美容×おばあちゃん×百合「はなものがたり」

【漫画】「幸せな女性の物語が読みたい」美容×おばあちゃん×百合、唯一無二な作品が生まれた理由に感動

2022.09.16 08:30
美容×おばあちゃん×百合「はなものがたり」

コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットな漫画情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、「美容×おばあちゃん×百合」という話題作、schwinn先生の「はなものがたり」(コミックフラッパー)をご紹介。長年連れ添った夫と死別した主人公のはな代は、ある日独り身で化粧品専門店を営む芳子と出会う。芳子から手ほどきを受けることで美容の楽しさを知り、遠い昔に諦めていたものを取り戻していくはな代の姿と、やがて互いを知り惹かれ合う2人の関係性には、SNSでも「尊い」「キュンとした」「背中を押される」といった声が集まっている。執筆秘話を作者・schwinn先生に聞いた。

「幸せな女性の物語が読みたい」と描き始めた

「はなものがたり」以前はボーイズラブ作品を中心に活動していたschwinn先生。女性を主人公にした物語を描いてみたいという思いは長年あったが、なかなか踏み切れずにいたという。

「女性を描くときに描かなくてはならないことが多すぎて、私の未熟な手に余ると思っていました。これは決してほかの題材の方が簡単だということではなく、あくまで私にとって、ということです。まず女性はライフステージによって多種多様な選択をしなければならず、それによって個人の体験がものすごく違ってくる。ということは、様々なフィクション・ノンフィクションが扱っていますので、おそらくひとつの否定しがたい事実として存在するのだと思います。私自身が体験できることには限りがあるため、女性が複数人出てきたら扱いきれなくなるのではないか。

それから、私自身が女性であるということ。同じ女性の物語を描くとなると、それだけ作品に没入してしまって、私自身の過去のいやな思い出とか、とらわれていることなどに、いやがおうにも触れざるを得なくなる。創作者として胆力が足りないのかもしれませんが、作品と適切な距離が保てなくなるという実感がありました。ひらたく言うと、描いてるうちにイヤなこと思い出しちゃって描くのをやめちゃう」

そんなschwinn先生を動かしたきっかけは、ある無差別刺傷事件だった。

「電車の中で『幸せそうな女性を見ると殺してやりたいと思うようになった』という犯人による事件があり、ものすごく悲しい気持ちになりました。私が漫画を描く動機は、自分が読みたい物語を描きたい、ということが多いので、『あ、幸せな女性の物語が読みたいな』と強く思いました。

ちょうどそのときにTwitterで、大阪・文の里商店街の化粧品店(ビューティーショップ ドリアン)のポスターがバズっていたんです。シンプルなつくりで、その化粧品店のお客さんの高齢女性たちが自分の好きなお化粧をして楽しそうにしている、そこに関西弁のコピーが添えられている、というもの。すごくいいな、と元気をもらいました。同時期に、やはりSNSだったかと思うのですが、『○○歳以上の女性がこんなメイクをするのはみっともない』というようなメイクのプロの方の意見が批判と共に流れてきました。うーん、そんなことないよなあ、と思いました。

私はもうすぐ40歳になりますので、これから漫画を描いていくのに、どうしても20代の人よりはのこせる作品数が少ないわけです。うだうだ思い悩んでいないで、女性の物語をとにかく描いてみよう、と思いました。百合も、憧れつつも諦めていたもののひとつでした。有識者の方からこんなのは違う、お前は分かっていない、とお叱りをうけるかなとも一瞬思ったのですが、まあそれでもいいや、せっかく漫画を描き始めたのだから、思いついたことは1つでも多くやってみよう、なかば開き直れるようになったのは、アラフォーまで歳を重ねてきた強みかなあ、とのんきに考えて描き始めました」

Twitter投稿した第1話が大反響、同年代の女性からも共感

こうしてTwtterに投稿された「はなものがたり」の1話原型「美容にめざめるおばあちゃんの百合漫画」は2.8万リツイート、9.7万いいねの大反響を集めた。担当編集の入倉さんも共感したひとりだ。

「Schwinnさんがこの作品を投稿されてすぐ、仕事とは関係ない友人たちをフォローしているTwitterのタイムラインにツイートが流れてきたんです。私も偶然ですがschwinnさんと同世代で、同い年くらいの女性の友人たちがみんな感動してリツイートしていたのが印象的でした。すぐにDMでご連絡し、何かしらの形ではな代さんたちのお話の続きが読みたい!商業化してコミックスにまとめられないか、とご相談しました」(入倉さん)

作者としても、反響の大きさは予想外だったという。

「1話目はあんなに読まれることになるとは思わず、とても驚きました、読んだ方のナマの感想を知ることができて、SNSをやっていて良かったなあと思ったものでした。どの感想もうれしいものばかりでしたが、実際に化粧品屋さんを営む方が『街の化粧品店がとりあげられて嬉しい!』とおっしゃっていたり、また連載が始まった後、はな代さんのように孫のいる方が『孫の漫画を買うそぶりで連載誌を買いました』とつぶやいてくださっていたのはうれしかったですね」

メイクが実現するエンパワメント「自分を奮い立たせてくれる」

「はなものがたり」では、亡き夫や世間から聞かされた“みっともない”という言葉に縛られ美容を避けていたはな代が、芳子のすすめで美容の楽しさに目覚め、しがらみから自由になっていく姿が描かれている。メイクとは、ときには強制的に押し付けられる規範にもなり得る一方で、本作のようにエンパワメントのツールにもなる。schwinn先生の思うメイクとは何なのだろうか。

「私は体質的な理由と、めんどくさがりな性格とで、日常的にメイクはしていません。でも、何かイベントごとや頑張りたいことがあったときに、自分なりに洋服を工夫したり、それに合わせてメイクをすることは大好きです。何かハレの日の儀式みたいな、いつもと違う特別感を感じてわくわくします。映画を観たり本を読んだり音楽を聴いたり一人旅をすることも好きなのですが、メイクもそれらと同じように、自分を癒し、自分をケアし、奮い立たせてくれるもののひとつです。

ただ、今の私の生活環境がそれを許してくれているので、もし毎日義務的にメイクをしなければならないような仕事に就いていたら、そんなにメイクが好きではなかったかもしれません」

確かに「はなものがたり」作中でも、はな代は芳子の手ほどきのもと、自分で選択した新しいメイクを通じて新たな自分を見つけ、人生への希望を感じていく。メイクでなくてもそのような解放を感じた経験はあるか、schwinn先生に尋ねてみた。

「大学に入学したときでしょうか。作中で芳子さんも感じていたことですが、授業や読書を通じてさまざまな人の生き様や価値観に触れて、『これは自分だけかもしれない…』と思っていたことが、実は古今東西で大勢の人が考えてきたことだとわかったり、物事に対してさまざまな方向からの分析の仕方を知ることで、ある点から見るとくだらないものでも、別の視点から見てみると素晴らしい要素があると気づいたり。世の中は自分が思っていたよりすごく複雑で、ひとつの見方に固執しなくてもよいのだと知ると、ものすごく気楽になった気がします」

女性と女性同士の絆に絶対的な信頼

「はなものがたり」のもう1つの大切なポイントが「百合(女性同士の恋愛)」だ。フィクション作品では数少ない高齢女性同士の恋模様を描くのは、フィクション・現実共に未だに存在する「女性は若いうちしか価値がない」という価値観へのカウンターとも読み取れるが、そういったねらいもあるのだろうか。

「それよりも、自分が読みたい話を描いたらこうなった、ということに近いと思います。というのも、私自身がそろそろ若くなく、百合にしても、もちろん学生同士の作品で素晴らしいものはたくさんありますが、私自身の興味が自分に近い大人同士の百合にうつっていて、自分が描くならやはり大人の物語がいいなと。

大人も漫画を読む時代ですし、描き手もしかり。社会人を描いた百合も昔に比べて増えているように感じますし、ジャンル問わず中高年が主人公の漫画も増えている気がして、読み手としても非常に嬉しい傾向です。自分が高齢者になったときにぷっつり漫画を読むのをやめているとも思えないですし、おそらく今漫画を読んでいる人たちもそうで、年を重ねるにしたがって興味関心が若い頃と違ったり広がってゆくのは、そして自分と似た登場人物を求めるのは、自然の成り行きのような気がします。

こうして少しずつ『女性は若いうちしか価値がない』というような価値観はおのずと薄まってゆくのではないかなあ、と思いますし、そうなるといいなあと思います」

ちなみに「はなものがたり」のタイトルは、吉屋信子による女性同士の友愛や恋愛を描いた名作少女小説「花物語」からとられている。「花物語」のファンだというschwinn先生に、魅力を語ってもらった。

「なんといっても、女性と女性同士の絆に絶対的な信頼を置いているところです。女性同士の絆について、『女同士の友情は浅い』『女同士はドロドロしている』のような、ちょっとしょんぼりしちゃうような評判はいまだにあると思うのですが、それは吉屋信子さんの昔から言われてきているようなのですね。『花物語』よりあとの作品ではよりはっきり、例えば夫が妻の交遊を取るにたらないもののように言い、妻がそれに反駁するというような描写も出てきます。

『花物語』を吉屋さんがお書きになられたはじめは、そこまで自覚的ではなかったかもしれませんが、女性と女性の間にめばえる感情のあれこれを決して取るに足らないものではなく、まったく気後れすることなく、ひとつひとつを豊かなドラマとして丹念にとりあげる筆致は、私にはいっそ真新しいものにうつりました。

なにより、ある女の子がある女の子に出会って天地がひっくり返るくらいの衝撃を受け、どきどきしたり思い悩んだり思いが通じたり、でも離れなくてはならなかったり、そうしたガールミーツガールの物語が世の中の花の数だけ読めるというのはとっても楽しい体験でした」

こういった「女性と女性同士の絆」への信頼は、「はなものがたり」にも垣間見える。

人は60代を迎えても根っこの部分は変わらない

「はなものがたり」のはな代と芳子は共に60代だが、その描かれ方はいわゆる記号的な「おばあちゃん」ではない。新しい化粧品を試してワクワクしたり、淡い恋の予感にドキドキしたりと、みずみずしく繊細な感情が描かれている。

「自分よりかなり年上の2人を作っていくときに、『人は60代を迎えても根っこの部分はそこまで劇的に変わらないのではないか』という仮説がなんとなくありました。もちろん私はまだ60代になっていないので本当のところは分かりませんが、周囲の先輩たちを見ていても、いわゆるテンプレ的な『おばあさん、おじいさん』はいない。何より私自身がそこまで大人の自覚がない。ちょっとどうかと思いますが(笑)。私が大好きなバンドのメンバーも60代後半ですが、まだまだ現役で、ラジオでもいまだに彼らが出会った学生時代のまんまのくだけた会話をして笑い合っている。

自分がまだ経験していない年齢の人物を漫画の登場人物にすえるということで、ちゃんと描けるのだろうかという不安はもちろんありましたが、いっそ思い切って、今の自分とそこまで変わらない感覚でやってみようか、と思いました。もちろんスマホを見るのにメガネが必要だったり、立ち上がるときによっこらしょ、とかは言うと思いますが、恋をしたら一人で一喜一憂したり、ちょっと妄想してみたり、内面的な部分はあまり考えすぎないで思ったままを描くようにしています」

2人のキャラクターを作っていく上で心がけたことや、2人それぞれの魅力的な点についても聞いた。

「はな代さんはお茶目で、基本的には楽観的で、素直な人。進学や結婚のたび、自分を変えたり我慢を繰り返さなくてはならなかったわけで、その良し悪しはともかく、とにかくここまで乗り切ってきたという点においてはすごい人だな、とも思います。

芳子さんは自分の感覚を大事にしている人。自分の仕事にも独自の解釈をもって臨み、一見クールですが、他人のために怒ったり笑ったりできるフランクな面もある。

SNSで1話をアップしたときに、おそらくはな代さんたちと同世代の方が「おばあちゃんたちを可愛く(外見的な事でなく)描いてくれてうれしい。おばあちゃんになっても急に老け込むわけじゃないからね」というような感想をつぶやいておられ、「あ、私はそこまで大間違いをしていないのかな、よかった」と胸をなでおろしたことがあります。

私はこれからはな代さんたちの年齢に向かっていくわけで、歳をとっていくことではな代さんたちのキャラクター造形の答え合わせが身をもってできるので、歳をとる楽しみが増えました」

知ったかぶりをしないように、失礼のないように

女性の物語を描くのは今回が初めてだというschwinn先生。百合とBLでは物語を作る上で意識することの違いはあるのだろうか。

「BLは、自分と性別が違う人たちを描くので、できるだけ知ったかぶりをしないように、失礼のないように。百合は、と言えるほど描いていないので…今『はなものがたり』で意識しているのは、BLよりかは自分とぐっと近い人たちを描いているので、それで慢心して知ったかぶりをしないように、失礼のないように。

とは言っても、もちろん完璧にはできないのですが、できないなりに、それでもぎりぎりまで知ったかぶりをしないように、なるべくキャラになりきって考え続けるようにしています。こうしてみると何を描くときでもあんまり姿勢に違いはないかもしれません」

最後に、これからの「はなものがたり」がどうなっていくのか、この先描いていきたいものを聞いた。

「『幸せな女性を描きたい』というのが発端ですので、「はなものがたり」のお話がどう進んでいっても、はな代さんも芳子さんも他の登場人物も、幸せに毎日の生活を謳歌していくだろうな、と思います。大きな事件が起こらなくても、日常のこまごまとしたことを大切に、そして何よりはな代さんと芳子さんのせっかくできたご縁を大切に、描いていきたいなと思っています。

この先描いていきたいもの…。私はまだ漫画を描き始めて5年ほどと日が浅いので、いろいろ欲はあります。今までとガラっと変えた非日常的なものとか、恋愛ものじゃなくてバディものもいいなとか。でも、とにかく人の表情を描くのが好きなので、どんな題材を描くにしても、人間同士の関係性を大切に描いていきたいなと思います」

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