【連載】愛なんていらないよ、冬/onodela「アナーキーアイドル」#7 婚約を破棄し、しばらく人間不信になった話
2019年7月に、ステージ上でいじめを告発した動画がバズり、アイドルを引退した「小野寺ポプコ」。その後、早稲田大学を卒業、カリフォルニア大学バークレー校へ留学し、卒業生代表としてスピーチをしたことも話題だ。物議を醸したあの日から一体どんな未来に繋がっていったのか。現在、onodelaとして活動する彼女が自身の言葉で書き綴るエッセイ「アナーキーアイドル」。連載第7回は、婚約を破棄してからしばらく人間不信になった時の話についてお届けします。
#7 婚約を破棄し、しばらく人間不信になった話
2021年の冬。婚約までした元恋人と別れたわたしは、手元に2000万円を握りしめて六本木へと移り住んだ。 そのうちの1000万円は、大学4年という若気の至りに身を任せ、数十人と浮気した元恋人にノリで「慰謝料をください」と思い切って要求したら、あっさり渡してくれた。その数字にした理由は、共に過ごした元恋人の年収の半分だったから。そして、残りの1000万円は、「投資系インターンシップで培った経験を生かして、個人で投資運用を始めたい」と家族に相談したら、ぱっと預けてくれたものだった。
再起をかけて訪れた六本木。この場を選んだ理由はシンプルだ。それは、DJデビューの街としての思い出があり、その陽気さがなんだか好きだったから。引っ越して数日後、窓の外に目をやると東京の広がる景色とともに初雪が静かに舞い降りていた。
六本木で過ごした約1年は、その雪の一片が空をふわふわと漂うように、まるでどこかに漂流しているかのようだった。答えを探す旅に出たはずなのに、自分という迷子がそこにいた。大学卒業を控えたこのタイミングで、将来どんな仕事に就くか、どんな人間になりたいか、どんな人間に囲まれて生きていきたいか。そんな質問ばかりが頭に浮かんで、これからの人生に対してほんのり不安を抱くようになっていた。
港区に住む女子大生だったからか、良くも悪くも新しい出会いには事欠かなかった。この街では、きらびやかな誘惑がいつでも手を伸ばせば届く距離にある。光沢のある木製の什器に高価なバッグやジュエリーが美しく陳列されている高級ブティック、ネオンの光に浮かぶラグジュアリーなバー、2000万円の元本が生んだ投資益でそんな場所を訪れるのは、もはや日常の一部だった。けれど、そんな生活が虚しいというのはわかっていた。自由すぎる環境、誰かの甘い囁き、そして自分の中に潜む脆さ。それらが絡み合い、時折、足元が崩れそうになるのを感じた。
気づいたら、現実逃避ばかりしていた。将来の見通しが立たないことや、自分に対する不満を、外部からの刺激で1秒でも忘れることができたらそれでいい。元恋人との出来事で恋はまっぴらごめんだと思っていたけど、現実から逃げるために誰かに満たされたい思いでいっぱいになった。
引っ越してすぐ、同じマンションに住むカナダ人と知り合った。彼はSEとして東京で働いていて、私と同じく引っ越したばかりだった。初対面で会話は軽快に弾み、数日後には「付き合ってほしい」と告白された。一目惚れだという彼の熱意に少し戸惑いつつ、寂しい心を埋めるために付き合ってみることにした。しかし、そんなきっかけで付き合ったとしても長続きするわけもなく、たった10日で終わった。彼が別の女性と歩いているのを見かけただけで、婚約破棄した元恋人の女にだらしない姿がフラッシュバックしたのだ。そして、その後もこの人だけではなく、異性に失望してばかりだった。
その間に留学の間休学していた大学にも復帰した。復帰すると周囲はほぼ年下の後輩だらけ。多くの後輩が年上のわたしに遠慮して話すことなんて少ないだろうと思っていたなか、「先輩ってどこ住んでるんすか?」なんて軽く話しかけてくる子もいた。なんだか友達ができたようで嬉しかった。しかし、その喜びも束の間。数週間後に突然一本の電話が。着信を見るとその後輩からだった。戸惑いつつも平静を装って出ると、後輩はちょっと酔っていて息も上がっていた。
「今日ちょうど六本木で遅くまでいて、終電逃しそうなんですけど、泊めてくれませんか?」
なんだ、こいつもか。下心見え見えな一言を投げ捨てるように呟く後輩に、一気にげんなりしたりもした。
こういう事件が重なると、「もういい、もう誰のことも信用しない」と、恋愛に対して嫌悪感を抱くし、信頼なんてこれっぽっちもなかった。だけど、誰かに不信感を抱えながら誰かと一緒にいるよりももっと、一人でいることの方が耐えられなかった。
一人の男との出会い
そんな思いを抱えていても日々は勝手に過ぎていく。そんななか、引き受けた通訳の仕事先で、経営者のAさんと出会った。通訳の仕事を終えて帰ろうとしたら、いきなりAさんから連絡先を聞かれたのだった。通訳の仕事だけして帰るつもりだった私にとって、これは予想外の展開だった。
その後、Aさんからご飯のお誘いを受けた。品のある方だと思っていたので、失礼のないようお誘いを受けた。通訳の仕事の時とは打って変わって会話が弾み、気づけば楽しい時間はあっという間に過ぎ、穏やかで心地よいひとときだった。とはいえ、父より少し若いくらいで年齢差もあって、恋愛対象ではないことは、二度目にお会いしたときにきちんと伝えた。それでも時折お誘いは続き、食事を共にする中でビジネスのノウハウを惜しみなく教えてくださる姿に、信頼できる大人の余裕を感じた。
ある日、Aさんと夜景の見えるレストランでディナーをしているとき、普段は食事中に携帯を見ないけれど、なぜか嫌な予感に駆られ、ふとスマートフォンに手を伸ばした。ロック画面に表示されたのは父からのメッセージだった。「おじいちゃんが亡くなった」という一文が画面から見えた。
驚きと混乱が一気に押し寄せ、しばらく目の前の画面を見つめたまま固まってしまった。おじいちゃんのことを思うと胸が締めつけられるような感覚があった。おじいちゃんは病気を患っていて会話も言葉もままならないから会う機会も少なく、深い愛情を持っていたとは言えない。でも、父の悲しみを思うと同時に、いつか自分も父を失う日が来るかもしれないという思いがふと頭をよぎり、突然涙が溢れそうになった。
Aさんは落ち込むわたしにすぐ気づいた。「何かあった?」と優しい声で尋ねてくれたが、言葉を発することができなかった。そのときAさんはそれ以上何も言わず、ただそばにいてくれた。無理に話題を変えることもなく、わたしの気持ちが少しでも落ち着くのを待ってくれる、そんな静かな時間がありがたかった。ディナーが終わるころ、彼は「無理しなくていいけど、何かあったらいつでも言ってね」と声をかけてくれた。その言葉が、どこか胸にじんわりと響いた。
別れ際、Aさんが「つらいことがあったら、また教えて」と言った。その言葉を聞き、鈍感なわたしでも意識した。普段、わたしたちは仕事の話や共通の趣味については話すものの、家族やプライベートなことに触れることはほとんどなかった。そんな距離感を保ってきたからこそ、この言葉はAさんが一歩踏み出そうとしているサインなのだろうか――そんな風に思えた。どこへ向かう関係なのか、自分でもはっきりとはわからない。ただ、もしこの関係を続けたいのなら、また自分からメールを送るべきだろう。
結局、しばらく経ってもわたしはメールを送らなかった。返信しないことで、向こうからの連絡も絶えるだろうとわかっていたが、それを自分で選んだ。おじいちゃんが亡くなったタイミングで、わたしとの関係をその先に進みたいと思える人ではないと信じたく、もう一度会って話したい気持ちもあったけれど、案の定、Aさんからの連絡はそれきり途絶えた。少しの寂しさと、何かを学んだような気持ちを抱えながら、Aさんとの縁が静かに終わりを迎えた。
別れの代償
その後、早大のイベントで知り合ったフランス人博士とも親しくなった。江ノ島まで彼のバイクで風を切り、岬で食べた岩牡蠣を頬張るのは楽しい時間だった。しかし、昔からの親友と遊んだ時に撮った動画を彼に送ったことがきっかけで、すべてが変わった。
動画には、偶然その場にいた男友達の声が入っていた。特に気にすることなくそのまま送ったら、激しく怒りのメッセージを送ってきた。何を勘違いしたのか、「今まで俺をなんだと思っていたんだ?」と問い詰めてくる彼の言葉に、胸の奥で冷たいものが流れるのを感じた。たまたま男性の声が入っていただけなのに感情を爆発させるのは、結局わたしへの信頼がなかったということだろう。怒りや失望以上に、元婚約者との苦い記憶が再び蘇り、説明する気力すら奪われた。「この人もまた、信じられない人だったのかもしれない」。そう思った瞬間、彼の連絡先を消去した。
結局、元婚約者への未練は断ち切れたように思えても、わたしは一人きりでいた。クリスマスの日、せめて自分へのプレゼントをと思い、表参道でmiumiuのバッグや、バレンシアのジャケットなど流行っているものを買った。夜には誰にも会わず、自宅でデリバリーのピザを頼んだ。ピザを少し齧った後、バルコニーに立ち、煌びやかに輝く六本木の街並みを眺めていた。
その日、一人だったからか人生ではじめての、一回きりの泥酔をした。その時の切ない気持ちを唯一のはけ口として日記に書き殴っていた。
「元婚約者は『永遠』と言ったけれど、その『永遠』は終わった。あの時、まるでどこにも自分の居場所がなかったような気がして、彼はすべての願いが叶う神様のように見えていた。でももう二度とそこに戻れないんだ」
数年後のいま、やっと笑って読むことができた。そして、当時の自分を抱きしめてあげたい気持ちと共に、「人に頼り続けている限り、自分探しは永遠に終わらないもの」だと実感した。
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