唐沢寿明

国民的アニキ、唐沢寿明はトレンディ俳優であり続けられる【てれびのスキマ】

2024.08.01 07:30
唐沢寿明

「唐沢会」初期メンバー・及川光博との関係

「キレイなジャイアン」

及川光博は、“アニキ”と呼んで慕う唐沢寿明を冗談交じりにそう形容する(「行列のできる法律相談所」2018年4月8日日本テレビ系)。2人は大河ドラマ「利家とまつ~加賀百万石物語」(2002年NHK総合ほか)の共演がきっかけで知り合った。だが当時、及川は私生活では“引きこもり”気味。それを心配したのか、唐沢は勝手に住所を調べ、自宅に押しかけて言った。

「ミッチー、温泉行こう!」

半ば強引にそのまま温泉に連れ出したのだ。これをきっかけに及川は心を開き、その後、メンバーが急増していく、いわゆる「唐沢会」の初期メンバーとなっていった。

「夫婦ぐるみで仲良くさせてもらって。僕の外食費はほとんど唐沢さんがもってるんじゃないかって(笑)」(「めざましどようび」2015年2月7日フジテレビ系)

そんな唐沢会は、及川の他、谷原章介、伊藤沙莉、広瀬アリス、宇多田ヒカル、松岡昌宏、窪田正孝、長谷川博己、佐々木蔵之介…、そして妻の山口智子と錚々たるメンバー。まさに俳優界の「アニキ」だ。及川は「男の生き様を教えてくれた」(「Interview File cast」vol.27)と語っている。

エキストラ、スーツアクター…裏方側で学んだこと

唐沢は、子供の頃に観たブルース・リーに憧れて俳優を志すようになった。あるとき、ドラマを観ていると母に「何泣いてるの? テレビじゃないの」と言われた。橋爪功演じる意地悪な男の言動に悔し泣きしていたのだ。だが、母の一言で、作り物なのに心を動かす俳優のスゴさを改めて知って、決意を新たにした。

唐沢は15歳のときに東映東京撮影所に赴き「俳優になりたいんですけど」と守衛に直談判した。しかし、当然のように「中学を卒業してから来なさい」と門前払い。1年後再び、別の守衛に声を掛けると今度は東映アクションクラブを紹介してもらい、当時最年少の団員となった。

刑事ドラマのエキストラや特撮ドラマのスーツアクターを務める日々。ダムや採石場に通い、危険なスタントを伴うアクションを演じた。どちらかといえば裏方側。だから「表に出てる人間のどこに頭にくるかとか、どこに腹が立つってことも知ってるんです」(「SWITCHインタビュー 達人達」2015年12月19日NHK Eテレ)と唐沢は言う。そして「いい経験でしたよ。仲間意識が生まれた。個人プレーはダメっていうのを学んだ」(「日曜日の初耳学」2024年6月23日TBS系)と振り返る。

トレンディドラマ俳優として大ブレイク

大きな転機になったのが舞台「ボーイズレビュー・ステイゴールド」への出演だった。このままでは表舞台に出る役者になれないと感じた唐沢がクラブを離れ掴んだ仕事。このとき、彼が最大の恩人と称す三生社・社長の橋爪貴志子と出会う。

奇しくも唐沢少年に俳優のスゴさを実感させた橋爪功の最初の妻である。彼女は唐沢に天性の華を感じたのだろう。当時、素肌に革ジャンなど男臭い格好をしていた唐沢に、爽やかなチノパンとポロシャツを渡し、これを着てオーディションに行くように指示した。

するとそれまでほとんど落ちていたオーディションに合格するようになった。そのひとつが朝ドラ「純ちゃんの応援歌」(1988~89年NHK総合)だ。25歳だった唐沢はイガグリ頭の高校球児を演じ、その好青年っぷりが大きな話題となった。そして1992年、「愛という名のもとに」(フジテレビ系)でトレンディドラマ俳優として大ブレイクを果たすのだ。

泥臭いアクション俳優の世界で育った唐沢にとって、トレンディドラマの世界は自分とはまったく違うものだと思っていた。だが「自分でこうなりたいってことよりも周りで見ている目のほうが正しいんだ」(「ボクらの時代」2014年9月7日フジテレビ系)と考えるようになり「それ以来、衣装合わせとかで自分で衣装を選んだことは一度もない」(同)と言う。

周りの人たちの言動こそ「その時代」を感じ取る道標

その後の活躍はもはや説明不要だろう。「自分のためにはやらないんですよ。誰かのためにっていうほうがやりやすい。がんばれる」(「日曜日の初耳学」前出)と精力的にチャリティ活動も行なっている。いまや国民的アニキだ。周りを大事にするというのは、チームプレーを学んだ下積み時代から一貫している。

自著で「『トレンディ』イコール『その時代』だというなら、おれはずっと『トレンディ』でいたい」(「ふたり」)と綴っているが、唐沢にとって周りの人たちの言動こそ「その時代」を感じ取る道標になっているに違いない。ならば、唐沢はいまもトレンディ俳優であり続けられるのだ。

文=てれびのスキマ

1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌やWEBでテレビに関する連載多数。著書に「1989年のテレビっ子」、「タモリ学」など。近著に「全部やれ。日本テレビえげつない勝ち方」

※『月刊ザテレビジョン』2024年9月号

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