佐藤日向の“一番星” 星見純那役との出会いを引き寄せた鈴の音/わたしことば(3)一番星
アニメ「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」(星見純那役)、「ラブライブ!サンシャイン‼︎」(鹿角理亞役)、「ウマ娘 プリティーダービー」(ケイエスミラクル役)などの声優として活躍するほか、舞台俳優としても活動する佐藤日向。そんな佐藤にとって大切な「言葉」を題材にして書き下ろすエッセイ連載がスタート。第3回のテーマは「自分星」。佐藤の代名詞とも言える「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」星見純那役との出会いのエピソードを綴る。
#3_自分星
高校2年生のとき、人生の選択肢が突然増えた。
声だけで表現する声優という仕事もあるのかと興味が湧き始めた頃、私は声優班に移動となった。これまで仕事といえば、自分自身が表に出ていく役者の仕事が全てだった私は、さてここからどうしたものかと新たな道を探し始めることになる。そんな時、当時のマネージャーさんから「舞台とアニメ、両方同じキャストがやる作品があるのだけど受けてみないか」と人生の転機となるきっかけをもらった。
今だからこそ言えるが、大学進学を視野に入れ始めた段階で「もしかしたら高校生いっぱいでこの仕事を辞めなきゃいけないかな」と考えていた。放課後は、周りの同世代の子たちと「夢っていつまで見てもいいんだろうか」なんて話を学校が閉まるギリギリまでしていたものだ。
そんな時に話をいただいたのがアニメ「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」のオーディションだった。これまでの私の経験値全てを見てもらえる場所に感じられて、オーディションに懸ける熱量がこれまで受けてきた中でもダントツに高かった。
「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」はいわゆるアニメのオーディション形式ではなく、2.5次元舞台のオーディション形式だった。一次審査は歌唱とダンスで、歌唱では自分が選んだ曲を、ダンスはその場で渡された振り付けを覚えて審査員の前で披露するスタイルだ。
これまで、このタイプのオーディションを幾度となく受けては落ちてを繰り返していた私は、「これはいけるぞ」「あ、これはダメだ」と自分の中でなんとなく分かるようになっていた。他の人にはあまり理解されないのだが、なんとなくの感覚があのオーディションの空間には存在する。もはや思い込み次第で自分のことを鼓舞できそうなぐらいに。
今回のオーディションは、なぜか会場に着いた段階から「いけるぞ」のパターンだった。芸能コースの高校に通っていた私は、オーディション会場で同じクラスの子や後輩と会うことも多かった。いつもなら「絶対に負けない。負けたくない。負けた後に学校で会いたくない」という気持ちが先行しがちだったが、今回はその気持ちも2割くらい残りつつ、周りの子がどんな歌を歌うのか、ダンスの表現はどのジャンルで魅せるタイプなのかといったワクワクした気持ちの方が強かったのをはっきり覚えている。
この頃の私はとにかく負けたくない気持ちが先行していた。さらに、マネージャーさんから「期待してるよ。頑張ったら将来いろいろなお仕事ができるよ」と励まされると、かえってそれがプレッシャーに感じて、から回ってしまうことも多かった。
そんな負けず嫌いでプレッシャーに弱い私は、6時間目の授業が始まる少し前に学校を抜けてオーディション会場へ。会場の近くでストレッチや発声練習をしながら目を瞑って、とにかく丁寧にやろうと自分に言い聞かせた。私は人よりも不器用で、経験上、緊張すると体が硬くなりやすいと分かっていたので、誰になんと言われようとオーディション前にベストコンディションに持っていきたかったのだ。それぐらい、このオーディションに自分の人生を懸けていたのだろう。
いざオーディション本番となると、緊張しいの私は頭から歌詞がすっぽり抜け落ちてしまった。それでも「音域さえ伝わればいい! 全部ラで歌う!」と最後まで歌い切った。あの時間に後悔はなかった。なんなら爽快感すらあった。オーディションの終盤では、「好きなアニメはありますか?」と得意分野を聞かれ、オタクスイッチが入った私は息継ぎする暇もないくらい好きなアニメを語った記憶がある。審査員だった古川(知宏)監督が笑っていたのも鮮明に覚えている。
オーディションの帰り道はなんだか夢心地だった気がする。楽しかった。まだ踊りたかったし、歌いたかった。でもやっぱり楽しかった。そんなふうに次々と気持ちがあふれ出て、自分一人では抱えきれなくなって30分くらい母と電話で話した。もし合格できていなくても今の私を100%出し切った、と初めて思えたオーディションだった。
高校卒業を目前に控えた頃、数学の授業終わりに合格しましたという電話をもらった。星見純那との出会いは、高校生最後につかんだ自分星ということになる。そして、彼女との初めての出会いは高校の終業式の日。元々は神楽ひかり役でオーディションを受けていたので、どの役になるかドキドキしながら制服のまま現場へ向かった。
スタァライト最初の現場では、「この中で1番好きなキャラと共感できるキャラを教えてください」と開口一番に聞かれたので「99期生で1番好きなのはクロディーヌ。なぜなら目元から伝わる自信あふれる姿がキラキラして見えたから。でも、共感という点でいうと純那です。考え方や性格が似ているところが多くて、不器用で、もどかしくなります」と答えた。そう言いながら「きっと一番私らしく演じられるのは星見純那しかいないだろうな」とも思っていた。だから、私が純那ちゃんに選ばれたのは何かの運命かもしれないし、私が引き寄せたのかもしれない。
純那ちゃんと一緒に歩み始めてもう7年。あの頃、何も知らなかった私が信頼できる、尊敬できる人たちと出逢えたのも、想像もできなかったようなたくさんの景色を見ることができたのも、純那ちゃんと出会えたからにほかならない。
チャンスは誰にでも平等にあると言うけれど、チャンスが訪れる音は実はとっても小さくて。あの時、自分星に気づくことが出来てよかった。もしかすると、純那ちゃんが身に付けている髪飾りの鈴が私を呼んでくれたのかな。大切で特別な一番星の女の子と出会うまでのお話。これまでに見た特別な景色の話はまた今度。
佐藤日向エッセイ連載#4は5月19日(日)更新予定です。「わたしことば」次回もお楽しみに!
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