『日本人傭兵の危険でおかしい戦場暮らし』(竹書房)

「怖くなかった」初陣のあとに訪れた本当の恐怖…元傭兵・高部正樹が語る“戦場の洗礼”

2026.03.02 08:03
提供:ENTAME next

初めて立ったアフガニスタンの前線で、恐怖はなかった。ロケット弾も砲撃も、ただ「すごい」と感じるだけだった。しかし夜、並べられた遺体と血だらけの兵士たちを目にした瞬間、戦争の現実が牙をむく。恐怖で銃を撃てなくなった元傭兵・高部正樹氏を救った、ある“気づき”とは──。戦場で心が折れる瞬間と、立ち直るまでの生々しい記憶を語る。

私が初めて前線を経験したのは、アフガニスタンでした。日本を出国する時はまだ、国境を越えられるかどうかさえ分からない状況でした。国境を越えて、現地で連絡が取れるのか、取れたとしても実際に雇用してもらえるのか、前線まで同行させてもらえるのか。すべてが不確かでした。

現地で無事武装組織側と接触してから、前線のキャンプに入るまでは2〜3日しかありませんでした。時間に余裕があれば緊張していたでしょうが、「やっとアフガニスタンに入れた」という高揚感に包まれていました。

前線基地に到着した翌日、トラックに乗せられて山間の峡谷を最前線に向かいました。夜になってある地点(この時の戦闘の最前線の集結地)に到着。トラックを降りると、敵が2~300メートルほど先の峡谷の壁に向けてしきりにロケットを撃ちこんでいました。我々の接近を予想して射撃していたのでしょう。ロケット弾が火を噴いて飛来し、爆発しました。それを見て、「すごい!」と興奮しましたが、恐怖心は一切ありませんでした。戦場の現実を知らなかったからです。

翌日、初めて前線に行ったときも怖さはありませんでした。戦車、迫撃砲、銃撃戦など。見るもの全てが珍しかったからです。

恐怖を感じたのはその日の夜でした。拠点に戻ると、遺体が数多く並べられていました。重傷を負った人たちが血だらけになって、あちこちに倒れていました。その光景を見て初めて、その日の出来事がいかに重大だったかを実感したのです。

前線では目の前で血だらけになった兵士が何人も担がれていました。負傷したのは、経験豊富なベテラン兵士ばかりでした。そこで、たまたま自分は運が良かっただけだと気づきました。「私が今日生きて帰れたのはただの奇跡なんだ」と。

そう考えると、徐々に恐怖心に支配されるようになりました。次に前線に行ったら、今度は自分の番かもしれない、と恐怖を感じました。

翌朝、仮病を使って頭痛を訴えましたが、もちろん通用しませんでした。それでも前線に行かざるを得ませんでしたが、その日から数日間は戦力として機能しませんでした。恐怖心で銃も撃てなくなり、大きな岩の裏から出られなくなったのです。

そんな状態が続いた後、休みがありました。アフガニスタンでは遊牧が行われているのですが、山の斜面に遊牧からはぐれて野生化したヤギの群れがいました。先輩の兵士から、「あのヤギを今夜の飯にするから撃ってみろ」と言われました。数発撃ちましたが外れて、ヤギは山奥に逃げていきました。

その時でした。「銃弾というのは、そう簡単には当たらないものなんだ」「なんて取るに足らないことを心配していたんだろう」と悟りました。まるで漫画のように、頭の中でキラキラと電球が光ったような閃きがありました。今考えるとおかしな話ですが、その瞬間、自分は大丈夫だと思えました。

翌日からは不思議なことに、前線への恐怖が徐々に消えていきました。「大丈夫、大丈夫、当たらない」と前に出て、銃を撃てるようになったのです。後で知ったことですが、アフガニスタンでは銃弾で死傷する兵士は少なく、大部分は砲撃の破片によってでした。銃弾で死ぬ兵士は5パーセントにも満たないといいます。もしも私が射撃の腕前がすごくて、ヤギに弾が当たっていたら、早々に帰国していたかもしれません。

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