現役看護師が漫画に託した現場の声 のまりが語る精神科訪問看護と“きょうだい児”の見えない苦しみ
病気がちの妹がいる「きょうだい児」の手塚ナミが、妹の世話を優先する親に不満を抱き、次第に家族と距離を置くようになるが、成長して保健師となり、自身の経験を発信することで自らの居場所を見つけていく。そんな「きょうだい児」の姿をリアルに描いたコミック『きょうだい、だけどいや ケアをさせられたきょうだい児だった、けど』。現役の看護師であり、自身も家族との関係に悩んだ経験を持つ著者ののまり氏に、この作品のモデルとなった精神科訪問看護の仕事を通じて関わった当事者家族との関りを聞いた。(前後編の前編)
――看護師であるのまりさんが漫画家になったきっかけから教えてください。
のまり 昔から漫画を読んだり描いたりするのが楽しく、同人誌も作っていましたが、それを仕事にしようとは思っていませんでした。30代になって、自分にしか描けない作品を作りたい気持が強くなり、『withnews』(朝日新聞社)さん主催の漫画コンペに応募したり、コンペ受賞作品を編集者の佐渡島庸平さん(株式会社コルク)に読んでいただき、フィードバックをもらったりして漫画の勉強をしていました。漫画家デビューのきっかけは、私の作品を知ってくださった編集者の方から、「うちで何かやりませんか」とお声がけをいただいたことです。その方は沖田×華(おきた ばっか)さんのご担当をされており、病気や障害についてとても勉強されている編集者さんでした。そこから新人賞に応募して、デビュー作『おとずれナース ~精神科訪問看護とこころの記録~』(ぶんか社)の連載につながりました。
――訪問看護の職に就くまでは、どういうお仕事をされていたんですか。
のまり 看護師として、精神科の病院や障がい者支援施設などで働いていました。外に目を向けて地域に関わる仕事をしたいという気持ちから精神科訪問看護に転職しましたが、数年間従事していました。今は漫画を描きつつ、医療ケア児のお子さんを看る仕事をしています。
――訪問看護は病院や施設以上に当事者家族と接するので、気苦労も多いかと思います。
のまり 担当した家庭の親御さんで行政が入ることすら拒否されて、辛うじて訪問看護だけが入れている状態のご家庭もありました。
――なぜ行政の介入を拒否されていたのでしょうか。
のまり 「自分が子どものことを一番わかっているし、親としての責任を果たしたい」という気持ちが強くて、そこで何かの行き違いが起きて、行政に対する不信感を募らせ続けていました。その一方で、お子さんに対して暴力も振るっていました。単純に「子どもがかわいい」というだけではないのが難しいところで、一言で言えない感情がたくさんあるなと思いました。
――行政を信用できないという方は珍しくないんですか。
のまり そうですね。生活保護を受けている家庭でも、行政の世話にならざるを得ないけど「行政が嫌だ」と強く言われることもありました。だから私たちが行政が確認できないご家族の近況を役所に共有するなど、パイプ役になることも多かったです。
――一つの家庭との関わりが長期に渡ることもあるんですか。
のまり はい。一番長い家庭だと、私が在職していた期間の数年間、ずっと担当していました。病棟にいた時は何十年も入院している方もいたので、年単位で関わることには慣れていました。担当していた家庭の親御さんが亡くなられて、最終的にお子さんが家から出なくてはいけなくて、病院や施設に入ってもらうまでの手続きを代行したこともあります。ただ、こちらが長く関わりたくても、向こうが拒否するということもありました。
――担当を交代させられることもあったということでしょうか。
のまり しょっちゅうありました。私の配慮のなさがあったと思います。精神科訪問看護のスペシャリストが何名かいらっしゃいましたが、そういう方々を見ていると、時間や技術を味方につけて、上手く入っていかれます。ただ看護師経験が長ければ上手くできるかというと、そうでもない仕事なのが難しいところです。
――常時どのくらいの数の患者さんを担当されていたんですか。
のまり 私が働いていたところは一人当たり10人から20人くらいでした。
――結構な数ですね。
のまり 基本的に、原則週3回までが医療保険で決まっている訪問看護の適用になります。一人暮らしで生活保護の方など週2~3回訪問するパターンもあります。退院後3ヶ月以内の方や、主治医が必要と判断した場合は医師に特別訪問指示書という書類を発行してもらって、週4~5回入ることもありました。
――精神科といっても、患者さんによって症状も多岐にわたるのではないでしょうか。
のまり そうなんです。知的障害の方もいれば、てんかんの方もいらっしゃいましたし、糖尿病を併発している方も多かったです。患者さんの体調管理、薬の管理もありますし、内科の知識も求められます。医療保険と介護保険が使えるのですが、介護保険の場合は認知症の方もいました。認知症の方はご高齢の方がほとんどなので、他の病気を併発されているケースも多いんです。担当した患者さんは10代から90代の方までいらっしゃったので、年齢や個別性に応じた対応が必要とされました。
――看護師の入れ替わりも激しいのではないでしょうか。
のまり おっしゃる通りで、残る人よりも辞める人の方が多いほどで、1週間で辞める人もいました。私の場合は病院と施設にいた経験がベースにあったので、続いたのかもしれません。基本的につらい仕事でしたが、職場の人に愚痴を言ったり、漫画連載で自分の思ったことを描いて形にできたりしたのも大きかったです。
――訪問看護できょうだい児と接することもあったかと思いますが、のまりさん自身は、いつくらいから自分がきょうだい児であることを意識しましたか。
のまり ここ数年、テレビドラマやドキュメンタリーで、きょうだい児が取り上げられるようになりましたが、ヤングケアラーの問題が表面化した流れで認知されていった印象です。私自身、ここ1、2年でした。仕事できょうだい児と関わって、「この人は自分がきょうだい児と気づいていないのかな」とよく思っていたんですが、自分も気づいていない側の人間だったんですよね。
――ヤングケアラーも自分が置かれている状況に気づかないケースが多いと聞きます。
のまり 平成の時代は、子どもが親の世話をすることが美談で終わっていましたよね。でも子どもは、自分が何をやっているのかよくわからないままやっていたり、世話をすることで親が喜んだり褒めてくれることを心の拠り所にしている子もいます。介護していた親御さんが回復あるいは自立につながっていれば救いがあるのかもしれませんが、そうではない場合だと、お子さんが大人になってから、「自分の人生は何だったんだ」と我に返って、荒れてしまったり、絶縁したり、親子関係が崩壊するケースもありました。それは、きょうだい児も同じです。私の友人知人にも何人かきょうだい児がいるのですが、親子関係がしんどくて、「家族といるよりも、東京で一人暮らしをしている方が楽だね」という意見が多かったです。
『きょうだい、だけどいや ケアをさせられたきょうだい児だった、けど』は好評発売中
著者:のまり出版社:竹書房
X:https://x.com/nmr_psco
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