ブームになっているZINEカルチャーの魅力とは?『春のZINE祭り』で見えた“表現すること”の楽しさ

2026.05.14 11:50

ブームになっているZINEカルチャーの魅力とは?『春のZINE祭り』で見えた“表現すること”の楽しさ

リソグラフ&OPEN D.I.Y.スタジオのHand Saw Pressが企画する「Hand Saw Press 春のZINE祭り2026」が、2026年5月2日(土)~5月6日(水)に渋谷ヒカリエ8階にて開催された。

「ZINE」とは、自分の思いや表現を自由にまとめた個人制作の小冊子のこと。日記、詩、写真、イラストなど、テーマも形式も自由で、作り手が伝えたいものをそのまま読者に反映できる。近年ではこのZINEがブームになっており、今回のようなイベントが開催されたり、書店でZINEが置かれたりするケースが増えてきている。

今回、筆者は5月3日(日)に会場を訪れ、ZINEを販売していた出展者の方々に話を聞いた。そこはまさに、いま多様な形で広がっているZINEの文化の最前線だった。

【みんなが「表現者」になれる場所】

Hand Saw Pressの「ZINE祭り」は、ただZINEを買うだけの場所ではない。展示を見たり、ワークショップなどの催し物に参加したり、ZINEを通じて多彩な楽しみ方が可能で、「作る人も、遊びに来る人も、みんなが『表現者』になれる場所」と位置付けられている。今年で5年目となり、これまでにさまざまな企画やイベントを介して参加者が交流を深めてきた。

当日会場に足を運ぶと、まず目についたのは、出展者が連なるフリーマーケットスペース。それぞれが趣向を凝らしたZINE以外にも自作のグッズ、アイテムなどが所狭しと並んでいて、まさに“ZINE祭り”と呼ぶのにふさわしいクリエイティブな空間となっていた。筆者が来場した時間はちょうど昼のトークイベントの真っ最中。参加者が自由に話す軽快なトークを耳で楽しみながら、スペースをゆっくりと見て回った。

【ZINEを作る面白さに魅せられて】

この日出展されていた「シカクイハコ」のアニュウリズム(Anyuu Rizumu)さんは、自身で描かれたオリジナル作品のZINEを販売。ポップなタッチの漫画、独自の空気感に引き込まれるモノクロのイラスト集、バッジやポストカードなども置かれており、アニュウリズムさんの個性が随所に感じられるスペースだ。ZINEに使用する紙の質感などにもこだわり、一つひとつ作品を作り上げている。

友人から誘われたことがきっかけで、即売会やZINEのイベントに出展するようになったというアニュウリズムさん。「自分が書いた漫画を手に取ってもらえることが嬉しくて、やりがいにもなっている」と声を弾ませる姿からは、“表現する”ということの楽しさがひしひしと伝わってきた。

「シカクイハコ」のお隣のスペースだったマスダユキさんは、「漫想新聞」と題した新聞を販売していた。この新聞は、マスダさんを含む3人で記事の企画・執筆・デザインを行っており、約1年に1回のペースで刊行しているとのこと。互いにその時に関心があることを特集していて、この日販売していた昨年刊行号では“90年代”がテーマだった。90年代に流行したものや人、ブームなどを元にそれぞれの思い出を語るコーナー、朝ドラの感想を語り合う座談会、エッセイ連載に読書会レポートなど、興味深い企画が目白押しの内容だ。

マスダさんはバンドのメンバーとしても活動しており、いろんなものが好きな仲間たちと一緒に本を作ろうと思ったのがきっかけだという。最終的には、本よりも気軽に作ることができる新聞という形式に落ち着いた。「文字をぎゅうぎゅうに詰め込んで読みごたえがあるものにするのがこだわり」だそう。「漫想新聞」を作り始めて15年ほどになるが、今では固定の読者もおり、それが嬉しいと充実した笑顔を見せていた。

【さまざまなZINEコミュニティの形】

個人でZINEを販売する出展者以外にも、複数人のZINEや作品を取り扱っているスペースもある。日本大学芸術学部・デザイン学科のゼミのメンバーで運営しているアートブック・レーベル「ネリドコBOOKS」もそのひとつ。スペースにはゼミのメンバーが制作したZINEに加え、鼻の形を模したユニークなスマホリングや自作のカードゲームなど、創意工夫を凝らした作品がずらり。それぞれが好きなものや興味のあることを、みずみずしく豊かな感性で表現していた。

今回話を聞いた学生の方二人の作品は、それぞれ「音の可視化」と「足もとの輪郭」のZINE。前者は、言葉になる前の「あ」という音に注目して、自ら録音した「あ」の振動の線を、その裏にある気持ちと共に記したもの。後者は街を散歩していた時に見つけた形を作品に落とし込んだといい、道路の白線やタイルなどがグラフィック化されている。二人は、ZINEを作ってみてどうだったかと尋ねると、「短期間でZINEを作るのに達成感があった」「自由に表現できるのが楽しい」と語ってくれた。

文字のフォントやサイズなどを工夫し、より美しく読みやすいものにデザインする“タイポグラフィ”のワークショップ「Applied Typography Workshop」のスペースでは、講習参加者の作品をまとめたものや、参加者それぞれのZINE・グッズなどを販売していた。それぞれコンセプトがあるが、全体に共通しているのは「タイポグラフィを使ったビジュアル表現」ということ。タイポグラフィを通して、どういったことができるかを探求している。

東京と大阪で開催されているワークショップの参加者は、本職がデザイナーという人もいれば、そうでない人もいるという。この日販売されていた作品集には、全員が同じ詩を使い、文字だけで自由に解釈・再構成した成果がページごとに収録されていた。扱われているテーマは共通していても、文章の並び方や大きさ、形が異なると、伝わってくる雰囲気も違ってくるのがおもしろい。筆者はこれまでにタイポグラフィという手法に触れる機会がなかったが、この作品集を通して、奥深さに触れることができた。

【阿佐ヶ谷の本屋も「ZINE祭り」に参加】

「チーム阿佐ヶ谷」はその名の通り、阿佐ヶ谷の本屋が取り扱っている商品やZINE、制作物などを販売しているスペース。昨年も「ZINE祭り」には参加していたそうだが、最近阿佐ヶ谷にさまざまな本屋が増えていることから、昨年よりも参加者が集まり、ボリュームアップする形での出展になった。

こういったZINEのイベントに出展することで、普段とは違った客層の人が本を手に取ってくれるそう。個人の制作物であるZINEは値段がつけにくく、店頭に並べるのが難しいという事情があるが、イベントがあるとお客さんの前に出すことができるのが嬉しいという。文化の香り高い街・阿佐ヶ谷で本屋を営む店主の生の声を聴いたことで、いまZINEというものがどのような広がりを見せているのかを改めて実感できた気がした。

【表現することの楽しさと奥深さ】

隣り合ったスペース同士で談笑したり、ZINEを手に取った来場者と語り合ったり。「ZINE祭り」に参加している出展者はみんな一様に晴れやかな顔をしているように見えた。それはきっと、ZINEや作品を通して、揺るぎない“自分”を表現しているからなのだと思う。私も何かを表現したい。そして、その形は必ずしもZINEではなく、もっと自由でひらかれたものでいい。そう思わせてくれる貴重な体験だった。

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