川上麻衣子が語る恩人、志村けんさん「三鷹のご自宅にあった絶対に入っちゃいけない部屋の中には」
10代から女優として活躍している川上麻衣子さん。昨年は、一番の話題作とも言っても良いNetflixシリーズ『地面師たち』に出演。リリー・フランキーさん演じる刑事の妻役を演じた。川上さんに女優人生を振り返ってもらい、新藤兼人監督や志村けんさんなど、出会った恩人について語ってもらった。
* * *
人生とは文字通り人が生きると書きますが、その中でどれだけ自分の人生に影響を与えてくれる人に出会えるか。それが大きく左右するものだと思います。今回は私が出会った恩人たちについてお話しますね。
まずは映画界の巨匠、新藤兼人監督のお話。新藤監督とは17歳の時に初めて出演させていただいた『地平線』(84 年・松竹)をはじめ、『ブラックボード』(86年・近代映画協会)など数多くの作品に出演させていただきました。最初の頃はとにかく監督が怖くって「NGを出しちゃったらどうしよう」っていう緊張感と重圧感に押しつぶされそうになりながらも何とか食らいついていましたね(苦笑)。
けれど、監督の遺作となった『一枚のハガキ』(11年・東京テアトル)に出させていただいた時には「麻衣子さん、好きなようにやってくださいね」って優し~く言われて。もう、逆にそっちの方がプレッシャーになっちゃって。怒ってもらった方が、気が楽だったかも(笑)!
とにかく新藤監督が作品にかける情熱は凄まじいものでしたね。95歳の時に脚本も手がけた『石内尋常高等小学校 花は散れども』(08年・シネカノン)では、私は柄本明さんの妻役で出演させていただいたんですけど、物語の終盤で山を登ってお墓参りをするシーンがあったんです。
当時、監督はもう車椅子に乗っていらしたので、スタッフが監督用に車椅子で移動撮影ができる道を作ったんですね。そうしたら、撮影が1カ月、2カ月と続くうちに監督の体力がどんどん上がってきて、最終的には車椅子から立ち上がってズンズンと山を登って撮影されたんですよ。
最初のうちは車椅子に座って演出をされていたんです。でも、もうそれが居ても立ってもいられないというお気持ちになられたんでしょうね。いつしか、わーっと立ち上がって演出する回数が徐々に増えていって、それが蓄積されて筋力も付き、最後には山を登るまでになったという…。
人間は、好きなことや目標に向かって無我夢中に取り組んでいくと想像を超えるエネルギーが湧き上がるんだ。新藤監督の姿勢からそれを学びました。それから、私がずっと「師匠」と呼ばせてもらっている志村けんさん。
30代の頃、同じマンションに師匠も住んでいた時期があって、当時はご自分の番組を主軸とされていたので週に2~3日は共通の友人、可愛かずみちゃんと一緒によく麻布十番で飲みましたね~。大体いつも師匠が先にいて、私たちの仕事が終わると「今日は麻布十番の〇〇いるよ」って携帯で待ち合わせするんです。この3人が集結するとどうなるか!? もう眠たくなる時間帯までずーっと飲んでましたね(笑)。師匠は焼酎やワインが好きだったんですけど、私たちは飲み始めるとロングコース。だんだん強いお酒になっていくって感じ(笑)。
かずみちゃんは歌手としても活躍していましたし、シメにカラオケに行くこともよくありました。師匠は吉幾三さんが好きだったので「酒よ」とか「酔歌」「雪國」をよく歌っていましたね。すっごくいいんですよ~! 師匠の歌声。もう、味があって。
そんな師匠、テレビで見ている「志村けん」とはまったくもって違ったイメージなんです。私たちとはもう気心が知れている間柄なので、割としゃべってはいましたが、とにかく寡黙なんですよ、普段は(笑)。三枚目じゃなくて、どちらかというと二枚目のイメージでしたね。
まあ、元々ドリフターズはジャズバンドでしたから、音楽もすごく聴いていらっしゃいましたよ。三鷹のご自宅に何度か遊びに行ったりもしたんですけど、絶対に誰も入っちゃいけない部屋っていうのがあったんです。多分、仕事部屋として使っていらっしゃったのかな。
そこをチラリと拝見したことがあるんですが、もうおびただしいほどの数の書籍やDVD、CDが山積みにされていて…。あっ、変な勘繰りはなしですよ! もちろんすべてが師匠のコントのアイデアとなる情報で、とにかくすごかったんですから(笑)。
一緒のマンションに住んでいた頃は、よくパジャマパーティーもしてDVD鑑賞会なんかもしていたんです。その当時、師匠は藤山寛美さんの資料をずっと見ていました。その流れで「ドラマを一緒にやらないか?」という話をいただいて、深夜の番組でご一緒させていただくことになったんです。そこで笑いの根底にあるものをすごく学ばせていただきましたね。
笑いの大きなもととなるところに絶対に嘘をついちゃいけないという思想。例えば、酔っ払いが転ぶシーンひとつにおいても、なぜそこまで飲んだのかをしっかりディティールに詰め込まないと笑いという現象は起きないんだと。簡単に思える酔っ払いの仕草ひとつにもしっかり土壌を考えて動くということですよね。
それから一度、仕事も兼ねて私が生まれたスウェーデンに一緒に行ったことがあるんですよ。カメラが回っていない時、一緒に地下鉄に乗ったんですが、ちょっと風変わりなおじさんを見つけるとスッと隣に行ってそっくりの模写をするのが本当にお上手で(笑)。もう、これぞ志村けん、これぞ師匠の原点にあるものなんだなと思いましたね。
もう4年前ですか…。いまだに亡くなったという実感がなくて悲しいとか寂しいという気持ちより、あっけないなぁという感じです。だけど、あっぱれというか、何だかカッコいいな、師匠らしい去り方だったなぁって思うの、私だけかしら?
▽川上麻衣子(かわかみ・まいこ)1966年、スウェーデン生まれ。80年デビュー。同年ドラマ「3年B組金八先生」(第2シリーズ)の出演で脚光を浴びる。10代で衝撃のヌード写真集を発売、その後「うれしはずかし物語」(88年)、「一枚のハガキ」(11年)など多数映画に出演。現在は東京・千駄木で北欧セレクトショップ「SWEDEN GRACE」を経営。
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