「あんぱん」より

脚本家・中園ミホ氏が「この作品ならば」と執筆を決意 北村匠海演じる嵩にも驚き「気配がやなせたかしさんそのものでした」<あんぱん>

2025.04.29 08:15
「あんぱん」より

今田美桜が主演を務める連続テレビ小説「あんぱん」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月~金曜の振り返り)。同作は、「アンパンマン」を生み出した漫画家・やなせたかしと妻・暢をモデルにしたオリジナル作品。戦前から戦後と激動の時代を生きた“ハチキンおのぶ”こと朝田のぶと、夫となる柳井嵩があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した「アンパンマン」にたどり着くまでの人生を描いた愛と勇気の物語。

「あんぱん」の物語も第5週の放送が始まり、のぶと嵩も将来に向け新たな局面に進んでいく。WEBザテレビジョンでは、本作の脚本を手掛ける中園ミホ氏にインタビューを実施。やなせたかし氏との思い出、本作に込める思いを語ってもらった。

やなせ夫妻をモチーフとした作品ならばとお受けしました

――連続テレビ小説「花子とアン」(2014)以来の“朝ドラ”脚本執筆となりますが、オファーがあった際のお気持ちはいかがでしたか?

“朝ドラ”は大変なことが分かっておりましたので、半分断ろうと思っていました(笑)。ですが、やなせ夫妻をモチーフとした作品となるということで、それならば、私が絶対に書きたい、老体にむちを打ってでも頑張ろうと思い、お引き受けしました。

――“朝ドラ”の大変さとはどのようなものだったのでしょうか。

やはり書く量がとても多いですね。朝起きて、息つく暇もないほどに書いていく感覚で。私はお酒を飲むことが好きなのですが、お酒の場にも行けなくなるほど忙しくなるんです。私はあまり筆が早い方ではないので、たくさん書かなければならない中で息切れしないようにすること、そして体力的なことを含めとても大変でした。

――「あんぱん」の執筆はいかがですか?

今のところ、わりと順調に進んでおります。たまに息抜きで「あんぱん」のスタッフと飲みに行ったりしますが、結局仕事の話になってしまいますね。24時間“朝ドラ”漬けという日々を過ごしています。

“やなせたかしワールド”を皆さんに知っていただきたいなと思っています

――作中のせりふにやなせたかしさんの詩の一部などが登場するのが印象的です。やなせさんとは縁が深いとお伺いしましたが、どのような出会いだったのでしょうか。

私は、小学4年生の時にやなせさんの「愛する歌」という詩集を読み、ファンレターをお送りしました。そしてやなせさんからお返事をいただき、文通が始まりました。その時読んだのは「愛する歌」の第2集だったのですが、先日その本を開いてみたところ、ほぼ内容を覚えていたんです。それほど繰り返し何度も読んでいました。最初からやなせさんの詩を使おうと考えていたわけではなかったのですが、覚えているフレーズがたくさんあるので、それが自然と書いている台本の中に降りてくるという感じです。

幼い頃の嵩(木村優来)と、阿部サダヲさん演じる草吉の二人のシーンでも、私はお二人の顔を思い浮かべながら書くのですが、ふとやなせさんの詩の一節が浮かび、そして「たった一人で生まれてきて、たった一人で死んでいく…人間なんて、おかしいな」というせりふを書きました。私自身、10歳で父親を亡くしましたが、その詩を読んで索漠とした内容ですが逆にすごく救われたという思いがありました。

やなせさんは「アンパンマン」で一気にブレイクされましたが、それ以前にも本当にすてきな作品を書かれていますので、できるだけ“やなせたかしワールド”を皆さんに知っていただきたいなと思っています。

――文通をされていた際の、やなせたかしさんの印象はいかがでしたか?

出会った頃は、やなせさんはまだ代表作がないということを気にしていらして、手紙の中に愚痴のようなものが書かれていることもありました。小学生の私に、「またお金にならないお仕事を引き受けてしまいました」などと、書いているんです(笑)。すごく正直で真っすぐな方でした。その後、やなせさんが開かれていた音楽会に何度か招いてくださったのですが、お目にかかるといつも「おなかはすいていませんか」「元気ですか」とすごく優しく声を掛けてくださったのがとても印象に残っています。

初稿には役のイメージの「アンパンマン」キャラクターが書いてあります(笑)

――登場するキャストの皆さんがとても豪華だと話題になりました。のぶの父親役で加瀬亮さん、嵩の父親役で二宮和也さんと、早くに亡くなってしまう役どころのキャスティングも印象的です。

倉崎(憲)プロデューサーはじめ制作チームがすごく頑張ってくださったのだと思います。希望が次々にかなうような感じで、私も本当に驚いているくらいです。こんなドラマはなかなかないです。

――「アンパンマン」に登場するドキンちゃんは暢さんがモデルだという話を拝見しました。ドラマの中で、嵩の母・登美子(松嶋菜々子)にもドキンちゃんに通ずる部分を感じることがあるのですが、いかがでしょうか。

やなせさんは、母親がドキンちゃんのモデルであるということ、そして暢さんがドキンちゃんのモデルであること、両方おっしゃっていたようなんです。つまり、二人は似ている部分があったのではないかと。他にも、バタコさんのモデルが暢さんであるという話もあったようで。これは、女性にはいろんな面があるということのような気もしますね。ドキンちゃんのような好奇心が強くて少しわがままでという部分と、バタコさんのように優しくいつもニコニコと支えているという部分。きっと、暢さんもいろんな顔をお持ちの方だったのではと思います。

――「あんぱん」の中で、「アンパンマン」のキャラクターが反映されている登場人物はいますか?

実は、私の初稿には「この人はロールパンナ」など、書いてあるんです(笑)。本当に少しの出番の役でも全て、アンパンマンの登場キャラクター、妖精たちに当てはめています。これは私の趣味みたいな世界で、そのように考えながら書くとすごく楽しいんです。放送が進むにつれてSNSなどで「この人はきっとてんどんまんだ」など気付いてくださっている方もいるようですが(笑)。そのように考えて楽しみながら、一生懸命書いております。

今田美桜さんだから信頼して書くことができます

――主人公・のぶを演じる今田美桜さん、柳井嵩を演じる北村匠海さんの印象はいかがでしょうか。

二人とも、本当にすごくすてきです。私は、頭の中に小さなテレビモニターがあり、そこで二人が動いたり喋ったりしているのを書き取っていくようなイメージで脚本を書いているのですが、どんどん豊かになっている感覚があります。「この役者さんはこういう時、こういう表情をするんだ」と、驚かされるような魅力があり、皆さん本当に素晴らしいんです。青春期をたっぷりと描くので、ずっと見ていたいですね。

今田さんとは「ドクターX」でもご一緒しているのですが、とっても性格のいい方で、そのことが画面にも表れています。のぶは気の強い性格ですし、場合によっては強すぎるなぁ…と思ってしまいそうな役どころを、今田さんだから魅力的に演じて下さいますし、信頼して書くことができます。

北村さんは、第1回の冒頭を見た時に「えっ、これやなせさんそのままじゃない?」と思ったんです。本当にああいう雰囲気の方だったので。気配がすごくやなせさんそのもので、鳥肌が立ちました。以前からすてきな俳優さんだと思っていましたが、ファーストシーンには本当に驚きました。

大恋愛を書くことはとても楽しいです

――暢さんに関しての資料は少ないかと思うのですが、どのように描いていきたいという思いがありますか?

青春期に関しては、実際のやなせさんと暢さんの史実とは異なりますので、想像力を膨らませるしかないところではあります。ただ、当時の真面目で純粋な女の子というのは、私の知る限りではほぼ皆さんが軍国少女になっていくんですよね。教育を受けた方ほどそうだったと思いますので、おそらく暢さんもそうだっただろうという私の想像で書かせていただいています。

このドラマでは“正義は逆転する”というものが大きなテーマの一つの要素でもあります。そして「“逆転しない正義”とは、一切れのパンを困っている人に届けることだ」というところに行き着く夫婦の物語ですので、特にのぶは今後、思い切り“逆転”することになると思います。

――この先、のぶと嵩の恋模様も気になるところですが、描き方など心掛けたことがありましたら教えてください。

のぶと嵩が出会ったら、こういう会話をして、きっとこういうことが起きるのではないかなと想像して作っていったら、二人が自然と恋に落ちていたという感じでした。そこは私も早く見たいなと思う、見どころです(笑)。最近はラブストーリーではない作品に携わることが多かったのですが、久々のラブストーリー、しかも大恋愛を書いていますのですごく楽しいですね。

深い悲しみを何度も乗り越えてきたからこそ、「アンパンマン」が生まれたのだと思っています

――やなせたかしさんを描くことは戦争を描くことだとお話しされているのを拝見しました。人の死や、これから戦争に向かっていくという中で、寂しさや苦しさ、“生きること、死ぬこと”をしっかりと書かれていくのだなと感じているのですが、あえてそこをしっかり描こうと決意されたお気持ち、また“朝ドラ”として届けるために意識していることはありますか?

実はそこに一番力を入れていると言っても過言ではないです。何も失わない人生はないですよね。皆さん、大切な人との別れを経験することではあると思いますが、やなせさんも暢さんも早くに父親を亡くされ、いろんな別れが若い時にあります。そして戦争という経験、深い悲しみを何度も乗り越えてきたからこそ、「アンパンマン」が生まれたのだと思っています。やなせさんは、冗談もお好きですごく明るい方でしたが、人生はつらいことがあるからこそ、物語が必要で、楽しい音楽が必要だと、すごく考えていらした方なのではないかと。

私もその精神で、のぶと嵩も前半はつらいことが続きますが、どうやってそこを少しでも楽しく面白く皆さまに届けられるだろうかと考えながら書きました。つらいこともありますが、毎日見て元気になれるドラマにしたいと思っていますので、とにかく楽しく明るくやってほしいと出演者の皆さまにもお願いしました。そしてキャストの皆さまがそれに応えてくださり、本当にうれしく思っています。

深い悲しみを味わわなければ、喜びもしあわせも分からないという気持ちを大切に書いています。そしてそれが、やなせさんの作風であり、人生だと私は思います。

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