ヒラタオフィス所属・伊藤歌歩(撮影:厚地健太郎)

映画、舞台で存在感を見せる新進女優・伊藤歌歩「俳優って一生完成することがない仕事 楽しみでもあり、果てしないなとも思います」

2025.03.06 17:00
提供:Deview

 『裸足で鳴らしてみせろ』『福田村事件』などの映画や舞台に出演し、存在感を見せる俳優・伊藤歌歩。現在サンモールスタジオで上演中の「ヒラタオフィス+TAAC『さえなければ』」(12日まで)に出演。“遺体ホテル”を巡る事件を描いた、役者6人による会話劇に挑む。様々な現場で表現を磨く新進の俳優に、俳優の仕事のやりがいや楽しさ、芝居を始めた原点の場所への想いについて聞いた。

■伊藤歌歩インタビュー

――今回出演される舞台『さえなければ』は、ちょっと変わった設定のなかでの会話劇となるようですね。

「ずっとずっと喋っています。ヒラタオフィス+TAACの舞台には昨年10月に一度出させていただいていて、それ以前の2作品も観に行っているのですが、ここまで会話でテンポよく進んでいくスタイルではなかったので、今回は挑戦的な作品なのかなと感じています。以前はセリフの行間や間に情景があって、そこから何かを感じとるようなイメージだったのですが、今回はセリフから感じるエネルギーが大きい作品という気がしています」

――会話中心の劇となると、共演者と相対してからいろいろと変化していきそうですね。

「相手のセリフに食い気味でセリフを言ったり、敢えてちょっと嫌な間を開けてみたりと、色々探っています。個性的な役者さんばかりで、これまで捕ったことのない変化球を投げてくるなぁ!って毎回思っています(笑)。稽古が本当に楽しいし、本番中にも絶対にどんどん変わっていくだろうし、予期せぬことが起こると想像するとすごく楽しみです」

――今回はどういった役柄ですか?

「遺体ホテルに取材に来た記者の役です。遺体ホテルには従業員3人と住職さんがいるのですが、そのカンパニーに全くの部外者として入って来て、言わなくてもいいことを言ったりして場を乱すという役割です。今、こうして取材を受けている側なんですが、取材するって難しいなって思っています。役作りのヒントとして記者の仕事を描いた映画やドキュメンタリーを観たのですが、報道の方は特にエネルギッシュなので、まだまだキャラクターを探っています。せっかくTAACでこのキャストで演るのだから、共演の役者さんとのバランスを考えながら、面白くなるように稽古を重ねて探っています」

――稽古場のいい雰囲気が伝わってきます。

「こんなに仲の良い座組ってあまりないなって思います。私が今27歳で、一番上が31歳、下が23歳なので、ちょうど世代的に真ん中なんです。その立ち位置から“こういう時もあったな…”とか“そういう意見もあるんだ…”とか思いながら見ています。でも年下といっても自分より俳優のキャリアが長い方もいるので、皆さんから勉強させてもらっています」

――本作に興味を持った方に向けて、見てほしいところなど、メッセージをいただけますか?

「このお話はフィクションですが、実際に遺体ホテルというものは存在していて、身近に感じられるテーマであり、これから考えていかなきゃいけないテーマなので、こんなことが起こり得るんだという感覚で受け取ってもらえるんじゃないかと思います。ただし、重たい物語ではなくて、登場人物の6人全員が何かの過去を抱えながら生きていて、それを個性的な役者たちがぶつけ合ったり、ぶつけ合わなかったりして進んでいく人間ドラマが展開されます。会話がすごく面白い舞台だと思うので、ぜひ劇場に足を運んでいただきたいです。桜がモチーフとして出てくるのですが、桜の季節も近づいていますし、劇場も桜の名所の新宿御苑の近くですし、帰り道も楽しんでいただけたらと思います」

――現在Webで公開されている短編オムニバス映画『LONG SHOT』を拝見しましたが、こちらは俳優3人のみの会話劇で、ちょっとシュールな世界が展開されています。

「あの3人で北海道まで行って撮ったんです。上杉(哲也)監督は北海道出身の方で、北海道で作品を撮りたいという意思があるんです。諏訪珠理くんとは映画『裸足で鳴らしてみせろ』で共演させてもらっていて、三村和敬くんははじめましてだったのですが、2人とも本当に芝居が上手いんです。三村くんはコメディもシリアスもできて、作品を回してくれました。すごく楽しかったです」

――コントのような演劇のような不思議な世界観で、すぐに次の作品が観たくなりました。

「YouTubeで公開されていて、10分ぐらいの尺なので気軽に観られますし、見始めたら最後まで観てくださる方が多いと思います。監督に聞いたのですが、いろんな言語の字幕をつけて海外にも展開しているので、韓国などでも評判が良いみたいで。今はそうやって広がっていくものなんだなあって思いました」

――この作品も含めて、役者としてのチャレンジが続いているようですね。

「今までは何かを抱えているような、シリアスな役柄を演じることが多かったんです。でも『LONG SHOT』のようなシュールなコメディに挑んだり、今年1月に出演した舞台『昨日の月』では、“こういうセリフの言い方をしたら面白いんじゃないか?”というように、内面からというより外側から役を作ってみたりして、最近はチャレンジングな現場が続いていると感じています」

――そんな伊藤さんが演技の世界に興味を持ったきっかけは?

「小学校2年生くらいの時のクラス替えで、仲の良い子とクラスが分かれてしまって、学校に行きたくないという時期があったんです。そんなときに、何故かは分からないのですが、お母さんが私に演劇をやらせたんです。最初は嫌々稽古場に連れて行かれてたのですが、やってみたらすごく楽しくて。いい効果があったようで、内気だった性格が外交的になって、クラスにも馴染めるようになったんです。楽しかったので2回目もやりたいと言ったんですが、母は子役のようなことはやらせたくなかったみたいで、そこからは演技からずっと離れていたんです」

――演技への想いに火を点けられながら、おあずけになったと(笑)。でも再び演技の道へと足を踏み入れるんですね。

「大学に入学したとき、何かをやりたいのだけど、何をしたらしいか分からなくなったとき、またお母さんが“事務所に入って演技をやってみたら?”とアドバイスをくれて。事務所も色々探してくれて、その時にヒラタオフィスのオーディションを受けて、最初は、フラッシュアップに入所したんです」

――一度演技の経験があるとは言っても、ブランクはかなり長いですよね。

「週1回のレッスンに通っていたんですが、演技ができなさ過ぎて! 私、器用貧乏で、なんでもそれなりにできてしまうほうだと思っていたのですが、世の中にこんなにもできないことがあるんだって。演技が楽しくてハマったというよりは、できなくて悔しいという想いが最初の入り口だったと思います」

――レッスンを受けていく中で、成長したことや発見したことはありますか?

「オーディションに受かったことで、成功体験を重ねたことは大きかったと思います。最初のころはオーディションにもたくさん落ちて、ずっと泣きながら帰っていたんです。オーディションに行くと、年齢関係なく芸歴が長い子も多いので、演技の経験では敵わない。自分は芸歴も浅いし演技もできないから、嘘だけつかないようにしようと決めていました。セリフって自分の言葉ではないから“嘘”ではあるんですけど、セリフを言うときにはできるだけ嘘がないようにしようと思っていました」

――フラッシュアップからは、三山凌輝さんや坂元愛登さんなど、多くの才能が巣立っています。伊藤さんにとってフラッシュアップはどんな場所ですか?

「本当に原点です。そして俳優を始めたばかりの自分のことを知っていて、黒歴史を握られてます(笑)。この場所に来るたびに、あの頃を思い出すんです。演技とか何もわからず、毎日泣きながら帰ったこと。スタッフの方達にもいろんな相談に乗っていただきましたし、第二のホームのような存在で、演技を考える時のベースになっています。現在のマネージャーも、ここでレッスンをしている時から見守ってくれていた方なんです。演技についての相談はしないんですが、今日感じたことや、今度行ってみたいところ、演技以外でやってみたい仕事について、あとは本当にどうでもいい話を聞いてもらったり…。それが本当に有り難くて、恵まれた環境だなと思っています」

――そしてヒラタオフィスの所属となり、多くの作品に出演してきたわけですが、ご自身のターニングポイントになった作品は?

「映画の『裸足で鳴らしてみせろ』(2022年)と『福田村事件』(2023年)です。『裸足で鳴らしてみせろは』は初めてメインで出演した長編映画で。映画の現場について勉強させていただきました。スタッフは京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)のチームなんですが、みんなが同じ方向を向いて進んで、“こんな作品を作りたいから、全員でここに行こう!”という力を強く感じる現場で、楽しかったという記憶があります。この作品もオーディションだったのですが、台本をいただいた時、読み始めたら止まらなくなって、2周目に入って“わーっ!”って家で泣いてしまって。それぐらい好きな作品なので絶対に受かりたいという気持ちで臨みました。オーディションには“この役ならこんな服を着ていそう”だと思って、白いTシャツにビーチサンダルで行ったんです。後から監督が“その子が目の前にいるみたいだった”と言ってくれたので、“なるほど、こういうことなんだ”と、そこから役への向かい方も変わった気がします」

――『福田村事件』またタイプが違う作品ですよね。

「『福田村事件』は本当にハードな現場でした。でも1ヵ月間ずっと京都の撮影所の独特な雰囲気の中で、京都で作品を撮られてきたたくさんの先輩方の演技を間近に見ることができて、“こういう人になりたい”と自分の芝居がガラッと変わりました。作品作りにかけるエネルギーが凄すぎて笑っちゃうぐらいだったのですが、その熱量に負けちゃいけないと、魂を削った記憶があります。何もできなくてもいいから、一歩だけでも前に進んでみるということだけを考えて現場にいました」

――様々な現場を経験してきて、今は俳優としての自分の成長や変化が楽しみなのではないですか?

「自分のキャリアはまだまだなので、本当に先が長いなと思いました。俳優って一生完成することがない仕事なんだなって感じています。結婚したりして、人生のフェーズが変わることもあるだろうし、人生・生活とリンクしている仕事という気もするので、楽しみでもあり、果てしないなとも思います」

――今後はどんな仕事をしていきたいと思いますか?

「やっぱり映画が好きなので、映画の仕事を続けたいなと思います。やりたい役、一緒に仕事をしてみたい監督さん、俳優さんももちろんいるのですが、今は自分の成長のために、与えられた役を全力でやりたいという気持ちのほうが強いですね。あと一方で生活を楽しみたいと思っています。それは芝居へとつながっていくものだと思うから。もっといろんなところに旅行したり、いろんな人に会ったりしたいと思います」

――デビューはこれから俳優を目指す読者がたくさん読んでいるサイトです。ご自身の経験を踏まえて、背中を押してあげられるような言葉をいただけますか。

「俳優をやってみたいのに、何かの原因で迷ってるようなら、一回やってみたら?と言ってあげたいです。私もやってみてから、全然演技ができないことによってハマっていったので。一歩を踏み出してみることで、今まで知らなかった自分を発見できたりしますし、自分が予期しない役を演じた時に、役に共感できなくても自分と通じる部分があったり、日々自分を発見できる仕事なので、すごく楽しいと思うんです。そういうことに興味があるのだったら、まずはやってみてほしいと思います」

■PROFILE
伊藤歌歩(いとう・かほ)
1997年4月4日生まれ、神奈川県出身。
趣味:フィルムカメラ、ハンバーガー、古着、ライブ(音楽・お笑い)特技:バドミントン。
▼主な出演作
【映画】
連作短編集『LONG SHOT』 監督:上杉哲也(2024年12月~配信中)
『福田村事件』監督:森達也(2023年)
『リボルバー・リリー』監督:行定勲(2023年)
『裸足で鳴らしてみせろ』監督:工藤梨穂(2022年)
【ドラマ】
Netflix『君に届け』遠藤朋美役 (2023年)

■ヒラタオフィス+TAAC『さえなければ』
2025年3月5日(水)~12日(水)サンモールスタジオ

ある住宅街で、自治体による遺体ホテルの運営が始まった。現在もなお、職員と施設に反対する近隣住民の間で、侃侃諤諤の論争が繰り広げられている。そんなある日、1体の遺体の行方がわからなくなって。 (※遺体ホテルとは・・・火葬や葬儀までの間、故人を安置するための場所。近年、多死社会・火葬場不足などによりその需要が高まっている)

作・演出 :タカイアキフミ
出演:遠藤健慎、福崎那由他
伊藤歌歩、古澤メイ、高畑裕太
永嶋柊吾

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