNMIXがリップからブランドをスタートさせるニュースが耳に入ってきてとてもうれしかったのを覚えています。

口もとに色が無いと顔全体がモノトーンになってしまうんですよね。リップメイクがあれば印象が華やぐし、やわらかく女性的になる。唇の役割ってとても大きいですよね。

コロナが長期化してできなくなってしまったことに対するストレスはたくさんありますが、こういう状況だからこそ、前向きに生きるモチベーションを上げるためにも“自分を感じて好きになる意味”が生まれてくるのではと思います。リップをつけて気分を上げてもらえたら嬉しいですね。

ブランドのスタートを2月に発表した時は喜んでもらえるか不安な気持ちで見ていたのですが、反響を受けて「やって良かった」と思いました。

――CHICCAのファンはもちろん、吉川さんのことを知っている全ての人にとって明るいニュースでしたよね。

伝えたいことはずっと変わっていないので、以前からのファンには伝わっているかもしれませんが、UNMIXではより多くの人にメッセージを伝えたいです。

世の中の女性の悩みって共通しているものがあると思うので、CHICCAを知らなかった人にも興味を持っていただけたら。やっぱり自信を持たずに過ごすには、人生は長すぎますからね。

■「モイスチャーリップスティック」でのこだわりは「透明感」

――UNMIXが発表された時、CHICCAとはパッケージの雰囲気が違うように感じました。そういう面でも新しい層に響きそうですよね。

CHICCAの時はスワロフスキーがあしらわれているフェミニンなデザインでした。でも、今回はニュートラルなデザインにしています。より多くの人たちが使いやすい、人それぞれの個性を邪魔しないパッケージを意識しました。

――CHICCAが終了してからUNMIXがデビューするまで、美容業界でもジェンダーレス化がずいぶん進みましたもんね。

unmixloveで取材する時にさまざまな方のオフィスや自宅に伺いましたが、いわゆる「女性の部屋」のイメージとは違っていて、性別とかよりも個性なんだなと改めて気づかされました。そこからもUNMIXではシンプルなパッケージデザインも良いのかなと思いました。

――これからの時代によりフィットしていきそうですね! 話は変わるのですが、「モイスチャーリップスティック」での1番のこだわりって何でしょう?

「自分の唇」をできるだけ透かして見せることですかね。これはUNMIXがこれから出していくアイテムに共通するアイデアです。透明感って言葉がありますが、「透明感って何?」ということを具体的に考えた時、それって「その人がいかに透けて見えるか」だと思うんです。

例えば「透明感がある」って10代の女性に使うことも多いですが、そういう子ってファンデーションもほとんど塗っていなくて素顔に近い。また、メイク以外の部分では「こういう時はこういうことを言うべき」みたいなのがなくて、ふっと自分の思いを言っちゃったりとか。そういう「本当の自分が透けて見える表現」も透明感といえると思います。

それをメイクに当てはめてみても、やはり「自分が透けること」になるのではないかと。今までのメイクってファンデーションを塗ったら「お化粧っぽい肌」になっちゃったり、人の肌に似てない仕上がりになってしまったりするものが多かったですが、僕のベースにあるのは「人という生き物は美しい」という考えです。

だからUNMIXのプロダクトは肌の艶も産毛も毛穴も全て美しいよね、ということが基本に作られています。人が元から持っているものを全て肯定し、それをきれいに見せるメイクであってほしいんです。

その中で今回のプロダクトは口紅なわけですが、唇の悩みっていっぱいあるじゃないですか。「小っちゃすぎる」「大きすぎる」といったサイズの話に始まり、「色が赤すぎる」「くすみすぎる」とか「縦ジワが気になる」とか。でもそれって唇以外の悩みとも共通項なんですよね。ただ場所が唇っていうだけで。

そういう皆さんが持っている悩みに対して僕の答えは「それぞれ持っている悩みの要素は、自分の個性として美しくアレンジしてあげたら良い」ということです。

それを実感してもらうために、まずは化粧膜をできるだけ薄くして全てを隠さない状態に。そうなると自分の好きじゃないくすみとかも出てしまうわけですが、そこに必要な色を加えてくすみ色を可愛らしい色に仕上げていく。さらに必要な艶感を足していくイメージです。

唇のサイズに関する悩みは、口紅を塗った時に違和感があることでより強調されます。その違和感は輪郭がはっきりするほど強まり、輪郭をぼかすことによって唇が顔になじみ、違和感がなくなります。その仕上がりを直塗りで簡単に実現できるよう、先端の形にこだわりました。

結果、塗った時に「なんか自分の唇きれいだな」って仕上がりになるように意識しています。「口紅がきれい」ではなく、「唇がきれい」というところが大切なポイントです。

例えば、赤い口紅は赤い唇になるためのものだけれども、UNMIXの「モイスチャーリップスティック 01 レッドローズ」は、見たままの赤い唇になるためのものではありません。

この色が唇の色と合わさった時にほどよく血色を与えることを目指しているので、見たままの赤い色にはならないのです。それが今までの口紅とはまったく違う点かと思います。

――たしかに、“レッドローズ”を先行発売で購入した際、店頭のスタッフが「レッドローズを使うと自分は青みピンクに発色する」とおっしゃっていました。

そうですね。その人が元々持っているくすみと合わさって発色するので、全ての人が違った仕上がりになると思います。

――あと、先ほどリップスティックの先端の形についてお話しいただきましたが、リップって直塗りするのが1番楽なので、そのようなこだわりはユーザーにとってとても親切ですよね。

実は10年前くらいからいろいろなブランドで登場していたものなんですけど、僕はこの形は新しいスタンダードだと思っているんです。

リップメイクのトレンドって変わってきていて、昔はリップライナーでしっかり輪郭をとるのが主流でしたが、近年は自然に仕上げるために、ラインを描いてもぼかすのが当たり前になり輪郭をはっきり描く人はほとんどいなくなっていますよね。

この形で直塗りすると、誰でも輪郭がソフトに仕上げられるんです。僕の求める仕上がりにこだわったらオリジナルのカーブの角度になっちゃいましたが(笑)。

■ブランドを通して、皆さんと一緒に新しい美容の価値観をつくりあげたい

――UNMIXのブランドのスピリットから考えると、「モイスチャーリップスティック」は“いつでも”“みんなに”使ってほしいプロダクトといえそうですね。

そうですね。人間の肌とって好ましいとされる状態にするために、脳が肌状態を感知して、皮脂の分泌などの調整をしているわけだから、僕は、素肌でもメイク時でも出来るだけ一定の肌状態にするということ、メイクアップ・ベースメイクを含めて「スキンケアをしている肌表面の状態に限りなく近づけること」が大切だと考えています。

だから昼のメイクアップの仕上がりもしっとりとして乾いていないことが重要。そのような仕上がりになるように、ポイントメイクにもスキンケア成分を入れています。今回のリップスティックに関しても、保湿成分が多く入っているんです。

メイクアップアイテムだから唇をきれいに見せるというのはもちろんですが、「手入れするためのもの」としても手に取ってほしいと思います。

――塗った時、たしかにうるおいを感じます! 今後はリップケアとしても「モイスチャーリップスティック」を使っていきたいと思いました。ところで、これからは毎月1本ずつ新色が発売されるんですよね。今後はしばらく毎月1本のスタイルが続く予定ですか?

はい。ほぼ毎月1色、または新色に加えて新しいプロダクトを展開していく予定です。今は7月まで新色が発表されていて、今後のカラーも準備しているところです。

そして秋ごろに次の発表会を開こうと考えているのですが、その時には新しいプロダクトもある予定です! ユーザーが圧倒されないくらいの、コミュニケーションがとれるペースで発売していきます。

季節によってその時の気分があると思うので、そんな気持ちにそえる色をその時々で出していきたいです。

例えば7月には“フィグ”という夏の光のきらめきと影をイメージした色。見た目はダークなのですが、付けると透けるので、程よく深みを感じつつ自然に仕上がります。その他どの色も自然に溶け込む仕上がりを楽しめると思いますよ。

――今後の色展開が楽しみです! リップスティック以外では今後どのような商品を計画しているか、教えていただけますか?

直近の新商品は秋になると思うのですが、ジェルアイライナーを予定しています。「アイライナーの元々の役割って何だろう?」というところまで掘り下げて、「アイラインを見せる」ためではなく、目の存在を引き立てる役割をさりげなく果たすようなアイテムです。

来年はアイメイクとかいろいろ計画していて、最終的にはフルラインナップになる予定です。

ただ、UNMIXのアイテムだけを使って顔を仕上げるのではなく、UNMIXの顔に違うブランドのアイテムなどをプラスするなどして、いろいろとアレンジしていく化粧の楽しみも味わってほしいと思っています。

――えっ! 最後のお話が衝撃的です……(笑)。作る側なのにそんなふうに言っちゃっても大丈夫なんですか?

UNMIXから出てくるのは僕の考えるコンセプトに沿ったものだけですが、それが化粧の全てではないし、僕が撮影などで他のブランドのアイテムも使うのと同じ感覚ですよね。

――なるほど。リアルにより近い感覚ですね。

ブランドを好きになってくれることはうれしいけど、そこで女性を縛りたくないと思っています。気分によってキラキラのものをつけたい時とかもあるじゃないですか(笑)。そういったことを楽しんでほしいです。

――UNMIXから今後発売されるアイテムを手に取るのがさらに楽しみになりました! 最後に、UNMIXを通して世の中に伝えたいことを教えてください。

今までの美容の歴史がつくりあげてきたスタンダードって数千年前と基本が変わっていないと思うんです。顔にペイントして自分が変わるという発想から始まったから自然に仕上がらない。

だけど変身するという意味合いを持った化粧という言葉で、その不自然な矛盾に気づかなかったのかもしれません。もし人の魅力が消えてしまわないメイクを広めることが出来たら、自分が持っているものを肯定できるような美容の価値観に変わっていけるスタートになると思うんです。UNMIXというブランドを通してそういうメイクを伝えてきたいです。

このブランドを通して皆さんと一緒に新しい価値観をつくりあげていきたいと考えています。

――ありがとうございました!

■商品情報

・UNMIX モイスチャーリップスティック 全2種 全4色 各3,960円

HP:https://unmixbeauty.com/

(撮影:洞澤佐智子、取材・文:照井絵梨奈/マイナビウーマン編集部)

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