夫の不倫を容認する妻。ドラマ『1122 いいふうふ』に描かれたセックスレス夫婦のリアルな心情から見えたもの
浮気や不倫、セックスレスといったテーマは、私たちにとってあまりにありふれていて、自身や友人が経験したことがある人も多いことでしょう。そうでなくとも、ニュース、ドラマ、SNSなど、あらゆる媒体で見かけるものであり、誰しもにとって身近であることは、間違いないでしょう。
私たちの恋愛や結婚に、浮気やセックスレスは「付き物」なのかもしれません。しかし多くの場合、それは不幸の象徴であり、巻き込まれれば最後、その人の人生そのものが破滅する場合も……。だけどもしも、浮気やセックスレスをポジティブに捉えている人がいたら、どうでしょう。昨年話題になった、セカンドパートナーという新しい概念。恋人やパートナーの他に、セカンドパートナーがいたら……どんな暮らしになるのでしょう。
2024年6月14日からPrime Videoで配信開始された、高畑充希×岡田将生によるW主演ドラマ『1122 いいふうふ』は、そんな「公認不倫」を軸にストーリーが展開されていきます。
■身体関係がない夫婦。だけど、愛情はある
セックスレスだけど、パートナーとしてはいい関係の夫婦。だけど……夫である二也(岡田将生)は、毎月第3木曜日に妻・一子(高畑充希)の承知のもと、恋人と過ごしているのです。結婚7年目の2人は、お互いの関係を良好に保つために「婚外恋愛許可制」を取り入れており、お互い「家には恋愛を持ち込まない」ことを条件に、パートナー以外の異性と関係を持つことを了承しています。
世の中では「夫婦仲を壊す悪の象徴」として語られることが多いセックスレスや不倫ですが、『1122 いいふうふ』のストーリーの中では、もっと曖昧なものとして描かれていきます。
例えばセックスレスだって、日常の中で「なんとなく」そうなってしまうものであり、セックスレスが不仲の原因に直結しない場合もあります。パートナーとしてのコミュニケーションは身体のつながりだけではないですし、市子と二也も、セックスはなくともパートナーとしてお互いを支え合っています。
誰しも最初は恋愛感情から結婚を意識するものですから、最初は「恋愛感情のないパートナーシップ」の想像がつかないのかもしれません。どちらかが疲れている日は、元気のある方が食事を用意する。病気や怪我をした時は、問答無用で手を差し伸べる。お互いの家族との問題も、パートナーがいることで向き合える場合もあります。本作を観ていると、夫婦というものは恋愛感情だけで成り立っているわけではないことが分かるはずです。
■友人の身の上話かのように、リアルに語られる「不倫の現実」
とはいえ、自分以外の相手に恋愛感情を向けていることを容認するのは、話が別だと考える人もいるでしょう。たしかにその通りです。「浮気するなら隠れてやれ」という意見を持つ人が多いように、結婚という契約を結んでいる相手が、不倫という法を犯す行為に及んでいるのを認めるのは、たしかに簡単なことではないように感じます。そして実際、市子もストーリーの中でそんなモヤモヤを少しずつ抱え込んでいきます。
だけどどちらかだけが公認不倫していいなんて、ずるいですよね。一子と二也の「婚外恋愛許可制」は両人に適用されているので、毎月第3木曜日に夫を送り出す妻にも、その権利があります。だけど市子は自身も公認不倫に乗り出すことに、少し後ろめたさを感じています。そんな市子の細かい心情の描写、そして移り変わりは、本作の見どころの一つでもあります。
さらに、市子以外に「好きな人」がいる二也の気持ちも、非常にリアルに描かれます。もちろん、それ以外の登場人物についてもです。まるで小説を読んでいるかのように、人物の心理に焦点が当てられていく作品です。BGMも少なめで、まるで静かなカフェで友人の身の上話を聞いているかのような感覚です。
公認不倫を認めている妻の気持ち、そして公認不倫している夫の気持ち……フィクションではありますが、作品を観ると想像が追いついていきます。特に、女性にとっては夫・二也の気持ちがより新鮮に映るのではないかと思います。
公認不倫していても、好きな人がいても、妻は妻。だけど、不倫相手も同じ気持ちを持っているとは限りませんから、ストーリーの中では二也の苦悩も描かれていきます。夫婦、そして不倫相手、不倫相手のパートナー……それぞれに事情や想いがありつつも、なんとかバランスを保っていることが分かります。
■不倫相手が悪なのか、不倫させる妻が悪なのか?
「不倫」というありふれたテーマは、自身が経験するにしろ、友人から話を聞くにしろ、多くの場合は誰か一人の主観によって語られることが多いと思います。単純な不倫をされた妻から話を聞く場合、夫や不倫相手はただの悪人です。逆に、不倫相手から話を聞く場合は、相手のパートナーが悪役として語られることが多いのではないでしょうか。
本作に登場する人物たちの感情に耳を傾けてみて感じたのは、不倫が起こる時、誰かが悪いわけではない場合もあるということです。日常を共に過ごしていく夫婦は、ちょっとしたことですれ違ってしまうものですし、心を痛めている時の出会いに、溺れてしまうこともあるもの。
結婚していたって、誰しもが心を強く持てるわけではありません。時に、パートナー以外の誰かに救いを求めてしまうこともあるでしょう。逆に、パートナーにより多くを求めてしまう人もいます。
不倫はたぶん、誰かの「心の弱さ」によって招かれる場合も多いのでしょう。だって、誰もが強く生きられたら、結婚という契約はあまり必要がないもののような気もします。私たちは弱い、だからこそ結婚して、誰かと支え合いたいと考えるのです。それはとても自然なことだと感じますし、だとすると、本作の中に「悪人」は登場しないのです。浮気・不倫を「社会悪」と捉えていた人も、作品を見ることでその価値観が変わるかもしれません。
でも、許してしまえば社会は不倫で溢れてしまうような気もしますね。だけど、作品に登場する人物たちも、必死にもがいています。『1122 いいふうふ』の主題は、不倫を許す・許さないという話ではなく、長年生活を共にしていくパートナーとどう向き合っていくのか、だと思います。
結婚している人も、まだ結婚していない人も、ストーリーを追う中で「私もいつかそうなってしまったら」と、不安になるかもしれません。だけど、誰かと一緒に暮らしたいという思いを持つ人なら、誰しもに関係があるテーマであることは、間違いありません。
作品を視聴する時はぜひ、誰が悪いのかではなく「自分だったらどうするか」を考えてみてください。パートナーがいるなら、一緒に視聴してみるのもおすすめです。人によって意見が別れる作品ではあると思いますが、だからこそ、周りの方と意見交換してみるのも面白いと思います。
不倫やセックスレスといった自分にとっても身近なテーマとどう関わっていくのか、どんな人とならその問題に取り組んでいけそうか……自身を振り返るきっかけにもなるはずです。
(ミクニシオリ)
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