撮影/西邑泰和

「『愛してる』より『200万稼げる』の方が信用できる」過激化する「推し活」の功罪

2022.04.27 06:03
提供:ENTAME next

新宿・歌舞伎町に集う若者の生態を独自の視点から研究する佐々木チワワさん。昨年12月には『ぴえんという病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社)を上梓し、「ぴえん系女子」「自殺カルチャー」「トー横キッズ」「SNS洗脳」「過激化する推し活」などを克明にレポートした。インタビューの後編では、今やアイドルのみならず一般企業やホストにまで浸透した「推し活」の最新実態を聞いた。(前後編の後編)

 現役女子大生でもある佐々木さんは、高校1年生のときからライター活動を続けている。不夜城とも呼ばれるこの街の人間模様を観察する中、大きな変化だと感じるのは「男たちの承認欲求が強くなった点」だという。

「一般人がタレント感覚で注目を集めようとする現象は、SNSのさらなる普及に伴って加速化していった印象があります。ホストになろうという人たちも、『ここでカネを稼いで成り上がってやる!』というギラギラした欲望よりは、もっとキラキラした承認欲求が目立つようになっているんですよ」

 ホストは言うに及ばず、メンズ地下アイドル、男性コンカフェ、メンキャバ(メンズキャバクラ)、ボーイズバーなどが歌舞伎町では雨後の筍のように乱立。ネット上には、こうした若い男たちの加工された自撮り写真が溢れかえっている。

「結局、ベースにあるのは“推し活”という言葉の便利さなんですよね。ちょっと前までは推し活なんて一部のアイドルオタクとアニメオタクの専売特許だったけど、今は企業も推しビジネスが儲かるとわかったものだから、積極的にプロモーションしているじゃないですか。昔の価値観では『家族のために働くのは美学。いい歳してアイドルなんて追っかけるのはダメ人間』みたいなところもあったのに、『本気で費やせる対象があると人生が豊かになるよね』みたいに社会の見方も変わっていますし。だからホストに通う行為だって、『大丈夫? 騙されていない?』と心配する声に対して『推し活だから』の一言で押し通せてしまう。推しに対してお金を使うことが、消費社会におけるアイデンティティになっているんです」

 AKB48の総選挙でCDを大量買いするのと、推しが在籍するメンキャバに貢ぐ行為は、構造的に大きな違いはないのかもしれない。推し活に没頭する姿が「自己犠牲の精神がエモい」と仲間内でリスペクトされるのはジャニーズやK-POPでもよく見られる現象だ。アニメファンが祭壇(推しキャラのグッズを部屋の一箇所に集めてディスプレイすること)を作ってアピールするのも、その同一線上にあるといえる。

「恋愛って基本的に傷つきながら、それでも相手とコミュニケーションを取って成立するものじゃないですか。ときにはそこで自分を変える必要も出てくるかもしれない。だけど推し活の場合、いくら使ったかという具体的な金額が評価軸になるし、お金さえ使えばコミュニケーション能力なんて何も求められないんです。偶像崇拝だから、自分は傷つかないで済む。愛って本当はそんな簡単なものじゃないはずなんですけどね」 佐々木さんは、ホストにハマる少女からこんなことを聞いたことがある。「『愛しているよ』『大事だよ』という言葉は信用できない。でも『お前なら200万稼げるよな』という言葉の方が信用できる」と。自分がそれだけお金を使えるという信頼の方が、愛なんてものより確かだから信じられるということだ。

「メンズ地下アイドルの現場に来る女の子の中には、中学生や小学生もいるんです。それはジャニーズやK-POPに小学生のうちからハマる子がいるように、今では当たり前になりつつある。なにしろ無料ライブが多いし、チェキもせいぜい1000円くらいだから、敷居はむしろ低いかもしれない。見ていて私が危険だなと思うのは、チェキ会の中には接触するときに推しのアイドルからキスされたり、胸を揉まれることが「商品」として提供されていること。それまで男性経験がゼロだった十代の子が好きな推しからそんなことをされたら、クラスの男子との恋愛に目が向かなくなる。そしてメンチカオタクの文化に適応して、お金をもっと使おうとする子も出てくる、実際、最前線で応援しているファンは自分より多く貢いでいるわけです」

 あるメンズ地下アイドルグループは、人気を支えるファンの多くが同じ未成年系のリフレ店で働いているという(リフレで未成年が簡易サービスを行うことは容認されているが、実際はそこで裏オプションとして性的サービスが行われていることも多く、全国で摘発が相次いでいる)。同じグループのオタクばかりが在籍しており、ライブがある日は店からゾロゾロと現場に向かい、仲よく推し活するという。

「ホストにハマった元アイドルオタクの女友達がいるんですけど、その子は処女だったんですが、ホストに貢ぐためのお金が欲しいからってことで、リフレで働き始めたんですね。リフレの場合、交渉権が客ではなく自分にあるから手軽に始めやすいんです。嫌な客が来たら最低限の基本サービスだけにすればいいし、相手が許容できる範囲ならハグとかキスとかのオプションを乗せていけばいいシステムですから。でも、ちょっと触らせるだけ、ちょっと嫌なことを我慢するだけでお金が手に入る…という状況で許容範囲を広げ、だんだんと擦れていく子を何人も見てきました」

 そこからの展開は速かった。最初こそ「好きでもない人とキスしちゃった……」と泣きながら佐々木さんに電話をかけてきたそうだが、半年後にはデリヘル勤務を開始。1年後には自身の処女を売り、そしてパパ活へと流れていった。その間も不退転の覚悟で同じホストに貢ぎ続けていた彼女は、「結婚するまでは諦めない」と周囲に漏らしているそうだ。

「コミュニケーションが面倒くさいという感覚は私も非常によくわかるんです。たとえば風俗というのは恋愛につきまとう面倒臭いやりとりを全部すっ飛ばして、お金でいきなり性にたどり着く行為じゃないですか。一種のアウトソーシング。ただ、その一方で最近では『コロナ貧困女子』という名前の風俗店もあって。これは要するに店側が“コロナで貧困に陥った可哀想な女の子たちを助けてください”という物語性を売りにしている。純然たるプレイ内容のほかに“同情”とか“説教”みたいな精神的付加価値まで求められるんだとしたら、性的にだけじゃなくて精神的にも消費されるダブルパンチなのでめちゃくちゃキツいと思います」

 昔から風俗業界は、本名も素性も自身の過去も隠しながら金銭を獲得できるのがメリットとされていた。しかし、現在は風俗でもSNSや写メ日記などでの情報発信は“必須科目”。SNSでキャラや物語を作り、アイドルのような営業をする子たちも増え、稼ぐために過剰な投稿をする子が目立つ。推される(指名される)ためにはSNSの呪縛から逃げることはできないのだ。

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