芸術品級の古便器に息をのむ! INAXライブミュージアムの新施設、「トイレの文化館」を徹底リポ
愛知県常滑市にある「INAXライブミュージアム」に、2025年4月、新たな施設がオープン。「トイレの文化館」には日本のトイレの変遷を知る、江戸時代~現代の貴重な資料が集結! 県内の常滑や瀬戸で作られた陶磁器作品の数々に魅了されます。
企業ミュージアムの宝庫・愛知県で、今回訪れたのが常滑市にある「INAXライブミュージアム」。

知多半島の中ほど、伊勢湾に面してある常滑市は、日本六古窯の1つに数えられる歴史ある焼き物の里です。ここでは、豊富な粘土資源を利用し、主に甕(かめ)や壺(つぼ)などが生産されてきました。

日本六古窯の1つ、常滑で生まれた「INAX(現LIXIL)」のミュージアム
この常滑で代々続く、常滑焼の名工の家に生まれた四代・伊奈長三郎の長男・初之烝と、その息子・長太郎は、帝国ホテル二代目本館(ライト館)の煉瓦やテラコッタを製作する「帝国ホテル煉瓦製作所」に技術顧問として招かれました。
彼らは建築家フランク・ロイド・ライトの厳しい要求に応えて国内外で高く評価され、その後「伊奈製陶」を創立。これが後の「INAX」となりました。現在は、「LIXIL」の水まわり製品を中心としたブランドとして、国内外に広く知られています。

常滑駅から、道中に展示されている常滑焼の壺やオブジェを撮影しながら歩くと、約25分でINAXライブミュージアムに到着します。

こちらは土と焼き物をテーマに、見て、触れて、学べる、体験・体感型ミュージアムです。

四季折々の花や木々で彩られた敷地には、7つの建物が点在しています。特に、大正時代に建てられた土管工場の窯と建屋、煙突を保存・公開する「窯のある広場・資料館」は、木造の小屋組みや煉瓦造りの窯が見どころです。

まず、窯の中では、土管の窯炊きの様子をプロジェクションマッピングで体感できます。

そして、研究家が常滑市に寄贈した紀元前から近代までの6000点を母体に、7000点以上に及ぶ世界の装飾タイルコレクションから選りすぐられたタイルが国や地域ごとに大別されて壁一面に展示されたり、空間を復元している「世界のタイル博物館」。

ここでは、タイルの前身であるクレイペグという円錐状の焼き物を当時と同じように手作りし、5500年前のメソポタミア地域(ウルク)の装飾壁を再現した展示や、12種類の形と7色のモザイクタイルを組み合わせて再現したイスラームのタイル張りドーム天井の空間などを堪能できます。

さらに、大正から昭和初期の建築用タイルやテラコッタの逸品を展示する「建築陶器のはじまり館」などもあります。常滑焼やタイルに興味がある筆者は、これらの胸躍る展示施設が並ぶ様子に時間を忘れて見入ってしまいました。

日本のトイレの歴史をひもとく「トイレの文化館」がオープン
今回最も楽しみにしていたのは、2025年4月にオープンしたばかりの「トイレの文化館」です。「LIXIL」の水まわり・タイル部門100周年(※)を記念し、7つめの館として開設されました。

こちらは、約50点の実物と豊富な資料で、江戸時代から現代までの日本のトイレの変遷を辿る、国内でも大変貴重な資料館です。日本の時代背景や、西洋のトイレ文化が与えた影響も知ることができます。

まず目を引くのは、明治後期の陶磁器製 染付古便器のインスタレーションです。これらは全て六代目加藤紋右衛門の作品で、その美しいフォルムと染付は、まさに日本が誇る芸術品といって過言ではありません。牡丹や鳥などの絵柄が外側にも内側にも丁寧に描かれており、思わず息をのみます。

日本のトイレの始まりは木製のおまるですが、当館では絵図面から復元した江戸城本丸の樋箱(ひばこ)を展示しています。畳の下に引き出しを仕込み、鳥居のような形の衣隠しを背にして着物をかけ、用を足した当時の様子がうかがえます。

江戸時代末期になると、耐久性や清潔さの面から、主に常滑や瀬戸(愛知)などで陶磁器製の便器が作られるようになり、その後、明治24年(1891年)の濃尾地震をきっかけに、陶磁器製便器は広く普及していきました。

美しい染付けが施された古便器は、主に料亭や旅館、富豪の屋敷の客人用に設けられました。同様に、足を乗せる厠下駄にも美しい染付けがなされており、こうした空間にさえも美しさを求めた日本の奥ゆかしい文化に感激しました。

陶器製古便器の展示は本来ここまででしたが、「もっと多くの作品を見たい」という声を受け、今年8月、「窯のある広場・資料館」2階に展示スペースが拡大されました。
芸術品! 美しく染められた明治・昭和初期の古便器

ここでは、明治時代から昭和初期に瀬戸で作られた陶磁器製の染付便器18点が追加展示されています。

大便器の金隠し(※前方に設けられた半球状のカバー)だけでなく、内側や縁にまで細やかな絵付けが施された作品は、粋を感じさせるものばかりで、古便器の世界に一気に引き込まれました。

一方、「トイレの文化館」の次の章では、イギリスで生まれた水洗トイレが日本に渡った後の変遷を辿ります。

明治後期~戦前、スペイン風邪の世界的流行により便器に清浄性が求められ、白い便器が主流となります。集合住宅(団地)の増加という時代背景もあり、狭小空間に対応するため、大小両用・水洗化が進み、やがて、機能性、快適性を兼ね備えた現代のトイレへと進化を遂げました。

日本のトイレの清潔さや快適性は世界的にも知られていますが、この展示を通して、当時の便器の芸術性の高さも知ることができました。現代においても、「清浄さ=白」という考えにとらわれず、もっと自由でアートなトイレがあってもいいのではないかと感じました。
豊富な体験メニューに、トイレにちなんだお土産も!

「INAXライブミュージアム」は見るだけでなく、豊富な体験メニューにも定評があります。筆者は予約不要でいつでも体験できる「タイルdeリース」作りに挑戦しましたが、ほかにも、予約制の「プチトイレ絵付け」や大人気の「光るどろだんごづくり」(60分で1個1200円)など、全7種類が用意されています。
最後にミュージアムショップで、お土産を選びました。さまざまなグッズが並ぶ中で、トイレにちなんだお菓子「トイレの最中(さいちゅう)」を発見。これは、トイレの形をした最中皮に、自分で餡子(あんこ)を詰めていただくものです。
そのユニークな見た目だけでなく、常滑の老舗和菓子店「大蔵餅」が手掛ける餡子と最中皮のハーモニーは絶品でした。
日本遺産といっても過言でない、江戸時代からの染付古便器が一堂に集まる新施設は、海外からも脚光を浴びています。「便器は白」という固定観念が覆されるとともに、便器にも美や快適性を求めるという、古き良き日本のおもてなし文化を感じることができました。
※伊奈製陶株式会社は1924年設立
「INAXライブミュージアム」
・住所:愛知県常滑市奥栄町1-130
・TEL:0569-34-8282(体験教室専用電話:0569-34-6858)
・開館時間:10:00~17:00
・休館日:水曜(祝日は開館 ※2025年12月24日(水)は特別開館日)
・入館料:大人1000円、学生800円、中高生500円、小学生250円、シニア(70歳以上900円)
・交通アクセス:常滑駅から徒歩25分、またはタクシーで約6分
執筆者:塩田 典子(一人旅ガイド)
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