グラビアからプロレスへ、ウナギ・サヤカが遅咲きでレスラーになった理由「踏み台にして有名に」
女子プロレス団体「スターダム」で活躍しているウナギ・サヤカ。かつては、ジュニアアスリートととして活躍し、さらに地元大阪でアイドルグループに所属。その後羽渚さやか、卯渚さやかという名でグラビア界にも進出した。そんな彼女が、20代後半というやや遅咲きでレスラーへと転向。東京女子プロレスに所属し、2020年にリングネームをウナギ・サヤカに改めてスターダムへと入団したのだ。色彩豊かななキャリアを経て、なぜレスラーへの道へと進んだのか。そして、『花の慶次』の戦国武将・前田慶次のように「私も傾奇者になりたい!」と宣言する彼女は、どんな未来を見据えているのか…。元週刊プロレスの記者、小島和宏が直撃した。(前中後編の前編)
ウナギ・サヤカとは不思議なプロレスラーである。
めちゃくちゃ強いわけではないが、どうにもならないぐらい弱いわけでもない。けっして若いわけではないけれど、キャリア的にはまだフレッシュ枠。そして、とにもかくにも、なんだか見ていて「ひっかかるものがある」のだ。
見る側にとって好き嫌いがものすごく分かれる選手ではあるが、嫌いだと思う人にも確実にひっかかっているわけで、これはプロとして間違っていない。なによりも普段、プロレスを見ない人を会場に連れていくと「なんか気になる」と言われる率が高いのがウナギ・サヤカなのである。
そもそも、どうして彼女は年齢的はかなり遅いタイミングでプロレスラーになろうと考えたのか?
「プロレスラーになろうと思ったんじゃなくて『プロレスやってみたら?』って薦められたんですよ。ただ、そのときは即答で『ない、ない!』って。私、それまで一度もプロレスを見たことがなかったので、女子プロレスといったらダンプ松本さんとかアジャ・コングさんみたいに体が大きい人が顔に絵を描いて闘っているイメージしかなかったので、それはできないな、と。そうしたら『いや、今の女子プロレスってこんな感じだよ』って、東京女子プロレスのポスターを見せられて。そこにはかわいい女の子がいっぱい写っていたわけですよ。それでもうすぐに『じゃあ、やる〜!』って(笑)」
これまでの常識でいえば、女子プロレスラーを目指す子は中学か高校を卒業したタイミングで入門し、10代のうちにデビュー。まさに青春をリングに賭けてきたわけだが、ウナギ・サヤカが『じゃあ、やる〜!』というノリで手を挙げたときには、もう20代後半だった。そこに至るまでの話を聞くと、やはり10代前半まで遡ることになる。
「小学2年生のときからシンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)をはじめて、オリンピックのジュニア選考にも入っていたんですよ。このまま続けていれば確実にオリンピックに出場できる、と言われていたんですけど、それでちょっと人生を考えちゃったんですよね。
たしかにオリンピックに出場するのは栄誉かもしれないですけど、出てしまったら、しばらくはこの世界に残らなくちゃいけない。おそらく30歳ぐらいまでは縛られちゃうんですよね。それってどうなんだろう? って思って、中2のときに辞めちゃいました」
その後、チアリーディングをはじめると、そちらでも全国優勝。チャラチャラした印象が強い彼女だが、じつはかなりのスポーツエリートなのだ。
「結局、私は芸能界に入ってアイドルだったりグラビアだったりをやることになるんですけど、いろんなオーディションを受けても、結局、引きになるのはそういう過去のスポーツでの実績なんですよね。自分としては、もうずいぶん昔のことだし、いつまでも過去の栄光を引きずっていくのはしょっぱいなって思っていて。そこからですよね。人生で今、マジでがんばっている! と言えるものをなにかやりたい、と探しはじめたのは」
ちなみにタレントとしての出演歴の中に『ウルトラマンX』(2015年)がある。彼女は第16話で「セミ女」を演じているのだが、この回は55年を超えるウルトラシリースでも屈指の異色作としてマニアのあいだでは有名なエピソード。『シン・ウルトラマン』の大ヒットを受けて、新しいファンが2020年に放送された『ウルトラマンZ』を一斉に見始める、というまさかの現象が起きているため、ウナギ・サヤカが演じたセミ女が7年ぶりに再注目される日がやってくるかもしれない(それぐらいのインパクト回、なのである)。
とはいえ、タレントとしてはなかなかブレイクすることができないまま、気がつけば時間だけが流れていた。これだったらオリンピックへの道を突き進んでいたほうがよかったのかもしれない……そんな時期に出会った女子プロレス。
もはや、これは運命と呼びたいぐらいだが、当時、本人は「いろんなオーディションを受けるときに、じつは女子プロレスラーなんですよ! って言ったら、絶対に食いつきがいいだろうし、これはおいしいなって。それこそプロレスを踏み台にして成功してやろう、ぐらいの感覚でしたね。それに後楽園ホールで試合ができるじゃないですか? 売れないアイドルを経験してきた身としては『えっ、1000人規模の会場でワンマンライブができるの? ラッキー!』って」思っていたという。
そして2019年「うなぎひまわり」というリングネームで東京女子プロレスのリングでデビュー。強くなろう、とか、チャンピオンになりたい、という野望はそこにはまったくなかった。
変な話、これはこれでアリ、なんだと思う。
チャンピオンになれるのは、ほんの一握りの存在だけ。だったら、違うアプローチで注目を集めて、唯一無二の存在として居場所を作ってしまうのも、令和のプロレスラーの生き方としてはひとつの正解でもある。
だが、プロレスラーとしての彼女の人生はある日、大きく変わる。(中編につづく)
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