女子高生時代は才能ゼロで号泣…それでも世界女王へ、パワーリフティング・野村優を変えた“昼休みの秘密特訓”
デッドリフト230kg、スクワット・ベンチプレス・デッドリフトの3種目合計で500kg。日本人女性として前人未到の領域に足を踏み入れ、アジアの頂点に立ったパワーリフティング界の女王・野村優。その圧倒的な強さの裏には、センスのなさに涙した高校時代と、誰にも言わずに続けた“秘密の特訓”の日々があった。「脳筋キャラは定着してました」と笑う彼女のストイックな競技人生と、意外な素顔に迫る。(前後編の前編)
――2024年の全日本選手権でデッドリフト230kg、トータル500kgという、いずれも日本人女性歴代最高重量を叩き出した翌年の7月には「アジアパシフィックアフリカパワーリフティング選手権大会」で優勝し、アジア記録を更新されました。ものすごい記録ですが、ご自身ではどう感じていますか?
野村 ありがとうございます。でも、正直に言うと、ずっと世界記録を目指しているのでアジア記録は自分の中では通過点ですね。試合の前も「もしかしたら更新できるかな」と思っていたくらいでした。
――アジア記録が通過点とは……。ちなみに、ご自身が保持している日本人女性初のデッドリフト200kg、そして230kgという記録を達成した瞬間の心境はいかがでしたか?
野村 嬉しい気持ちでいっぱいでしたよ。でも、パワーリフティングはバーベルを持ち上げてから、手を離さずにしっかり置かなきゃいけないルールがあるので、審判の判定が下るまで油断できないんですよね。グリップアウトしないように最後まで慎重になって、「成功」という判定を聞いてから、「よし!」って喜びに浸りました。
――その230kgを成功させた大会は、地元・京都での開催だったそうですね。
野村 そうなんです。地元開催だったので、家族や知り合いもたくさん応援に来てくれました。練習では220kgまでしか成功したことがなくて、230kgは自分の中ですごく怖い重量だったんです。でも「絶対230kg引かないと」という覚悟がありました。会場にいる友達が「500(トータル500kg)!」って叫んでくれたのが聞こえてきて、思わず「うぉい!」って返事しましたよ(笑)。応援されればされるほどモチベーションが上がるので、そういう声援が本当に力になりましたね。
――では、改めてパワーリフティングを始めたきっかけを教えてください。
野村 高校に入るまでは柔道をやっていて、その補強トレーニングの一環でパワーリフティングの練習に参加させてもらったんです。その時に、すごく綺麗で女性らしい先輩が、自身の体重の倍くらいあるバーベルを担いでいる姿を見て、憧れたのがきっかけですね。
――その先輩の姿に衝撃を受けたと。
野村 すごくかっこよかったんです。柔道は対人競技ですけど、パワーリフティングは自分が努力すれば、昨日まで重かった100kgのバーベルがだんだん軽くなっていくっていうことにも魅力的だなと思いました。でもいざ始めてみると全然センスなかったんです。
フォームもぐちゃぐちゃだし、力任せに引こうとするから全然持ち上がらなくて。そんなフォームで続けていたので、高校生ながらにぎっくり腰になって、コルセットを巻きながら通学していた時期もあり、最初の頃はすごく苦労しましたね。
――心が折れそうになった時期はありました?
野村 高校1年生の時かな。練習帰り、自分の不甲斐なさにすごく悔しくて、勝手に涙が出てきたことがありました。でも、その時に「ここで強くなってやろう」って思ったんです。ちょっと作り話みたいですけど、誰にも秘密の練習を始めました(笑)。
――秘密の練習ですか。
野村 はい。その時を境に、放課後の部活はもちろん頑張りますが、先生にお願いして昼休みの間、こっそりに体育館の鍵を開けてもらって、一人で秘密の特訓をしていました。自分の体幹を安定させるためのフロントスクワットとか、地道な練習をずっと。
――昼休みといえば、友達とおしゃべりしたりする時間じゃないですか。羨ましいとは思わなかったですか?
野村 それはなかったですね。クラスのみんなと話すのも楽しかったですけど、その時はとにかく「強くなろう」っていう気持ちだったので。早くご飯を食べて、パッと練習して、みたいな感じでした。
――その練習を誰にも言わずに?
野村 言ってないです。部員も知らなくて、私一人で体育館に行ってやってたんです。その時の動画ありますよ。
(当時の動画を観ながら)今観てもフォームが全然なってないですね。恥ずかしい(笑)。
――貴重な動画ありがとうございます。では、周りの部員からすると、「急に、野村ちゃんが強くなった」みたいな感じだったわけですね。
野村 まあ、そうですね(笑)。特訓の成果が出ました。
漫画の主人公のようなエピソードを、彼女は少し照れくさそうに語ってくれた。授業中は握力グリップを握りしめ、家で体幹トレーニングに励む。そんなストイックな日々を経て、彼女の才能は開花していく。高校3年生になる頃には得意のデッドリフトが急激に伸び始め、大学1年生でサブジュニア(18歳以下)部門の世界チャンピオンに輝いた。
▽野村優(のむら・ゆう)パワーリフティング選手。高校時代に競技を始め、大学1年でサブジュニア世界一に輝く。その後、日本人女性として初めてデッドリフト230kg、トータル500kgを記録し、国内の歴代最高重量を更新。2025年アジアパシフィックアフリカ選手権優勝、アジア記録を樹立。女性向け大会「ストロングガールズ」の運営にも携わり、競技の魅力を発信している。友人の家で酔っ払った勢いでほふく前進をして驚かれた経験があり「次やったら出禁」と言われているイエローカード保持者。
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