飯田和孝Pが語るドラマに込めた思い「人と人とがつながって物事を行うパワーの強さを感じてもらえたら」＜御上先生＞

2025.01.18 09:00

1月19日(日)よりスタートする、松坂桃李主演の日曜劇場「御上先生」(毎週日曜夜9:00-9:54、TBS系)。WEBザテレビジョンでは、同ドラマのプロデューサーを務める飯田和孝プロデューサーにインタビューを敢行。本作を制作するきっかけや、物語の見どころなどについて語ってもらった。

日本教育にはびこる腐った権力に立ち向かう“大逆転教育再生ストーリー”

本作は、とある高校を舞台に権力争いや国の思惑、大人社会の要素を入れ込んだ学園ドラマ。官僚派遣制度によって私立高校への出向が命じられた東大卒のエリート文科省官僚・御上孝(松坂)が、令和の時代を生きる18歳の高校生たちを導きながら、権力に立ち向かっていく姿を描く。

学園ドラマではありながらも、子供が生きる「学校」と大人がもがく「省庁」という、一見別次元にある2つの現場を中心に物語が展開。制度を作る側の官僚では変えられない現状に対し、御上は学校から声を上げ、制度の内部から日本の教育をぶっ壊そうとする。

未来を夢見る子供たちが汚い大人たちの権力によって犠牲になっている現実に、一人の“官僚教師”と令和の高校生たちが共に立ち向かう“大逆転教育再生ストーリー”。教育のあるべき真の姿を描いた、これまでとは一線を画した新たな学園ドラマとなっている。

また、御上が担任を務める臨徳学院3年2組の生徒役にも注目の若手俳優が集結。報道部の部長でクラスのカリスマ的存在・神崎拓斗役の奥平大兼、神崎の幼なじみ・富永蒼役の蒔田彩珠のほか、影山優佳、窪塚愛流、上坂樹里、高石あかり、八村倫太郎、山下幸輝といったキャストが物語を盛り上げていく。

教育を通して社会や企業に生きる人たちを学校の中に投影した作品

――「御上先生」はオリジナル作品ですが、改めてこのドラマを着想した経緯、きっかけなどについて教えてください。

そもそも僕は「3年B組金八先生」の第5シリーズ(1999～2000年、TBS系)で、風間俊介さん演じる兼末健次郎(※優等生のふりをしながら裏でクラスを支配するシリーズ屈指の問題児)の回を見て「学校の先生になりたい！」と思って、受験勉強して大学の教育学部に入って教職課程を取ったんです。

そういった経緯もあって、いつか学園ドラマをやりたいとずっと思っていて。そんな中、2020年のコロナ禍に入って世の中全体が在宅ワークになっていた頃、あるアーティストさんの動画を見たんです。いろいろと生きづらい世の中というか、「若者に熱がなくて」などと言われている中で、その映像に映っている若者たちはすごく熱量があって輝いていて。

それを見た時に、「こういう人たちが輝けるドラマをいつか作りたいな」と思ったのが最初のきっかけでした。若者だって世の中に対して声を上げている人たちもたくさんいるし、そういったことに突き動かされました。

――本作は学園ドラマでありながらも非常に“社会派”なテーマを扱っていかれますが、脚本は詩森ろばさんが務められます。そうしたテーマを描く上で詩森さんは適任中の適任という感じですが、当初から詩森さんが担当されることを念頭に置いて進めていかれたのでしょうか？

詩森さんには、制作が動き出したのとわりと同時期に「やりましょう」とオファーさせていただきました。映画「新聞記者」(2019年)で詩森さんのお名前を拝見したのと同じくらいの時期に、以前お仕事をしたことのある女優さんが詩森さんの舞台に出演されるということで、その舞台を見に行ったんです。

そこから詩森さんの舞台を何度か見に行って、お話しをさせていただく中で「今度こういう学園モノをやりたいんですけど」ということをお伝えして。それで、詩森さんにやっていただくなら社会派的な要素はどうしても入れたいなと思いました。

やっぱり僕も「金八先生」への憧れがどうしてもありまして、ただ扱うテーマを今の時代のものにしただけでは、やっぱり「憧れを超えられないな」と思いますし、僕の中でも新しいものに出来る自信がなくて。そうした時に、新たな切り口を詩森さんと考えて、“官僚教師”という形にしたんです。

(それを思いついたのは)それこそ「ドラゴン桜」(2021年、TBS系)を企画していた時だったのですが、ちょうどあの頃「大学受験の形が変わる」って言われていたのに結局変わらなかったといういきさつがあって。

それがなぜかというと、結局現場の声を吸い上げきれないから、「変えたところでしっかりと判断できないんじゃないか」というところで一向に前に進まないという状況があるということで。そういったことも相まって、「こういう社会派の要素を入れ込んだドラマを作りましょう」と詩森さんと2020年から話し始めて、時を経て今のタイミングになりました。

――第1話を拝見して、社会派というかすごくダークな感じがして、普通の学園ドラマではないなという印象を受けました。飯田さんご自身としてはあくまでも「学園ドラマ」という意識で制作をされているのでしょうか？

ベースは学園ドラマにありますし、このドラマの主役は生徒たちだと思っていて。それは揺るぎない事実です。ただ、教育を通して社会や企業に生きる人たちを学校の中に投影しているというイメージですね。なので、カテゴリーとしては学園ドラマに社会派のエッセンスが入っている、というのが僕の中での印象です。

「(松坂さんは)踏み台にしてステップアップする作品にしたいと仰ってくれました」

――松坂桃李さんの起用理由や、期待したところについて教えてください。

松坂さんは「VIVANT」(2023年、TBS系)で初めてご一緒させていただいて。普段はすごく柔らかい方なんですけど、役柄を演じる時はどうにでも見える方というか。それは演技力はもちろんだし、ビジュアルなども含めて非常に得体が知れない感じのする役が、松坂さんはすごく上手だなと思っていて。

松坂さんはいろんな取材の中で御上という人物を「愛のある人」って表現されているんですけど、そこがありながらも我々は御上孝という役をどこか掴みどころのない人にしたかったんです。

なので、我々の中ではわりと早い段階で松坂さんにオファーしようと決まったんですが、今考えると企画を立て始めた時すでに「イメージキャスト：松坂桃李」ってなっていました(笑)。それが2020年かな？その後、ついにオファーできることになったのが「VIVANT」のちょっと後ぐらいだったと思います。

――実際に松坂さんの御上先生を見ていかがでしたか？

顔合わせで本読みをした時に、もう御上先生でしたね。本当にイメージした通りの感じでした。今回脚本が詩森さんだから松坂さんにオファーしたわけではなくて、最初にこのキャラクターを決めた時に、「松坂さんとかいいと思うんですよね」って詩森さんと話していて。

詩森さん的にも「松坂さんいいですね」っていう感じで、そこから詩森さんは台本を書く上で松坂さんを意識して書かれてはいますが、やっぱり(松坂さんは)ぴったりだったと思います。我々のイメージする御上先生でした。

――松坂さんとの間で印象的だった会話はありますか？

役を受けていただくことが決まって最初に会ったくらいの時に、松坂さんは映画「孤狼の血」(2018年)が「あの時代の松坂桃李の分岐点となった作品」だと仰っていて。松坂さんとしては、この「御上先生」という作品が僕の第二の分岐点になる、言い方を選ばずに言うと、踏み台にしてステップアップする作品に僕はしたいんですって仰ってくれて。これは責任重大だなってちょっと思いました(笑)。

「踏み台」っていい言葉だなと思っていて。もちろん作品を成功させることは僕ら制作がしなきゃいけないことなんですが、やっぱり役者さんから「そこを起点としてさらにステップアップできました」って言われることは僕らとしても何よりなので、その言葉は強烈に残っていました。

実は衣装合わせで生徒役のキャストのほとんどがそろった日があったんですけど、その時に「みんながこのドラマとどういう風に向き合うかは人それぞれです。僕らはこのドラマを成功させたい。皆さんには『チームワークよく』とか『チームと一丸となって』なんて言わないです。みんなこのドラマを踏み台にしてステップアップしてください」って、松坂さんの言葉をちょっとお借りして言っていました。それくらい強烈に残っています。

槙野を演じる岡田将生は「いろんな表現をする上でこの人以上の存在はいないと思った」

――第1話を拝見していて、教壇に立ってる時に生徒たちへ向ける冷徹にも思える視線だけでなく、温かい視線へと変化する御上の表情が印象的でした。そういった感情表現の部分を含め、松坂さんと演出面でお話しされたことはありますか？

どのくらい御上の「愛情」のようなものを表に出すかというところですね。当初台本を作っている時点では、そこまで表情を出さないイメージではあったんですが、実際松坂さんが演じられてディスカッションしていく中で、ちょっとした感情の変化を少しずつ入れ込んでいくことになりました。

やっぱりドラマチックに見せようとすると、「無表情な人がだんだん変わっていく」っていうところがあるんですが、「人間ってそうじゃないですよね」という話をしていく中で(そういう形になった)。生徒と対峙する時に、優しさとか愛情みたいなものをどの程度まで出すかというのは、松坂さんがクランクインした時などに会話はしたかなと思います。

――第1話に岡田将生さんが出てきて驚きました。松坂さんのライバル的な存在と言えるこの役に岡田さんを起用した経緯や理由について教えてください。

岡田さんも、松坂さんにオファーしている段階で「イメージキャスト：岡田将生」と書いていました。この同期のキャラクターって非常に難しいなと思っていて。

御上にとっての槙野のような存在は、おそらく世の中の皆さんにも絶対いると思うんです。親友と呼べる人だったりライバルと呼べる人だったり、仕事をする上で「相棒」と呼べる人だったり。そこってやっぱりすごく大事だし、心がしっかり通っている人のように見えなきゃいけないなと思っていて。

岡田さんとは「小さな巨人」(2017年、TBS系)でご一緒してたことがあって、その時の岡田さんの役への向き合い方や姿勢が僕はすごく好きだったし、年齢的なことでも松坂さんの年齢くらいの俳優さんで誰かってなった時に、真っ先に岡田さんが浮かびました。「岡田さんと松坂さん(がそろうの)、なんかいいかも」と思っていました。

2人の空気感というのが、もちろん皆さん俳優なんで役柄上の空気感を出すんですけど、根っこの部分でのお互いに対する信頼みたいなものがあって。それが「敵対」だったり「嫉妬」だったりいろんな表現をする上で、多分この人以上の存在はいないんじゃないかなって思いました。

「半沢直樹」のパート1(2013年、TBS系)に携わっていて、半沢、渡真利、近藤という同期3人の関係性ってすごく密につながっていて。あの3人の感じがドラマをすごく支えていたと思うんです。だからこそ槙野の役は本当に重要だなと思っていたので、岡田さんにお願いしました。

熟考に熟考を重ねた29人の生徒役キャスト

――29人の生徒役の皆さんはオーディションで決められたとのことですが、オーディションではあらかじめキャラクターが決まっていてそこにハマるキャストを選んでいたのか、それともキャストを選んでから役を当てはめていったのでしょうか？

わりとその2つが並行している感じです。(奥平大兼演じる)神崎というキャラクターが男性生徒で一番手になるのは当初から想定があったので、まずはそこを中心に決めていきました。そこから徐々に脚本も出来上がっていく中で、ある程度絞り込んだのと同時くらいに、29人のキャラクターが見えてきて。そこからは、オーディションを進んでいる人たちをどう役に当てはめていくかという作業でした。

――最初に神崎や(蒔田彩珠演じる)富永などある程度の配役があって、それをオーディションっていう形で見ていったという形でしょうか？

そうですね。オーディション台本は、男性キャストは御上と神崎のシーン、あとは神崎と(窪塚愛流演じる)次元のシーンで、女性キャストは富永と(上坂樹里演じる)東雲のシーン、それから神崎、富永、次元のシーンもあるんですが、その辺りを4パターンぐらいみんなに演じてもらいました。そこからある程度まで絞って、それぞれに合う役に当てはめていった感じです。

なので、(オーディション台本をやりながら)個々の適性を見定めて、各キャラクターに合うキャストを選んでいって。選んだ後にさらにキャラクターに肉付けする上では、選ばれた人の特性などをそのキャラクターにもプラスして注入していくという作業工程でした。

――キャストを選ぶ中で特に難航というか、すごく粘ったキャラクターなどはいましたか？

「この人はこれしかない！」ってすんなり決まったことはありましたけど、やっぱりみんな熟考に熟考を重ねました。早めに決まった子もいますが、あるキャラクターは「こっちの子かな？」っていうのもあれば、落選した子の中にも素晴らしい俳優がたくさんいました。

――松坂さんと生徒役のキャストの皆さんは、現場でどのようなコミュニケーションを取られているのでしょうか？「こんな光景を見た」というのがあれば教えてください。

松坂さんはニコニコして見てる感じが印象的ですね。(役柄的に)敵対している感じで行くのかなと思っていたんですが、わりと早めに打ち解けていました。生徒はこれからどんどんせりふが多くなっていくので、ずっとブツブツせりふを言ってる生徒もいて。そんなところを松坂さんはニコニコしながら見ていますね。

松坂さんはあんまり控え室には戻らないんです。教室で生徒が残っていると自分も残っている姿は印象に残っています。なので、生徒たちは松坂さんのことをすごく頼っていて。すでに頼れる先生になっているかなと思います。

「(生徒役キャストが)仲良くなって緩むようなことが全くないのは驚いています」

――松坂さんや生徒役のキャストについて、今までのドラマや作品から抱いていたイメージとの違いや、「こういう一面があったんだ」と気づいたことなどはありましたか？

僕が松坂さんとご一緒したのは「VIVANT」しかないので、座長的な役割を担う松坂さんと接するのは今回が初めてで。「VIVANT」の時は、映画「ラーゲリより愛を込めて」(2022年)で共演した後の二宮和也さんと一緒だったり、堺雅人さんや役所広司さんと同じシーンがあったり、すごく(先輩たちから)好かれる“弟分”みたいな感じのイメージでした。

今回はどういう感じなのかなと思っていたんですが、現場の“和”というか空気感をすごく柔和な感じにする人ですね。なので、「座長として引っ張っていくぞ」という感じとはまた違うんですが、みんなが自然と前向きな感じになれる空間を生み出せる人、という印象があります。

生徒役の皆さんも初めての人が多いんですが、僕が心配していたのは、生徒同士がすごく友達のように仲良くなっていって、だんだんと現場が緩んでくることで。正直に言うと、僕は学園ドラマが初めてでしたし、いろんな方からそういった話を聞いていてちょっと不安だったんですけど、それが全くないっていうのは驚いています。

「現場で手を抜こうがだらけようが、撮影が終わった時に全部自分に返ってくる」ということを、それぞれがわかっているのかもしれません。「このドラマで自分が一つ上の段階に上りたい」というか、「少しでも進歩したい」って思っているからこそ、すごく仲良くはなっているんですが、ダレてるような瞬間があまりないのはちょっと嬉しい誤算でした。僕も「ちょっと厳しく言った方が良いのかな」と思っていたんですが、まったく厳しくする必要がないです。

――今回の舞台となる隣徳学院の校舎の雰囲気が印象的でした。何かイメージされた部分やモデルにしたものなどはありますか？

実際にある高校をお借りしてロケをしているのですが、教室はセットです。廊下はセットと実際の高校をミックスさせています。隣徳学院が進学校だというのと、「創立20年」というわりと新しい学校の雰囲気が伝わるように意識しています。

「いかに合理的に物事を考え、当事者意識を持って物事を進められるかが重要」

――これまでも「マイファミリー」や「VIVANT」「アンチヒーロー」など、考察が盛り上がった作品がありましたが、本作でも考察は盛り上がりそうでしょうか？

どうなんですかね？いつも「考察系じゃない」と言ってるんですけど、視聴者の皆さんからは「結局考察で煽ってるじゃん」って思われているかもしれません(笑)。

御上先生がなぜ隣徳学院に来たのか、1話の最後で御上先生がいうせりふ、最初のシーンに出てくる人物が誰だったのか、その辺りはサスペンス要素や謎として、皆さんが想像してくれるかなとは思っています。とは言え、今回は考察よりもこのドラマを通して伝えたいことの方が大きいかなとは思っています。

――制作サイドとしては、視聴者から考察されることはどのように感じていますか？

考察という形でドラマを楽しんでもらえるのであれば、どんどん楽しんでほしいと思います。よく「大した謎じゃない」みたいなことを書かれるんですが、「そこは謎のつもりじゃないんですけど…」っていうこともありますが(笑)、盛り上がってくださるのは非常にありがたいです。

――コロナ禍を経た今の時代に、学園ドラマを作っていて何か感じていることがあれば教えてください。

「コロナ禍を経て」ということで言うと、今ちょうど文化祭のシーンを撮影しているんですが、生徒たちの話を聞いていると「コロナで文化祭やってないんですよね」という出演者たちが多かったりするんです。

コロナを経て、人と人とがつながって物事を行うことのパワーの強さみたいなものを、視聴者の皆さんにも感じてもらえたらいいなと思っています。文化祭のシーンに限らず、クラスのみんなで議論するシーンなどが結構出てくるんですが、これを昔の感覚でやると「みんなでこうやって時間を共有することがいいことなんですよ」っていうメッセージになると思うんですけど、そうではなくて。

その中でいかに合理的に物事を考えて、自分たちが当事者意識を持って物事を進められるかが、これからの教育としては大事なんだっていうところまで伝えたいなと思っています。その時に、面と向かってお互いの感情をすり合わせることがプラスに働くというのは、伝えられるといいかなと思っています。

(大人の社会でも)そういうことが今曖昧になっている時期だと思うんです。在宅ワークでもなくなって、「やっぱりみんな出社してていいよね」という感じもなくなってきて。それがごく当たり前になってきてるんだけど、だったらコロナ後の今みんなが面と向かって会議をする上で、何かコロナでの経験を踏まえてその会議を行わなきゃいけないんじゃないの？ってちょっと思っていて。そういったことは伝わればいいなと。