【2.5次元の舞台裏】リアルと幻想の融合を絶妙に描きだす演出家・ほさかよう 「人の神様を馬鹿にしない」という信念
演劇プロデュースユニット『空想組曲』を主宰、2.5次元作品では舞台『魔法使いの約束』シリーズや『あんさんぶるスターズ!THE STAGE』新シリーズなどで活躍する演出家・ほさかようさん。
原作ファンが観たかった瞬間を、想像以上の美しさとリアルをもって舞台上に奏でてくれる演出家だ。あの没入感あふれる作品たちは、どんな想いとともに生み出されているのか。
2.5ジゲン!!では、ほさかさんにインタビューを実施。演出家としての歩みや、「こだわりすぎないことがこだわり」という自身の演出スタイル、2.5次元作品の醍醐味などを聞いた。
――まずは演劇との出会いについてお聞かせください。
高校演劇ですね。当時、三谷幸喜さんの舞台作品がテレビで放送されていて。それを観て「舞台ってこんなに面白いんだ」と思ったんですね。こんなに自由というか、お客さんが笑うような世界があるんだっていうところが始まりでした。
高校には演劇部がなかったので1年生の時に自分で創部して、そこから始めたのが僕の演劇人生のスタートです。当然最初は部員もいないので、ちょっと面白そうだなって子に片っ端から声をかけて。もう、ごった煮の寄せ集めで作ったみたいな感じでしたね。次の年から後輩たちも入ってきてくれたので、そこでワイワイとやっていました。
――その頃には将来的に演劇の道に進もうと決意されていた?
その時点では全然してなかったですね。ただ、高校演劇を通じて知り合った子たちと、卒業のタイミングで記念に公演をやろうって集まってやってみたら面白くて。そこから、高校卒業後も軽く劇団的なものを何度かやっていくなかで、演劇で食べていけたらいいなと思ってはいました。
でも今思えば、その時はまだ覚悟としては足りなかったかなというふうには思いますね。
20歳前後くらいの時に、少し有名な劇団の演出部のオーディションがあって、受けてみたら受かったんですね。そこでの縁がきっかけでプロの団体の演出助手をやらせてもらうようになって、お給料をもらうような機会も増えていって。その時に、制作をやっている方がプロデュース公演をやりたくて本を探しているっていうところで、以前僕が書いた本を見せたら気に入ってくださって。そこで初めてプロデュース公演にお呼ばれしたという形でした。
――『空想組曲』の立ち上げはその後になりますか?
その後ですね。そのプロデューサーの方と何本かやったのですが、当時僕は19、20歳くらいで。僕からしたら雲の上の存在な方々がキャストとして出てくださって、「ちょっと天才じゃん、売れちゃうじゃん」って思っていたんですけど、実際は演出家として全然太刀打ちできなかったんです。
このままではちょっとまずいと思って、1回自分でやってみようと思って立ち上げたのがプロデュースユニットの『空想組曲』です。
――経験値を上げる場といった意味合いもあったということでしょうか。
ありましたね。『空想組曲』を始めてからも、まだ全然太刀打ちできませんでした。いろんな先輩たちに怒られながら、いろんなタイプの演出家さんのところで演出助手としてつかせてもらいながら、「このぐらい自由だし、このぐらい個性も出していかなきゃいけないんだな」と感じたのは、20代の前半ぐらいですかね。
――演出助手などの経験を積んできたなかで、今のご自身のスタイルに1番色濃く反映されている部分はどんなところでしょうか。
僕はなんというか、“自分”があんまりなかったので、その時々でお世話になった方々のやり方を模倣するところから始めていきました。自分がない分、好き嫌いもないんですよね。くだらないコメディも好きだし、ものすごくシリアスで重たいものも、どちらも同じぐらい好きだったので、そこを混ぜていくって面白いかも…と。
『空想組曲』でやっていた時も大体それがベースになっていましたかね。すごいファンタジー世界の中で、急に現実的なものが入ってくるとか、くだらないコメディに見えているんだけれども、裏では結構ドロドロしたものが始まっていました、みたいなやり方がだんだん自分の中で定着していった感じでしょうか。
――最初に強いこだわりがなかったからこそ、そのスタイルが生まれていった?
そうですね。最初に呼んでもらったプロデュース公演では凝り固まっていたと思います。学生らしさといえばそうかもしれないんですが、ようは“勘違い野郎”だったので(笑)。自分で「天才だからこれできちゃう」って思っていたら、全然できないという経験をして。
役者の方々からもいろんな角度からの意見をもらえたので、1つのお芝居に対してこれだけの言葉を費やすことができるし、選択肢もいっぱいあるんだなっていうところを教えていただきました。
いろんな作品を観て作ってきた今だから言えることなのですが、こだわっている部分って実はそんなに重要じゃないんですよね。
初めは頭の中で考えてきた演出や、これはこういう流れだから面白くなるはずっていうのをこだわりだと思っていたのですが、実際にいろんな役者たちが集まってやってみると、思ったより笑えるシーンになったりとか意外と泣けるシーンになったりすることがある。
そういう現場で生まれたものの方が重要だから、そっちに舵を切ろうという判断をすることの方が、(こだわりより)お芝居にとっては大事なのかなと思うようになりました。こだわりを強く出しすぎないのがこだわりになったという感じです。
――実際の演出をつける際は、どの程度構想を練ってから稽古に入られるのでしょうか。
実際に色々試してやってみるやり方はどうしても時間がかかってしまう。劇団だとそのやり方もできるのですが、劇団外の作品だと作品やキャストによって稽古時間が限られているので、とりあえずざっくりとは考えるようになりました。
わりと早い段階でこちらからカードを切るというか、「今はこうやろうと思っているんだけど、後でやっぱりやめたって言うかもね」くらいのところを早めに提示するようにしています。
こんな風にやろうと思っていたけど、他にいいと思うものがあればそっちにするというやり方を体感することで、役者の子たちも積極的にアイデアを出してくれるようになったので、今はそのスタイルでやらせていただいております。
――ほさかさんの考えていたものと、役者が提案したものが食い違う場合は?
ジャッジをするのが僕の仕事だと思っているので、これは果たしてどちらが面白いだろうかっていうところをなるべく冷静に見るようにしています。誰の意見であれ、面白いことに価値があるし、面白くなればみんなにとってプラスになるじゃないですか。
そう考えているので、ぶつかること自体があまりないかもしれないですね。何を見せたいかっていう部分の共通認識がみんなにあれば、わりとその一言で「このキャラクター的にはもっとこうした方がいいかも」「なるほどね。そうすると淡々としすぎるからこの動作を入れよう」と。最終的に面白いっていう部分を目指して、僕はジャッジに専念している感じです。
そういう作業を一通り超えた方が、やっていることは1番最初に僕が提案したものと同じことだったとしても、圧倒的に変わってくる。それを演じる本人だけじゃなくて、周りのみんなも、そのシーンでの自分たちの役割を考えるようになるし、チームとしてよくなっていくなと感じています。
――ここからは2.5次元作品のことについてお伺いしたいと思います。最初に2.5次元作品と認識して取り組まれた作品はどれでしょうか。
『艶漢』(浪漫活劇譚『艶漢』シリーズ)という作品ですね。
――初めての原作ものの作品の印象はいかがでしたか。
すごく面白かったですね。とても美しい絵を描かれる漫画家さんの作品で、お話もものすごく練り込まれていて。ドロドロもしているし、くだらないところもある大好物だったので、「この世界観を表現するのにはどうすればいいんだろう」って考えるのはものすごく楽しかったです。
原作者の方もものすごく理解のある方で、オリジナル設定の提案も楽しんでくださる方だったので、初めての作品からすごく恵まれていたなと思いました。
この作品に限らずですが、原作が自分ではないというところで、やりたいことがやれない、縛られていて不自由だ、という印象は今まで持ったことがないですね。
――すでにファンから愛されているキャラクターを舞台上に描きだすことになりますが、その点で意識していることとは?
言葉にするのは難しいのですが、“人の神様を馬鹿にしない”ということだけは、信念として持っておこうと思っていますね。どのキャラクターにも、そのキャラを心底愛していて、ある種の神様のような存在として大事にしているファンの方たちがいる。
それを肝に銘じた上で、キャラクターたちをちょっとだけ子どものように捉えて書くようにはしていますね。がっつり子どもとして捉えると愛情が強くなりすぎてしまう気がするので、ちょっとだけ。あんまり愛を連呼するのは安っぽくなってしまうので嫌なのですが、「どのキャラクターにも愛情を持てる」っていうのは特権だなと思っています。
普通に作品に触れたら自分の推しのキャラクターが中心になってくるけれど、他のキャラクターたちも実際に生の役者たちが演じていて、そこに演出家として携わることで、彼らの意外な一面や素敵な一面を知ることができる。ちゃんと読み解けていなかったと気づかされることも多いので、それはきっと2.5次元作品に関わっていなかったら得られなかった感覚だと思います。
――『まほステ』(舞台『魔法使いの約束』)や『あんステ』(『あんさんぶるスターズ!THE STAGE』)など、シリーズ作品も多数手がけていらっしゃいます。シリーズものでの進化や発展はどう捉えていますか。
『まほステ』でいえば、空を箒で飛ぶ描写や魔法の出し方のバリエーションはシリーズが続くと増えていきますが、表現の進化という意味ではあまり考えすぎないようにしています。
シリーズになるような作品って、そもそも原作ゲームのストーリーが素晴らしいので、1話から2話、2話から3話に行くに従って必ず展開があるんですよね。それをいかに演劇として表現しようかっていう感覚になると自然と盛り上がっていく。
お客さんも、シリーズを追うごとに豪華になるセットや衣裳が観たいわけじゃなくて、物語を楽しみにしてくれているはずなので、惰性で前回と同じことをしないということだけは戒めとして持ちながら取り組んでいます。
1作品、2~3時間の中に全部の魅力が収まっているキャラクターに会ったことがないんですよね。彼らにも普通の人間と同じようにいろんな側面があって、それを毎回見つけていこうって思うと、いくらシリーズが続いても飽きることがないんです。
――シリーズが続くとキャラクターのいろんな側面を描ける、と。
そうですね。でも、そこは難しいところです。続編ありきで考えて「今作ではここまで」って出しきらないのもちょっとなんだかなと思ってしまう。なので、新しい側面を見つけようとは毎回全力で頑張るのですが、(次回のために)あえて見つけないようにするっていうことはしないようにしていますね。
――今後も作品を通してキャラクターの新たな一面を知れることを楽しみにしています。2023年秋には脚本・演出を担当される『Dancing☆Starプリキュア』The Stageの上演も控えていますが、演出家・脚本家としての今後の展望をお聞かせください。
今やらせていただいてる作品たちも大好きなのですが、やっぱり、やったことのない作品やジャンルには憧れがあるので、いつかやってみたいと思っています。スポーツものとか、熱血な少年漫画系とか。
――たしかにあまりイメージがないですね。
そうなんですよ。なので、いつか誰もやったことのないスポーツものとかやってみたいな、というのは前から思っていますね。
――ほさかさんのスポーツもの、すごく興味があります! 実現する日を楽しみにしています。では最後になりますが、ほさかさんの思う理想の演出家とは?
(熟考しながら)難しいですね。逆に僕が役者のみんなに「いい演出家ってどんな人?」って聞きたいくらいです。
優しいも違うし、厳しいも違うし、自分ですべて決めていく天才肌っていうのも違う気がするし…。その作品のために、使える力をすべて駆使してまとめることができる人、ですかね。そのためにはベテランであれ新人であれ、みんなの意見の芽も無視せず拾っていける人でありたいですね。
あとは、えらそうにならないっていうことですかね。ジャッジをしてまとめる。それが演出家の仕事であり、役割だということを踏みはずさない人が、僕にとって理想の演出家の形なのかなと思います。
***
物腰柔らかで、同じ視線に立って言葉を発してくださる姿に、キャスト陣からほさかさんが愛される理由が垣間見えたように思った。秋にはオールメイルでの舞台化で話題となっている『Dancing☆Starプリキュア』The Stageの上演も控えている。きっとその作品でまた、観客は“観たことのない世界”を目撃することになるのだろう。
取材・文:双海しお/撮影:ケイヒカル
(C)coly/舞台まほやく製作委員会
(C)尚 月地・新書館/幻灯署活劇支部
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