辛い日々を送る中学生…ある夜10歳差のいとこに救われる話が「感慨深く素敵な漫画」と話題に【漫画】

2025.06.27 18:40

コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョンマンガ部」。今回は、「マイ・トワイライト」に収録されている読切漫画『夜のケモノ』(双葉社刊)を紹介する。『みかづきマーチ』や『泥の国』(共に双葉社刊)で知られる山田はまちさんが、5月17日にX(旧Twitter)に本作を投稿したところ、5000件を超える「いいね」やコメントが多数寄せられた。本記事では、山田はまちさんにインタビューを行い、創作の裏側やこだわりについて語ってもらった。

大嫌いなみんなと別れを告げようとする朱美

ある夜、中学生の朱美は線路に横たわり先生やクラスメイト、父親に別れを告げようとする。電車が近づく音と共に「大嫌い」と思いながら目を閉じた朱美。しかし、「ここで死なれちゃ迷惑なんだよ！」と言い彼女を線路から離す人が現れる。

その人物は朱美と10歳離れている、いとこの藍子。彼女は“ついてない”と言いながらも、朱美を家まで送り届けようとする。しかし朱美は「家にはっ帰りたくない!!」と告げ、進路を妨げた。懇願する朱美に対し藍子が取った行動は…。

この読切漫画を読んだ人たちからは、「最後の描写が素晴らしい」「懐かしい気持ちになった」「感慨深く素敵な漫画」「残された側も辛い」など、多くのコメントが寄せられている。

優しいケモノが助け出してくれる話

――本作のお話の発想の源はどこだったのでしょうか？。

若年層の自死が増えている…というニュースを目にしてなにか漫画でそういった若い子たちに向けたお話を描けないかというのが始まりです。また私事ですが中学生の頃両親が病気で亡くなり、生きるという事の意味やこれからの人生についてものすごく不安になりました。特に夜になると不安の波は強くなるのでそこから「夜のケモノ」という得体の知れない要素が生まれた気がします。椎名林檎さんの虚言癖という曲のなかで「線路上に寝転んだりしないで　大丈夫」という歌詞がありビジュアル面でのインスピレーションになりました。フラワーカンパニーズの深夜高速という曲も構成やキャラクターの感情に大きく影響を受けています。

――本作では、朱美の表情の変化が非常に印象的でした。本作を描いたうえで「こだわった点」あるいは「ここに注目してほしい！」というポイントがあればお教えください。

ありがとうございます。朱美という内向的で、ある意味等身大の少女は変化や悩みの見せ方をとても大切に描いたのでそれが伝わって嬉しいです。とにかくこのお話は彼女の救済の話なのでその心情に嘘がないよう努めました。そのために彼女の現状をはちゃめちゃにぶち壊しペースを乱す藍子さんというキャラクターも破天荒かつ実は繊細ででもちょっと何を考えてるか分からない…だけどこんな人がいてくれたら救われるかも…という人物像を何度もネームを直しながら探りました。ただ綺麗な話で終わるのはこのテーマとしては難しいと感じ、最後朱美がどんな感情に行き着くのか…もとても考えました。楽しかった、明日から頑張ろう！ではなくて「残された人の気持ちなんて知りたくなかった、どうせ帰ったらまた…」と心情を吐き出す場面が一見悪態のようですが彼女がしっかりと吠える事ができた大切な場面なので表情とともに注目してもらいたいです。

――特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。

朱美が目が覚めたら見知らぬ土地につれてこられ、わけもわからぬまま連れ回され、コッペパンを食べたり、牧場で牛に囲まれたりするシーンです。ずっと重い夜のシーンが続いたのでその対比にもなってます。私も大好きな盛岡に実際にあるコッペパン屋さんや牧場で、この漫画を描く前か描くと決まってからか忘れましたが旅行で足を運び写真を沢山とりました。朱美が「生」を存分に受け取るシーンになっています。お気に入りのセリフは藍子が朱美にいう「帰ったら死にたくなるって事はさ…今生きていたいって事だろ」というセリフです。その言葉に朱美が藍子と過ごす時間がいままでの日々とは違い楽しいものだと気づくのです。

――ストーリーを考えるうえで気をつけていることや意識していることなどについてお教えください。

気をつけていることは人物の心の動きです。ストーリーに関しては実はあまり考えていなくて、その時こんな事があったら嬉しい、とか、こんな事が起きたら悲しいかな、とか主に主人公の心の動かし方を考えます。そうすると自然に物語が展開してくれるので、あとは時系列や緩急、面白いか無理がないか意外性はあるか？といった事を編集さんと打ち合わせしながら作ってゆきます。

――山田はまちさんの作品は、登場人物の気持ちが手に取るように伝わります。作画の際にこだわっていることや、特に意識していることはありますか？

顔を描くのが好きなので気持ちが伝わると言ってもらえると嬉しいです。作画の際はネームを下絵にしてそこから清書する、という流れなのですが、私はネームの段階で表情を決めすぎないようにしています。あまりギチギチに決めてしまうのが苦手で、あそびの部分を残す方が描いてて楽しいです。(ネームを早く描かないと仕事が回らないというのもありますが　笑)最近映画の撮影現場を見学する機会があったのですがそこで文字の脚本が俳優さんの生の演技になるという工程を見て感動したのですが、その感動が自分の原稿でも欲しいのかもしれません。まだ完成の見えないネームから描きながら直しながら自分が感動出来る表情を目指しています。

――今後の展望や目標をお教えください。

いままで現実に沿った青春漫画や今回の短編のような人間ドラマを描く事が多かったのでいつか実写になったら嬉しいなと思ってます。また現在は初めてのダークファンタジーを描いているので新しいジャンルでも沢山の人に見てもらえるよう頑張りたいです。

――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします！

高校生のお話やラブコメや骨太な人間ドラマやファンタジーなど描きたいもののジャンルがとっ散らかっててすいません。これからもどこかの誰かに刺さる物をジャンルにこだわらず描けたらと思ってます。気に入ったものがあれば雑誌や単行本を手に取ってもらえれば嬉しいです。