さつきデザイン事務所代表・榎原理絵さん、自身のがん闘病からケアプロジェクト インクアートをコミュニケーションの場に

アートを介して闘病者やその家族をケアするプロジェクト「アトリプシー」。企業などのクリエイティブ支援をするさつきデザイン事務所(大阪府豊中市)の代表である榎原理絵さんが、自身のがん闘病経験をもとに、闘病者や家族と社会の間に入り、アートとケアの視点からサポートする取り組みとして始まった。ワークショップの開催や、百貨店での展示販売など活動の幅を広げている。
(藤本祥子)
抱えた揺らぎ
榎原さんはシステム会社や繊維商社で働いたのち、独立して17年にデザイン事務所を設立。21年4月に表現やデザインについて改めて学びたいと、京都芸術大学の大学院に進学したが、入学後すぐに乳がんのステージ2と診断された。東京芸術大学の「ケア×アート」をテーマとした履修証明プログラム「DOOR」でさらに学びを深めた後、24年にアトリプシーを立ち上げた。「自分の闘病経験を大変だったで終わらせるのではなく、自分と同じように言葉にならない揺らぎを抱えている人や、誰にも相談できない日常事を話せるような機会を作れないかと考えるようになった」という。
アトリプシーは、ケア、コネクション、コミュニケーションの英頭文字を取った三つのCと、アートを掛け合わせて名付けた。インクアートのワークショップやプロダクト製作、展示販売の場作りの3本柱で活動している。インクアートを選んだのは、「治療で不安が募るなか、娘とインクアートを描く時間が心の支えになった」実体験からだ。ワークショップでは、言葉にできない気持ちを絵で表現してもらう。「思い通りにならないにじみや偶然をそのまま受け取って、絵を介してコミュニケーションする場」を作る。

25%を還元
24年からアトリプシーの考えに共感してくれたがん闘病者とともに、スカーフを作って販売するプロジェクトを進めている。それぞれが表現した鮮やかなインクアート作品をもとに、榎原さんがデザインを起こし、スカーフにプリントしている。価格は税込み1万4850円からで、素材により異なる。ほかにも、作品の絵柄を生かしたウィッグバッグやハンカチ、コースターなどもある。
「医療や福祉の用途ではなく、使った人が少しでもうれしくなること」を重視して製品化している。「治療は想像以上にお金がかかる。検査結果が良かった時のちょっとしたご褒美に使ってほしい」と、売り上げの25%を作品の制作者に還元しているのも特徴だ。
公式ECのほか、「大阪アート&デザイン」の期間中の大丸梅田店や、阪急うめだ本店のインクルーシブデザイン視点のブランドを集めたイベント「ささやかな身支度展+」などで、インクアート作品やアイテムを展示販売してきた。
今後については、「アトリプシーの取り組みを続けること」を最優先とする。ワークショップの継続的な開催や販路の拡大とともに、「協業相手の持つ技術や文化とアトリプシーの考えが重なる形」での協業もしていきたい考え。

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