大河ドラマ「べらぼう」より

安田顕が演じた息をのむ源内の“狂気”と“孤独”…チーフ演出・大原拓Dが裏側を語る<べらぼう>

2025.04.21 08:00
大河ドラマ「べらぼう」より

横浜流星が主演を務める大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」(毎週日曜夜8:00-8:45ほか、NHK総合ほか)。森下佳子が脚本を務める本作は、18世紀半ば、町民文化が花開き大都市へと発展した江戸を舞台に、“江戸のメディア王”として時代の人気者になった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱と“エンタメ”に満ちた人生を描く“痛快”エンターテインメントドラマ。

「べらぼう」の物語も第16回の放送を終え、初回からその大きな存在感を放ってきた平賀源内との別れが描かれた。特に安田顕演じる源内のすさまじい狂気と悲痛な最後には胸が痛くなる。WEBザテレビジョンでは、チーフ演出・大原拓ディレクターにインタビューを実施。第16回の裏側ついて語ってもらった。

源内という人を演じる上では「適当である」ということが大切でした

――大変反響も大きかった第16回の演出について、大事にされていたこと、意識されたことを教えてください。

やはり平賀源内の最後であるということを特に大事にしていました。蔦重にとって、「耕書堂」という本屋をやっていく上での始まりも、その後、彼が新たに日本橋などに出ていく上でも、源内が蔦重に与えた影響はとても大きいです。源内という人物に対しての蔦重というものは何だったのだろうかと、その部分が表現されていく回だとも思いますので、源内の最後というものが蔦重の今後にどう影響していくのかということを意識して作っていきました。

そして平賀源内という歴史上あまりに有名な彼に関して、事実が分からないことも多々ありますが、その部分をどのように描き見せていくのか、とても大事に作りました。

――安田顕さんのお芝居で、はっとしたことや驚かれたことはありますか?

安田さんはいつもすごく面白いんですよね。源内への演出的なオーダーとしては“適当”で“早口”であってください、というものでしかなかったんです。第16回ではある種の狂気的な部分をどういうふうに表現していくかということを相談しながら作っていきましたが、やはり源内という人を演じる上では「適当である」ということが全てなんです。

これは、「いい加減」という部分と、「適している、当たっている」という部分の両面があって。安田さんはその両面を立体的に表現してくださり、安田さんに預けていましたので、自由にやっていただきたいという思いでした。そのためには、どういうふうにやっていけばより面白くなるか、それら全てを表現していくにはどうするかということを現場で確認しながら作っていきました。

“元の源内”に戻ることが大事でした

――渡辺謙さん演じる田沼意次が源内に面会に行く場面も印象的でした。細かい動きなどは相談されたのでしょうか。

渡辺謙さん、安田顕さんと、3人で話しました。意次が源内に触れるシーンも、どのように触れるのか、ただ触れるだけではなくつかむのか、頭を撫でるのか…意次の源内に対する思い、そしてそこにすがるしかない源内というものをどのようにしたら表現できるのかと話していきました。

安田さんとも話したのですが、そこで一番大事だったのは、意次と話し、触れたことによってもう一度“源内”になるんですよね。“元の源内”に戻る。彼の生きる目標は意次の信頼であり、意次のためにという部分があるので、そこをちゃんと取り戻したいと。そこを大事にしたかったんです。それは森下さんの台本の中にあった部分ですし、あの場面でどういうふうにだったら触れられるだろうか、触れたいか、と。あの場面に関しては、どちらかというと安田さんはなすがまま、謙さんが思う触れ方で演じていった印象でした。

――“元の源内”に戻ることが大事だったというお話でしたが、だからこそ狂気的な、様子がおかしくなってしまった源内も印象的であり、衝撃的でした。狂気を表す長いシーンについては大原さんもやりたい、という気持ちだったのでしょうか。

やりたかったですね。実際、全部屋、廊下、庭という全部のセットをフル活用して動いていただいたので、大変ではありました。ですが、そこでは源内が追い込まれていることの強弱を見せたかったということ、そして彼の孤独というものも表現したいという思いがありました。源内がだまされているという中で、問題の本質に近寄れば近寄るほど人が死んでいく。その部分も含め、彼の孤独、誰も救いがない状態というものを作りたかったんです。長いシーンを撮らせていただきましたが、だからこそ、安田さんのお芝居の源内像がもっともっと現実的になったのかなと思いますね。

横浜流星さんは役の本質部分をすごく埋めて下さるんです

――“源内は無実だ、救ってほしい”と意次の元へ面会に行った蔦重が、最後に意次に向かって「この忘八が!」と言葉をぶつける場面も鬼気迫るものがありました。

あの場面では、源内を大事に思っていた人たちが集まっているんですよね。蔦重も、須原屋(里見浩太朗)も、杉田玄白(山中聡)、東作(木村了)、そして意次もです。その中でどうしても納得できない本質的な部分がつい出てしまったという。現実的に考えれば、政権のトップ近くにいる人に対してあのような暴言を吐くことはあり得ないですが、そうなってしまうくらいに蔦重は源内のことを思っているし、そして田沼意次だからこそ言えたという部分があると思うんです。意次でなければ言えなかったであろうし、そもそも会えなかっただろうと。その全てが合致したからこそ、(横浜)流星さんがあのテンションまで持っていけたのかなと。

流星さんは、本には書かれていない、役の本質部分をすごく埋めて下さるんです。今回の場面でも、工程をきちんと考えて埋めて下さるので、それが表情・表現として表に出てくるのかなと感じました。流星さんの魅力の一つが出た場面だと思っています。

――相手が田沼意次だったからこそ成立したのですね。

このシーンでは、謙さんがすごく(芝居を)受けて下さっています。謙さんが受けて下さることによって、現実的に考えると難しいテンションであそこまで感情をぶつけることができる。もしも受けてくれなかったとしたら、きっと蔦重もぶつからないのだと思います。謙さん演じる田沼だからこそ、というのが一つ大きな要素だったように思います。

今までの蔦重ではない部分をものすごく表現された場面ではないかなと思います

――第16回、ラスト近くの蔦重と須原屋とのシーンもとても心に残っています。特に蔦重が涙するところではある種、子供のような泣き顔にも感じました。

私もすごく好きな場面です。流星さんは、内に入るお芝居がすごくうまくて。蔦重は割と発散して、表に出していく陽の部分が多いのですが、そうではなく自分の内に込めていく、今までの蔦重ではない部分をものすごく表現された場面ではないかなと。流星さんさすがだなと思わせていただけるシーンでした。

やはり蔦重として源内の死を受け止めきれない。ですが、須原屋さんが包んでくれることによって何かもう一つ、自分なりに進まなければならないと。その感情、思いにまで持っていく部分をすごく表現していただけました。事前にこのシーンについては「号泣だよね」という話はしていたんです。その状態をどのように持っていけるか、持っていくのかということを話し合いながら作っていきました。そして須原屋さんの対象も、蔦重に向かうのではなく、源内の土饅頭(どまんじゅう)に向かうと。そうすることにより、蔦重と須原屋、お互いが見ているものが何なのか、源内という二人にとってかけがえのない人物だということをきちんと浮かび上がらせるということを意識していました。

むくろがないので、源内が本当に死んでいるのか死んでいないのかも分からない。どうなったのか分からないからこその、生きていてほしいという思いも含めて、流星さんが源内と向き合って次につなげていかなければならないという思いを表現してくださり、またそれを包み込む須原屋さんの源内に対する思いという、それぞれの思いを本当に出していただいたシーンでした。

瀬川も源内も、蔦重の心の中に生き続けるはずです

――瀬川(小芝風花)に続き、源内とも別れることとなりました。この二人との別れは蔦重の人生にとってどのようなものになるのでしょうか。

大きいですよね。単純に喪失をどういうふうに捉えるかということが全てという気がします。いなくなってしまったけれど、蔦重にとってはいなくなっていると思っていないと思います。ずっと心の中に生き続ける。瀬川と語り合った本を具体的に作り、作ったものは残ります。つまりは居続けるんですよね。源内のことも、「耕書堂」という堂号も含めて、全て残り続けます。ずっと在り続け、生き続け、共に進んでいけるという構造がより強くなっていくのではないかと思っています。

――改めて、小芝風花さん、安田顕さんの魅力、そして瀬川と源内が蔦重に与えた影響についてお聞かせください。

小芝さんは、恋愛も含め、吉原の女性像というものを全て表現してくださいました。同時に、彼女が登場することによって、画面が華やぎ、かつ引き締まるんです。それは瀬川の魅力であり、小芝さんの魅力でありました。

存在感があり、“瀬川”という人がいたのだと、その形を表現してくださいました。大きな存在感というものがあるからこそ、蔦重という人物もきちんと見えてくる。一人だと見えないものが、やはり同志であり唯一無二の存在がいることによって蔦重という確固たるベースが生まれたのだと思っています。

安田さんについては前述の内容と重なる部分もありますが、大事な言葉を“適当”に言ってくださるんです。大切な言葉というものは、何となく聞いていたり、何となく言われたりしたときの方が心に響くということがあると思うのですが、まさにそのような存在だったと思います。“適当”であることがすごく重要でした。

源内は、人間的に奥行きがあって、話しを聞いているのかいないのか分からないですし、興味がなかったら知らんぷりもする。全てを受け入れるわけではなく、放置もするし、受け入れもするし、優しい目線で見たり見なかったり、時にアドバイスをしたりもする。そんな源内の“普通の人”なところは、蔦重の今後に大きく影響すると思いますし、そういう意味でも非常に大きな存在であったと感じます。

瀬川役の小芝さんも、源内役の安田さんも、私は初めてお仕事をご一緒させていただいたのですが、またぜひご一緒させていただきたいと思う、抜群の魅力をお持ちの俳優さんでした。

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