仲野太賀

作り手にも受け手にも愛される、“余韻”を生む俳優・仲野太賀【てれびのスキマ】

2024.10.26 07:00
仲野太賀

見た後妙に印象に残る俳優

「抜け駆けしやがって!」

夏帆はそういたずらっぽく仲野太賀をイジった。2019年に芸名を太賀の2文字から名字を加えた仲野太賀に改名したからだ。そもそも「太賀」という芸名は、事務所が二世俳優と思われることを避けるために配慮してつけた名前だった。けれど彼自身は「恥ずかしいな、逆に二世俳優っぽいわー」と思っていたそう(「ボクらの時代」2019年10月27日フジテレビ系)。

大人になるにつれ名字がほしいという思いが大きくなり「今日から俺は!!」(2018年日本テレビ系)で広い層に知名度が広がったのを機に名字をつけたのだ。いまや、彼を二世俳優の枠で語るものはいないだろう。クセのあるキャラクターからごく普通の役まで巧みに演じ、いずれの場合も見た後、妙に印象に残ってしまう。いわば、“余韻”を生む俳優だ。

染谷将太との出会い

もともと小学生の時に見たドラマ「WATER BOYS」(2003年フジテレビ系)に感動したことがきっかけで役者を志した。最初に参加したオーディション会場の扉を開けると、目の前には、その直前にドラマで見て印象に残っていた少年がいた。それが染谷将太だった。染谷は同学年。それから度々、オーディション等で顔を合わせるようになり、学園ドラマ「生徒諸君!」(2007年テレビ朝日系)で共演を果たし急速に親交を深めた。

高校進学を控えていた仲野と染谷は、「高校一緒のところ行く?」と話し合い同じ高校に入学。クラスメイトとなった。入学式の後には、互いの母親を交えてランチに行くほどの仲。連日のように一緒に遊び、帰宅後も長電話、互いの自宅に泊まったことも少なくないほどの「親友」だった。だが、この頃から急速に染谷は注目されるようになっていった。

2009年には「パンドラの匣」で長編映画初主演を果たし、高い評価を得て、映画に愛されていくようになった。もちろん、親友が評価されるのは嬉しい。だが、同時に「唇が噛みちぎれるくらい悔しかった」(「だれかtoなかい」2024年8月25日フジテレビ系)という。感情はグチャグチャになった。その頃に出会い、やはり同学年で仲が良くなった菅田将暉も瞬く間に売れていった。

宮藤官九郎ファンの仲野がかなえた、夢のような仕事

自分は見向きもされない。憧れた映画俳優にはなれないかもしれない。そんな鬱屈とした思いを抱えていた仲野が19歳の時に出会ったのが岩松了だった。彼が演出の舞台「シダの群れ 純情巡礼編」(2012年)に出演し、「最初に手を差し伸べてくれた感覚」を味わった(「cinemacafe.net」2021年2月8日)。そこから媒体にこだわらず仕事をするようになって道が開けていった。

大きな転機となったのは、宮藤官九郎脚本のドラマ「ゆとりですがなにか」(2016年日本テレビ系)だろう。「ゆとりモンスター」と呼ばれる問題児を演じ、強烈なインパクトを残し、彼を主役としたスピンオフ「山岸ですがなにか」(Hulu)も制作された。仲野自身、この仕事は夢のようだった。何しろ、小学生の頃からの宮藤官九郎ファン。最初に覚えた作り手の名前は「クドカン」だった。

誇れるのは「出会い」だけ

2022年には「拾われた男」(NHK BSプレミアムほか)で主演。その際、自分の人生を振り返り、自分も「俺も拾われてばっかりの人生だな」と思った。

「岩松了さんのワークショップのオーディションのチラシを拾って、受けに行ったことから始まり、たまたま近所に住んでいた石井裕也監督との縁もそうです。さらに人生初めてのオーディション会場の扉を開いたときにいたのが染谷将太だったり……。なんかそういう縁が、いまの僕のすべて繋がっているように感じるんです」(「マイナビニュース」2022年7月16日)

自分が誇れるのは「出会い」だけで「たくさんの方に出会っていろんな場面で手を差し伸べていただけて今日がある」(同)と言う。事実、彼は染谷ら筆頭に交友関係が幅広い。それは彼のオープンな性格と素直な好奇心があるから得たものだろう。

「そもそも映画とかドラマとか舞台とかエンターテインメントが大好きなんですよ。思春期のころからその虜になっている自分が変わらずに今もいて、それがすべてのような気もします。自分が受け取り手であるという認識がすごくあって、その視点っていつまでも揺らがないんです」(「QUI」2022年7月23日)。

そんな視点があるからこそ、作り手にも受け手にも愛されているに違いない。

文=てれびのスキマ

1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌やWEBでテレビに関する連載多数。著書に「1989年のテレビっ子」、「タモリ学」など。近著に「全部やれ。日本テレビえげつない勝ち方」

※『月刊ザテレビジョン』2024年11月号

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