ジンズ、グローバル旗艦店に「和」とアート 白の左官壁と現代彫刻の意外性

8年前から愛用しているジンズの眼鏡のニュートラルなデザインが気に入り、手元用として欠かせない。視力を補う眼鏡とファッションアイテムとしての眼鏡はなかなか融合せず、どこか不満を残したまま身につけている人も多いのではないか。その点、ジンズは風格とは別の、身につけた時の心地よさとデザインをほどよいバランスで保つ。今年3月にオープンした銀座4丁目のグローバル旗艦店は、何よりその肩の力の抜けた意外性で意表をつく。
息づく「和」の感性
銀座はラグジュアリーと勢いのあるスポーツブランド、ファストファッション、日本の老舗とくまなく揃い、いまだ発展する街並み。ここで引くか押すかは考えようだが、「引いて押す」戦略を取ったのは面白い。設計者は藤本壮介。近代日本建築の巨匠アントニン・レーモンドによる名建築、教文館ビルに白の外壁を巡らせた。白の左官材にミラーの破材を混ぜて磨き上げ「和菓子を包む和紙」がコンセプト。上品な輝きに満ちた白壁は周囲の装飾を拒否して、逆に強いインパクトを与える。ロゴの赤と白壁、わずかに丸みを持たせたフォルムは内に何があるのかと好奇心をくすぐる「和」の感受性が息づいている。
記憶に残る空間体験
眼鏡屋らしからぬたたずまいもそうだが、地下1階から1階の吹き抜けに常設展示された名和晃平の代表作、高さ5メートルの『Snow-Deer』もまた意外である。貴重な現代彫刻がここにある不思議。アルミニウムに真珠色の塗装を施し、白い空間に現れた鹿は溶け込むかに見えて逆に輪郭を浮き立たせ、存在感がありながら、危うさに満ちたワンダーワールドへ誘い込む。この浮遊感覚はひとときの安らぎとともにある。
実はジンズのCEO(最高経営責任者)であり、現代アートのコレクターである田中仁は、今年9月にキック・オフする「第一回前橋国際芸術祭2026」の実行委員会の実行委員長・総合プロデューサーを務める。たどれば前橋市には藤本壮介の「白井屋ホテル」があり、館内の現代アートの展示はこのホテルを特異な建築に変えた。ここに銀座旗艦店の伏線があり、さらにCEOの故郷、前橋市の官民一体のプロジェクトに発展する踏み台が用意された。建築とアートの揺らぐ関係を考える時、それぞれの独立した意味よりも、見る人によって化学変化を起こす個人的な体験の残す痕跡のほうが重要に思える。提供するものが実用的な商品でも、そのランドマークである建築と彫刻によってもたらされた空間体験は強く記憶に残ってしまい、再訪を促すのである。
(フリーランスエディター・小林貴生子)
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