前川優希×谷佳樹×黒崎真音×花奈澪が語る、音楽劇『ジェイド・バイン』特別インタビュー
11月17日(木)、東京 北千住・シアター1010にて音楽劇「ジェイド・バイン」が開幕する。本作は、アニソンシンガーとして活躍中の黒崎真音が原案、花奈 澪が脚本を担当するオリジナル音楽劇。アンドロイドが実用化され、人々の暮らしに受け入れられている世界を舞台に、機械の生きがいと人間の心の強さを問いかけるストーリーだ。
2.5ジゲン!!では、本作主人公・ジェイド・バイン役の前川優希、ウィリアム・ハリソン役の谷佳樹、原案・音楽監修とリリー・ハリソン役の黒崎真音、脚本とダリア・ローダンテ役の花奈 澪に座談会形式インタビューを実施。
本作が生まれたきっかけから、クリエイティブな現場の雰囲気、制作2人から見た男性キャスト2人の印象、大切にしている“目に見えないもの”などについて語ってもらった。
黒崎真音「この感情を形にしないと」
――まず、作品が生まれたきっかけからお聞きします。どのような思いから本作の構想が浮かんだのでしょうか?
黒崎真音(リリー・ハリソン役/原案/音楽監修):もともと「原作者になりたい」という思いがあって、少しずつプロットを書き溜めていたんです。でも、1人でそれを形にするのは難しくて…。そんな中、去年9月に入院する機会があって、体が治ると同時に「この感情を形にしないと」と思ったんです。
そのような状況や感情でも歌にしたり形にしたくなってしまうことに対して嫌悪感を覚える瞬間もあるのですが、その時は「今だ!」と前向きな気持ちで取り組むことができました。
特に去年はいろいろなことがあって、音楽だけでは伝えたいことが伝えきれなくなってしまっています。この強い思いを物語として作り上げて、たくさんの人に伝えたいと思っています。
――脚本は、本作でダリア・ローダンテ役として出演もされる花奈 澪さんが書かれています。花奈さんに脚本を依頼した理由をお聞かせください。
黒崎:2017年8月に、なみおちゃん(※花奈のこと)が構成・脚本・演出をした『空想ペルクライム/Les Nankayaru』という舞台があったんです。ストーリー自体は暗めのものだったのですが(笑)、最後に残るのはキラキラした青春があってハッピーな空間ができあがっていて、「この人すごいな」と心の底から感じました。その時からずっと、一緒に何かをやりたいと思っていて。
私はアイデアがいくつも閃くタイプではあるのですが、それを具現化するには順序立てて文章化していかなければいけませんし、舞台にするなら専門的な知識や経験も必要です。
それで今回、頭に閃いたアイデアを形にするために、なみおちゃんの力を借りることになりました。本作にとって本当に幸運だったのは、まずは花奈 澪という人がいてくれたことです。他にもさまざまなご縁や幸運が重なって、今ここまで来られているのだと改めて感じます。
谷佳樹「まるで宝箱のようなストーリー」
――花奈さんは、脚本を書く上で苦労したことは何ですか?
花奈 澪(ダリア・ローダンテ役/脚本/ディレクション):苦労という苦労はあまり感じなかったように思います。世界観やものごとに対して、すべて噛み砕いて納得した上でないと書けないので、その作業に時間がかかったことが大変だったかな…と。5万字ほどあった初稿を3万5千字ほどにまで削ってブラッシュアップしたのですが、それも苦ではなかったです。自分で作ったものを自分で壊すのは、何ともぜいたくなことだなと感じていました。
あえて言うなら…ジェイドのセリフを書いているときに、頭の中でジェイドが前川くんとして激しいツッコミを入れてきて困ったことですね!(笑)。彼はツッコミ気質なので。
一同:(笑)
――皆さん、脚本を読んでどのような感想を持ちましたか?
黒崎:びっくりしました。あらすじの行間にある感情や言葉のやりとりも書かれていたんです。私でさえも想像していなかった部分を膨らませてくれているので、登場人物たちの輪郭がはっきり見えるように思えました。
なみおちゃんには、私の考えていること…それこそ本作のキャッチコピーにある“目に見えないもの”が見えているのかな? と。
前川優希(ジェイド・バイン役):セリフのひとつひとつやストーリーの一部分からも、伝えたいことや書きたいことがしっかりと伝わってきました。黒崎さんが伝えたいことを花奈さんが受け止めて、それをちゃんと理解した上で書いているんですよね。
アンドロイドに“生き様”という言葉を使うのも不思議な気持ちなのですが、それぞれの生き様や人生が見えてきて、その先どうやって生きていくのかも見えるように感じました。
谷佳樹(ウィリアム・ハリソン役):脚本を読んで「活躍しないキャラがいない」と感じました。みんなキラキラしていて、まるで宝箱のようなストーリーなんです。読んですぐに感想を連絡しました(笑)。早くみんなで作品を組み立てて、クリエイティブのセッションを楽しみたいとわくわくしています。
花奈 澪「各セクションが200%の力で」
――ビジュアルが公開されましたね。撮影現場の雰囲気や、衣装・メイクなどのご感想はいかがですか?
前川:原案である黒崎さんをはじめ、この作品に関わる全ての方の意気込みを、すでに強く感じています。衣装合わせの段階から、作品の世界観に合わせるだけではなく「前川くんに合った衣装を」と、強いこだわりを持ってくださっているんです。採寸から型紙取りまで。初体験でした。
キービジュアルの撮影でもとても熱意を感じたので、これから稽古を経て、さらに熱量が高まっていくのだろうなと楽しみで仕方がないです。きっと素晴らしい作品になりますね。
黒崎:本作では、原案の他にキャラクターのデザインと衣装デザインもさせていただいています。はじめに形にしたのはジェイドの衣装です。自分がデザインしたものが形となり、目の前に現れるまでを間近で見守れたのは感動的な体験でした。
型紙作り、生地選び…どれも、身体がより綺麗に見えるようにこだわりを持って細かく何度も何度も丁寧におこなってくださって。撮影では、ウィッグがついて、瞳にも翡翠の色が入って…。今もその感動はずっと続いています。
谷:スタッフチームの皆さんの熱量がすさまじく、この作品のために集まるべくして集まった方々だと感じています。絶対に成功させよう! という気持ちが伝わってくるんです。その思いに応えるには、今の自分が持っているもの以上のものを出さなければいけません。挑戦を重ねて一つ上の段階に上がる…自分にとって変革期となる作品になりそうです。
脚本を読んだり衣装合わせをしていても、本作は、作品のために何でも言い合える環境が整っていると感じます。ひとつの作品を作り上げるためには、中途半端なことをしたり、なあなあになって意見を曲げてしまってはいけないと思っているんです。1年のうちに立てる舞台の数や、命にも時間にも限りがあります。時間という物理的に失われていくものを削りながら作品を生み出しているのだから、舞台に立つ以上は意味のないものにしたくありません。
作品は、命の代償とも言えるものですから。そして、作品がさらによくなるために自分は何ができるのか、どういう意味を持った存在なのかを考えていくべきだと思うんです。本当に、早く稽古に入りたいですね!(笑)
花奈:谷くんが言うように、この作品を作り上げるために、強力なチームを集めたかったんです。例えば衣装はマッシュトラントの早瀬昭二さん(原作付き舞台衣装、アーティスト衣装、アイドル衣装制作などで活躍中)のチームにお願いしています。いわゆる漫画やアニメなどの“原作”という縛りが無いオリジナル作品なので、前川くんや谷くんに似合うのはこうだよね、と変更や調整ができるのも強みですね。
演出は数々の大作を手掛ける伊勢直弘さん。2次元の世界を再現する2.5次元舞台制作クリエイターの力は、日本が誇るべきものです。その方々と力を合わせて、原作の無いオリジナルの舞台を作ったらどれだけパワーのあるすごいものができるのか? と以前から考えていました。
また普通の舞台と違う大きな見どころとして音楽を、日本のJ-POPやアニソン界を先駆する多数のクリエイターの皆様が1曲1曲作ってくれています。すでに各セクションの皆さんが、200%の力で動いてくださっています。
黒崎:本作において私は、原案と音楽監修、その他デザインなどを担当していますが、プロデューサーという立場ではありません。この作品に関わっている全ての人が、登場人物それぞれや各セクションの責任者であり、プロデューサーだという意識を持っています。その皆さんの力を合わせて音楽劇『ジェイド・バイン』を作り上げたいと思っています。
前川:責任が大きい! 緊張します!(笑)
前川優希「あの経験が今の自分を作っている」
――本作では、普段は歌を歌っている黒崎さんが原案などを担当し、お芝居をしている花奈さんが脚本を書いています。前川さんも谷さんも、クリエイターとして作品を作ることもこの数年で経験されていますね。
前川:僕は、DVD制作にあたって映像監督と脚本を書かせていただきました。楽しい! わくわくする! だけではできなくて、天候やロケーションなどさまざまな事情で、思っていたものと違う方向に進むことも多かったです。
でも、その想定外の出来事がよい方向に転がったり、壁に当たった時に「よし、じゃあどうしようか」と考えを巡らせる…そういうことが楽しかったように思います。すべてが順当に進んでいたとしたらきっと大切な思い出にはならなかったでしょうし、あの経験が今の自分を作っていると言えます。
谷:僕は絵本を制作したのですが、描いていて腰が痛くなったり、クレヨンで手がものすごく汚れたり(笑)。制作中はものすごく大変だったのですが、最後までやり遂げれば自分の周りの世界が何か変わるだろう、という思いがありました。
本を手に取って下さる方に喜んでもらいたかったですし、ここで投げ出したら立ち止まってしまうとも思い、それをモチベーションとして最後まで頑張れました。想像を具現化するクリエイターの方々を、実感を持って心から尊敬するきっかけになった経験でした。
***
「役が前川くんを引き寄せた」「絶対に成功させたい」
――YouTubeに上がっている告知動画は、断片的なセリフの集まりで作られていて謎と興味をそそりますね。
黒崎:あえて謎を残して作っています。どういう作品なんだろう? と期待を高めていただきたい気持ちもありますし、舞台を観てセリフと内容の答え合わせをしたり、観劇後に改めてPVを見て舞台の追体験を楽しんでいただきたい、という願いも込めています。観劇の日だけではなく、前後も音楽劇『ジェイド・バイン』を体験していただけたらと思っています。
――ボイス収録の時は、お芝居について細かい希望やディレクションを出されたりはしたのでしょうか?
黒崎:原案はありますが、それぞれの人物のメイキングは皆さんにお任せしています。それぞれが、それぞれの人物のプロデューサーなので!
花奈:黒崎の言う通りディレクションは全然。どのキャラも何の違和感もなく脳内にあったイラストと文字が立体化した感覚でした。稽古が始まる半年も前なのに、ボイス収録があることで皆の中に既にキャラクターがいるってすごく面白いなあと。
前川:演技指導での指示や厳しいディレクションはなかったのですが、シチュエーションや喋り方の差分での「こういうのが欲しい!」というお願いはありました。やりやすかったですし、役者としてとてもやりがいを感じました。
役者は、与えられた台詞を言って動くだけではなく、もっとその人物について深く考えたり、さまざまなことを自己協議した上でお客さまに届けなければなりません。本作はその作業のしがいがある作品です。早くディスカッションしたい!
谷:僕は、いただいた脚本から得た解釈を持って収録に臨みました。ずっと感性が刺激されている感覚があって、圧倒される現場だったのを覚えています。僕が現場に持っていったお芝居と求められているものがぴったりハマったようで、安心しました。
黒崎:谷さんは、ご自分から何度も「もう一度ここを録りたい!」とやり直しを申し出られたんです。真剣に向き合ってくださる熱意が嬉しかったですし、素晴らしいメンバーが集まっているのだと改めて感動しました。
――制作のお2人から、なぜ前川さんと谷さんをキャスティングしたのかお聞かせいただけますか?
花奈:前川くんは、舞台の開演前などにSNSでとてもいいことを書くんですよ。言葉と気持ちをとても大事にする人だと感じています。多くの人は、例え心の中ですてきなことを思っていても、それを表にはなかなか出せません。だから、彼ならこの役を大事にしてくれると思ったんです。
それから、私はアンドロイドはエゴのないある種無邪気なものだと思っていて、彼もまた無邪気なところがあるのでその点でも合っているのではないかと。ゲームで負けるとすぐに機嫌が悪くなったり(笑)。そういう子どもっぽさも、無邪気さと共通すると思っています。
前川:いや、そんなことない!(笑)
花奈:人と仲良くなるのがとても早い人ではあるのですが、最終的な自分だけの壁はある人だと感じていて。本作でなにかその壁を取っ払えたらいいですね。
黒崎:私も壁があるタイプなので…。
谷:みんなで両側から壁を割りに行きましょう(笑)
黒崎:はっきりとした理由や決め手というものはなく、ジェイドは前川くんに演じてもらう運命だったのだと感じています。キービジュアルの撮影の時にとても印象的なことがあったんです。
ジェイドや私の演じるリリーについて、それぞれの衣装などについて少しお話をさせていただきました。ジェイドの袖の片方がぼろぼろになっているのは、去年怪我をした私自身の再現なんです、とお伝えしたら「そうだったんですね」「早くこの役に向き合いたいです」とその部分を何度も触って口にしてくださって…。役が前川くんを引き寄せたんだな、と思いました。
花奈:谷くんに対しては、多くを語ることのないほどに絶対の信頼感を持っています。舞台に立てば目が離せなくなってしまう存在です。
黒崎:出演されている舞台を何度か拝見して、“演じている”感のない自然さや空間を支配する力に圧倒されました。いつか一緒に何かを作り上げたいと思ったのですが、私はアニメソングの世界にいるのでなかなか接点が無くて…。
でもこの企画を立ち上げるにあたって、ようやくご一緒できることになりました。作品に対しても、先ほど思いを語ってくださったように、熱くてしっかりした考えをお持ちの方なんです。
花奈:そう、谷くんはこの企画の立ち上げ時のメンバーでもあるんだよね。
谷:うん。コロナ禍が本格化してきた2020年に「待っているだけではなく積極的に発信しなければ」と何人かで話し合ったことがあるんです。エンタメを終わらせたくない、って。その頃に夢見た自分たちでエンタメを作ること、それが今こうして本当に実現した。絶対に成功させたいです。
***
「心と感情の持つ強さと脆さについて考えるきっかけになれたら」
――冒頭でお聞きした、本作が生まれた時のことをもう少し深く伺います。先ほど前川さんからも“アンドロイドの生き様”というお話が出ましたが、本作の題材としてなぜアンドロイドが選ばれたのでしょうか?
黒崎:この作品は、私の精神世界から始まっています。昨年怪我をして自分の姿を見た時に、旧式のアンドロイドのようだと感じたんです。歌詞を書いて歌い、ファンの皆さんとかけあいをする、そしてまた歌詞を書く…。それがルーティンになってしまっている、まるでロボットじゃないか、と。そして、自分はここから何ができるだろう? と考えました。
プログラムによって動いているアンドロイドと、自分の意志と感情を持っている人間。どちらが強いのだろうか? 心とは何だろう? というのが、この作品が持っている問いかけのひとつです。
人間は、心と感情を持っているから素晴らしい一方で、感情が左右されて壊れてしまったりするなど、脆(もろ)くて生きづらい面もあります。ならば、自分の意志という“心”と“感情”を持っていないアンドロイドの方が本当は強いのではないか? と。
この作品を通して 伝えたいことはたくさんありますが、まずは、ジェイドが何を残してどう生きていくかを観て、心と感情の持つ強さと脆さについて考えるきっかけになれたら嬉しく思います。
その目に見えぬものを謳歌せよ
――最後の質問になります。本作のキャッチコピーに「その目に見えぬものを謳歌せよ」とあります。ご自身にとって、今大切にしている“目に見えないもの”は何ですか?
黒崎:未来や想像の世界です。今はないけれどもこうだったらいいのに…と思っていることはたくさんありますし、ファンタジーの世界も目には見えません。でも、想像しているそれらを誰かが形にすることで、アニメやゲームであれば多くの方が楽しんだり、実用化されれば便利に使われたりしています。本作にも、こういう世界が見たかった! と思えるものをぎゅっと詰め込んでいます。
谷:時間の幸福度かな、と思います。僕たちであれば、お芝居を観に来てくださった方々に何かを届けたい、受け取ってもらいたいと願っています。でも、それらは目には見えません。自分が生きている間に何ができるのか、何を届けられるのかを、これからの人生でもこの作品でも探していきたいと思っています。
花奈:たまに「自分は何のためにやっているのだろう…」と立ち止まってしまうことがあります。でもそうなった時に考えるのは、お客さまや参加してくれている人たちの心です。心は目に見えませんが、この作品を観てよかった、参加してよかったと思ってほしいと願っています。心を作ると言うと語弊があるかもしれませんが、私はこの作品でも、そうした心を作っていきたいです。
前川:人との繋がりです。ひょっとしたらそれは、目に見えないどころか実感すらないかもしれないのですが…。例えば本作であれば、かつて花奈さんと共演していなければジェイドは他の方が演じることになっていたかもしれません。そういった繋がりがあったからこそ、これまでや今の僕が作られています。
1対1の繋がりはもちろん、カンパニーの皆さんとの繋がり、観劇に来てくださった客席の皆さまとの繋がり、応援してくださるファンの皆さまとの繋がり…人との繋がりと呼べるものすべてを大切にして生きていきたいと思っています。
取材・文:広瀬有希/撮影:梁瀬玉実/編集:五月女菜穂
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