実は“日本ならでは”? 韓国でも話題になったドキュメンタリー映画に見る「日韓の小学校文化の違い」

2025.05.01 20:35
提供:All About

第97回アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞にノミネートされた山崎エマ監督の映画『小学校 ~それは小さな社会~』。韓国でも映画賞を受賞している。韓国の人はこの作品のどんなところが印象的だったのだろうか。そしてそれはなぜだろうか。

山崎エマ監督が1年間にわたり公立小学校でカメラを回したドキュメンタリー映画『小学校 ~それは小さな社会~』は、韓国でも高く評価され第21回EBS国際ドキュメンタリー映画祭審査員特別賞を受賞している。

韓国の人はこの作品のどのようなところが印象的だったのだろうか。そしてそれはなぜだろうか。韓国の学校文化を知ると、その答えが見つかるかもしれない。

韓国でも話題になったドキュメンタリー作品

韓国の友人が「ねえ、日本の小学校ってどこもああいう感じなの?」と尋ねてきた。山崎エマ監督の映画『小学校 ~それは小さな社会~』を鑑賞してのことだった。

第97回アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞にノミネートされた作品で、日本のある公立小学校に通う子どもたちと教師の1年間を記録したもの(ノミネートされたのは映画の短縮版『Instruments of a Beating Heart』)。

韓国では、第21回EBS国際ドキュメンタリー映画祭審査員特別賞を受賞しており、現在EBS国際ドキュメンタリー映画専用サイトにて視聴できる(有料)。その友人は、「すごく日本的な繊細さを感じた」と述べながら、そこで見た日本の小学校の様子と、彼女が持つ日本人のイメージがぴったりリンクしたと話してくれた。

彼女にとって特に印象的だったのは、何度も練習を繰り返して皆で完成させる行事の在り方、そして毎日の教室の掃除だったという。韓国の学校ではあまり行われない事柄であるだけに新鮮に感じたようだ。

筆者もEBS媒体で公開されてすぐ視聴しており、彼女が特に印象深かったと語った場面は、同じように胸打たれた。小学生のとき、筆者も毎日、毎年繰り返してきたこと。けれど、大人になって海外で暮らす者の視点で改めて日本の小学校を見つめたとき、新しい発見と感動を持って胸に迫ってくるものがあったのだ。

一緒に見ていたわが家の子どもたちは、日韓両方の学校に通った経験があることから、「そうそう、日本の学校ではこうなの。ここは韓国と全然違うんだよね」などと、時に懐かしそうに、それぞれの国での学校生活の違いを話してくれたりもした。子どもたちの視点を通して再発見できたことも多い。

日本の学校と韓国の学校は似ているのか

さて、冒頭で登場した韓国の友人が、筆者に日本のことを尋ねるように、日本の友人からは韓国の学校について聞かれることがある。そもそも韓国は日本による統治期があったため、教育制度や学校の在り方にもそのことが大きな影響を及ぼした。

そのため現代でも日韓の小学校では似通った部分が少なくない。6-3制や、履修科目などの基本的な制度だけでなく、集団としての風紀・秩序を重視する点などにおいても共通点は多い。時代の変化とともに、個人を尊重する風潮になってきた点も似ているかもしれない。しかし、当然多くの違いもある。

いずれの国でも、それぞれの理由と事情で現在の教育スタイルが採用されているわけであるから、優劣をつけるものではないことを述べたうえで、韓国の学校の様子、特に日本とは異なる点をいくつか列記してみようと思う。

お隣の学校の様子を知ることで、海外では当たり前ではない、日本ならではの文化や風習が自ずと見えてくるかもしれない。

韓国の小学校では

では、韓国と日本の小学校で異なる点をいくつか紹介しよう。

・集団登校ではなく、各自登校。下校後のルールはなし
指定された通学路はなく、誰と一緒に登校するかに関する決まりはない。下校後は家に帰らず、そのまま遊びに行くことも可。

子どもが校門を通過すると、親の携帯に通知が入るサービスを利用していたり、スマホの位置確認機能で子どもの場所をいつでも把握できるようにしていたりする家庭が多い。下校後すぐに塾に行く子どもが多いため、校門には生徒を送迎するための塾の車や先生が待機している様子は日常の光景。

・通学カバンは自由
公立小学校は学校指定のカバンはない。一般的にはリュックサックを使用。色・形などに関する規則はない。

・教科書は学校に置いておく
全教科、教室にある各自のロッカーや本棚で保管。もちろん持ち帰るのは自由。教科書は自宅のPCでも閲覧可能。

・号令の仕方はさまざま
始業、終業のあいさつの仕方は、学校や先生の指導方針により違いがある。起立、あるいは着席したままあいさつをすることもあれば、特にあいさつはせず、そのまま授業が始まり終わる場合もある。

・体育がある日は朝から体操服で登校
教室で着替えることはない。体育館シューズに履き替える学校も少なめ。体操服以外に、各クラスのTシャツやトレーナーなどを作り、運動会や社会見学に出掛ける際に着用する。

・入学式、卒業式、運動会などの準備期間は短め
学校行事の練習に数カ月かけて取り組むことはあまりなく、準備をする場合もごく短時間で済ませる。運動会の進行は先生ではなく、委託した外部の業者から派遣されたプロの司会者が担当することが多い。

・家庭で準備をしなくてはいけない学用品が少ない
学校から支給される学用品が多いため、入学時、新学期に準備せねばならない文具や教材は少なめ。持ち物の名前書きは推奨はされるが、各自に任されている。

・給食の配膳は調理員が行う
給食室に移動して昼食をとる。配膳は給食の調理員が担っており、生徒は順番に並び、各自自分のプレートにおかずをよそってもらう。おかずの種類は平均6~7種類ほどで比較的ボリュームあり。

・掃除は業者が担当
教室、廊下、階段などの掃除は外部に委託している業者が行う。生徒は自分の机とその周辺の掃除のみ担当。卓上用のミニほうきやウエットティッシュは新学期に必ず用意すべき持ち物(学校から支給されることもあり)。

・宿題は少なめ
教育熱の高さでも知られる韓国だが、実は学校の宿題は少ない。その代わり塾の宿題で大忙しという子どもが多い。

・入学式・卒業式の服装はわりとラフ
特別な式典のために、皆がそろって着るような定番の服装はない。正装する場合でも、人それぞれ好みの色、スタイルのものを着用。そのため、入学、卒業シーズンに、百貨店などで式典出席のためのフォーマルコーナーが特設されることもない。

もっと知りたい、韓国の小学校

以下はドキュメンタリーでは登場しない学校関連のトピックだが、興味深い(かもしれない!)韓国事情でもあるので引き続き5つ紹介しよう。

・学校に携帯電話、財布を持参
校内では基本的に使用不可だが、携帯電話を持参して登校するのが一般的。下校後そのまま塾に行く子どもが多く、財布も持参可。デビッドカードを所有している子どもが多い。

・先行学習するのが当たり前
就学前から学習塾に通う子どもが多く、学校の授業はほぼ復習という生徒も多数。特に数学と英語(3年生から履修)は1学年分以上の先行学習を済ませている生徒がいても珍しくない。

塾に通っていない子どものほうが少ないので、下校後毎日友達と遊べる、という子どもは少なめ。

・部活の種類は少ない。有料の放課後授業あり
学校が強化・支援する運動部が1~2つほどあるが、各学校で種目は決まっている。活動は週2~3回ほど。複数の選択肢の中から生徒が選んで参加できるものに「放課後授業」がある。外部から講師を呼んで開催する有料の講座だ。

なわとび、バドミントン、コンピューター、歴史、美術、漢字、バイオリン、フルート、ロボット科学、囲碁など、種類もさまざま。参加は自由。

・保護者同伴の旅行および生理痛による欠席は出席扱いとなる
「保護者同伴体験学習」という名目で、事前申請と事後報告書を提出すれば、年間15~20日まで(自治体による異なる)出席扱いとなる休暇の取得が可能。

また、小学校でも月1回まで生理休暇が認められており、申請書を出すことで出席扱いとなる。

・プールはなく、エレベーターはある
施設に関する大きな違いといえば、プールの有無。プールがある小学校は韓国にはほとんどない。2014年のセウォル号沈没事件以降、水難事故の対処法を学ぶ必要性が提起されたことで、2019年から水泳の授業が必修となった。

実技の授業時間は7時間ほど。学校の近くにある市民プールや水泳塾を利用して授業が行われる。

また、2008年に施工された「障害者差別禁止法」施行後、エレベーターを設置する小学校が増加しており、主に体調不良や骨折、車椅子の使用など、階段の利用が困難な子どもたちに都度利用が許可されている。

先生と生徒の関係性に関しては日韓で共通する点が多い印象だが、韓国ならではの事情も多くあるので、またいずれ機会があれば執筆したい。本稿では特に日本とは違いが大きい部分を紹介したので、韓国の人が『小学校 ~それは小さな社会~』を興味深く鑑賞していることに「なるほど」と思っていただけたのではないだろうか。

ずいぶん長くなってしまったので、最後に個人的な感想を一言だけ。筆者も、子どもたちも、日本の学校を経験したからこその“気付き”があったわけで、そのことは普段意識せずとも日々の生活に生きているのだと、『小学校 ~それは小さな社会~』に出会い、そのことに気付くことができてよかった。最近しみじみとそう思っている。

<参考>
映画『小学校 ~それは小さな社会~』 公式Webサイト

※EBS(韓国教育放送公社)は韓国の教育専門の公営放送局

松田 カノンプロフィール

在韓18年目、現地のリアルな情報をもとに韓国文化や観光に関する取材・執筆、コンテンツ監修など幅広くこなす。著書に『ソウルまるごとお土産ガイド(産業編集センター)』などがある。All About 韓国ガイド。


執筆者:松田 カノン(カルチャーライター・コラムニスト)

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