映画『国宝』は本当に大傑作なのか? 吉沢亮が成功の立役者? 映画ライターが「人気の裏側」を考える

2025.07.28 20:15
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映画『国宝』が社会現象になっています。3時間近くある長編でありながら、興行収入は68億円を突破! 歌舞伎界を舞台にした本作は、どこがそれほど人を惹きつけるのか。その魅力を追ってみた。※写真:©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

映画『国宝』の勢いが止まりません。2025年7月21日までに観客動員数は486万人、興行収入は68億5000万円を突破! 第50回トロント国際映画祭への出品も決定しました。歌舞伎を舞台にした本作がなぜこれほどまでに人を惹きつけるのか。映画ライターの筆者がその魅力を考えてみます。

映画『国宝』とは?

©吉田修一/朝日新聞出版
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会


2025年6月6日に全国公開された映画『国宝』は、吉田修一の同名原作を吉沢亮主演で描いた作品。監督は『悪人』(2010)『怒り』(2016)などを手掛ける李相日監督。

任侠の一門に生まれた喜久雄(吉沢亮)は、抗争によって父を失いますが、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎(渡辺謙)に引き取られ、彼の息子・俊介(横浜流星)と共に、厳しい稽古を続け、ライバルとして切磋琢磨していく。

しかし、共に上を目指してきた最高のライバルである俊介との関係が壊れてしまい、喜久雄の人生の歯車は狂っていくのです。

喜久雄が「国宝」へと駆け上がっていくまでの波瀾万丈の人生を描いた大作! 公開初週は3位だったにもかかわらず、次第にクチコミ効果で観客を集め、公開3週目についに1位に! その後も客足は衰えず。どこまで数字を伸ばすかも話題です。

歌舞伎といえば松竹なのに東宝配給

©吉田修一/朝日新聞出版
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会


『国宝』は歌舞伎の世界を描いた作品ゆえに、歌舞伎公演を手掛けている松竹が配給すると誰もが思うかもしれません。歌舞伎界に精通し、役者もそろっている。歌舞伎を描いた映画ならば、全力で協力するだろうと。

しかし、本作は歌舞伎界を舞台にしたフィクション。「才能か血筋か」というテーマのもと、任侠一家に生まれた喜久雄が、歌舞伎の世界に魅せられながらも苦境の中、どのような人生を歩んで国宝へと上り詰めるかを描いた、1人の男の物語です。

そしてその物語を描いた作家・吉田修一は、映画『悪人』『怒り』で李相日監督と組んでおり、その2作は東宝配給で大ヒットを記録。原作者、監督、東宝の間で信頼関係が結ばれており、最初から東宝配給で話は進んでいたのではないかと思われます。

『国宝』の大ヒットにより、松竹は悔しい思いをしたかもしれません。制作に協力していたそうですから、いいとこ取りされた感がありそうです。しかし、本作は歌舞伎の大宣伝になっていることも事実。

スター俳優が稽古に稽古を重ねて歌舞伎の演目を実際に演じることで、歌舞伎の芸術性とそれを支える歌舞伎役者たちの地道な努力がスクリーンを通して観客に伝わっていると思いますし、この映画を見て、歌舞伎に興味を持ったり、舞台を見たいと思ったりする人は多いでしょう。

それを考えたら、松竹もヒットの恩恵があると考えてもいいのではないでしょうか。

クチコミが映画のヒットを後押しした!

©吉田修一/朝日新聞出版
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会


『国宝』は公開前に第78回カンヌ国際映画祭の「監督週間」で公式上映されたことが大きく報道されたり、主演の吉沢亮と横浜流星が歌舞伎の演目を踊るために猛特訓でスキルを身につけたというエピソードが芸能ニュースになっていったりました。

おそらく吉沢亮、横浜流星ファンは、彼らがどのような芝居を見せてくれるのか楽しみにしていたでしょうし、歌舞伎ファンも「お手並み拝見!」と劇場へ足を運んだことでしょう。

右肩上がりの大ヒットにつながったのは、そんな観客のクチコミが拡散されたことも大きいはず。特に歌舞伎役者たちがこぞって大絶賛していることが、映画への信頼を強め、大ヒットにつながっていると、筆者は思いました。

市川團十郎、片岡愛之助ら、歌舞伎役者たちからのコメントは「映画『国宝』は本物だ!」というお墨付きをもらったと言っても過言ではないのではないでしょうか。

映画業界の吉沢亮への信頼がすごい!

©吉田修一/朝日新聞出版
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会


実は映画『国宝』は試写のときから映画関係者の間でも話題に上がり、「吉沢亮と横浜流星が素晴らしい」という声は多かったです。筆者も何よりも感動したのは役者たちの芝居です。

歌舞伎の演目をマスターするだけでも大変なはずなのに、波瀾万丈な人生を送る喜久雄のキャラクターも自身に落とし込んでいた吉沢亮。歌舞伎以外は眼中になく「無」の境地で歌舞伎に取り組む喜久雄は彼にしか演じられなかったと思います。

吉沢亮は役の色に染まることができる俳優。本人のキャラが強すぎて、何を演じても同じに見える……なんてことは決してない。現に『国宝』の後に公開されたコメディー映画『ババンババンバンバンパイア』では、見事に振り切ったバンパイア演技で大いに笑わせてくれます。

ほかにも、2024年に公開され好評を博した『ぼくが生きてる、ふたつの世界』では、耳の聞こえない親から生まれたコーダの息子役を、言葉と手話を駆使して熱演しているなど、全ての出演作で結果を残している若き名優なのです(※コーダ:聞こえない、または聞こえにくい親を持つ聴者の子ども)。

李監督は、公式のインタビューで「喜久雄を演じるのは吉沢亮しかいない。彼がいないと映画として立ち上がらない」と吉沢亮ありきの映画であることをはっきりと語っています。

吉沢が第43回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞した『キングダム』(2019)も、製作陣は当時まだ“知る人ぞ知る”存在だった吉沢亮を政(えいせい)役に大抜てき。『東京リベンジャーズ』(2021)のマイキー役も制作陣からの熱いラブコールで実現しました。

両役ともに軍団を率いる大将のポジション。やはり彼には人を惹きつけるカリスマ性とオーラがある! 現時点での集大成が喜久雄役だったのではないでしょうか?

『国宝』は本当に大傑作なのか?

映画『国宝』はSNSなどでも「すごい映画を見た!」との声は多いです。

しかし、筆者個人の感想としては、3時間弱の長編映画ですが「もっと長くてもいい」と思いました。俳優たちが渾身の芝居で演じ切った歌舞伎は大いに堪能できますが、後半、喜久雄がどん底から国宝へと駆け上がっていくドラマが駆け足になったと感じたからです。

前後編の大長編にして、もっとじっくりと喜久雄の人生の紆余曲折を、彼の感情のうねりを見たかったです。が、「もっと長くてもいい」と思うことは、この映画の世界に取り込まれているということなのですけどね。

観客を決して飽きさせない構成と演出は素晴らしいし、大きなスクリーンで見てほしい作品なので、ぜひ劇場でご覧ください!

映画『国宝』

2025年6月6日(金)より全国ロードショー
原作:『国宝』(吉田修一著/朝日新聞出版刊)
脚本:奥寺佐渡子
監督:李相日
出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、永瀬正敏、嶋田久作、宮澤エマ、中村鴈治郎、田中泯、渡辺謙

<参考
・『国宝』公式Webサイト
・CINRMAランキング通信
・東洋経済オンライン「映画≪国宝≫に歌舞伎俳優も驚嘆!「歌舞伎の松竹」ではなく「東宝」の配給で成功した理由」
・ 『ぼくが生きてる、ふたつの世界』公式Webサイト


執筆者:斎藤 香(映画ガイド)

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