松本人志

中居正広MC「笑いの正体」松本人志・かまいたち・野田クリスタルらが漫才を語り尽くした38分

2022.03.28 19:00
松本人志

祝日の夕方、あまりにも突然にその番組は始まった。3月21日放送の「笑いの正体」(NHK総合)。深海のような深い青のセットをバックに、MCの中居正広がカメラに向かって語りかける。

「さて皆さんは、笑いはどのようにして生まれるのか、考えたことはありますでしょうか。この番組では、笑いの進化の歴史を辿りながら、その正体に迫っていきたいと思います」

漫才師たちの言葉から、漫才の魅力を解剖していく

この日、番組が取り上げたテーマは「漫才」。漫才師たちの言葉から、漫才の魅力を解剖していくという。松本人志、水道橋博士、塙宣之(ナイツ)、後藤輝基(フットボールアワー)、かまいたち、野田クリスタル(マヂカルラブリー)、粗品(霜降り明星)がVTR出演で漫才について語り、スタジオでは中居のほか、ケンドーコバヤシ、劇団ひとり、松嶋尚美が並ぶ。

これだけのメンバーが揃いながら、放送時間は38分しかない。単発番組にしては豪華すぎる「笑いの正体」で、漫才師たちは何を語ったのか。

松本人志が語るダウンタウンと、浜田雅功の不在

「笑いの正体」がスタート地点に選んだのは、80年代の漫才ブーム。松本人志は紳助・竜介のテープを聴きながら浜田雅功と練習を重ねたことを明かし、水道橋博士はツービートの衝撃を語る。その漫才ブームが収束後、頭角を現したのがダウンタウンだった。

「やったらあかんということを全部やった」(松本)というダウンタウンは、当時にしては遅咲きだったという。「ジジイババアにウケてもしゃあない」と思っていたが、客がいない京都花月で鍛えられるうち、世代を超えて笑いが取れるようになってきた。「ウケないとどっかで寂しかったんやろうね」と松本は振り返る。

ダウンタウンについて語るとき、松本のワードチョイスや世界観にフォーカスが当たりがちだ。だが「笑いの正体」は松本だけではなく「浜田が果たした役割」にも、しっかり時間を使っていたのが印象的だった。

水道橋博士「奏でる音量の打点が高い。ボリュームも高さもあって、そこでリズムを作る。素人にはできない」

ナイツ塙「笑ったり無言で蹴飛ばしたり、緩急があって言葉で追い込まない。少ない球種で抑えられる、漫才界の江夏豊」

劇団ひとり「浜田さんが発明したのは“ボケられると腹が立つ“という感情が乗っかること。怒る。イライラする。それって実はそれまでなかった」

「浜田にツッコミの指示を出していたか?」という問いに、松本は「何ヶ所かあったけど、基本的にはそこまでないかな」という。劇場出番が終わったあとに、他の漫才師のツッコミを見て吸収したんじゃないかな……と、松本自身も浜田のルーツについては推測の域を出ない。「浜田の正体」は、まだ誰も知らない。

収録日を動かしてまで実現した、中居正広の「粘り」

「笑いの正体」はオープニング以降VTRが続き、スタジオパートに戻ってきたのは番組開始から約17分後のこと。スタジオゲスト3人がVTRを受けて話を拡げるなか、中居正広はほぼ聞き役に徹していた。

収録後の会見によると、もともとスタジオパートは中居ひとりで進行する予定だったという。中居は番組制作にあたりスタッフと話し合い、スタジオゲストに参加してもらったり、VTR出演者を追加したりなど、見応えのある内容にこだわった。通常、変更されることのない収録日を動かしてまで実現したそうで、「いい意味で粘れた」と話す。

そうした背景を知ったうえで、改めて追加されたスタジオゲストを見ると、全員に「元コンビ芸人かつ現役の漫才師ではない」という共通点があり、ケンドーコバヤシ(吉本興業)、松嶋尚美(元・松竹芸能)、劇団ひとり(太田プロ)と所属事務所が異なることに気づく。さらに、松嶋尚美は全編通して唯一の女性だ。

現役プレイヤーによる「内」の証言はVTRに任せ、スタジオでは「外」からの発言に徹する。語り手のしがらみや偏りをなるべく無くし、MCは「中立」であり「視聴者目線」を保つ。そんな構造が見て取れる。

単に人を増やすだけなら「粘れた」とはならない。自分の出番を減らしてまで、内容を追求した中居正広がいたからこそ、「突然の豪華メンバー」が生まれたのではないだろうか。

粗品、かまいたち、野田クリスタルが「M-1」に思うこと

後半は「漫才における画期的な出来事」として「M-1グランプリ」を取り上げた。

「M-1グランプリ」は、漫才の技術を格段に向上させた。だが粗品は「M-1は漫才を進化させすぎた」と話す。「M-1」のせいで、普通なら面白いやりとりも笑えなくなった。新たなシステムを盛り込んで、「お客さんの脳みそをいかにハックするか」を追求してきた。

一方、そうした「システム」から離れたコンビもいる。型を模索していたかまいたちは、人間味を出したしゃべくりに転向することで勝機をつかんだ。後藤は「M-1」の打上げで島田紳助から聞いた「ネタうんぬんより人そのものが面白くないとダメ」という言葉を振り返る。

システムか、人間味か。それらをすべて吹き飛ばすのが、野田クリスタルの証言だ。漫才には文化がある。文化があるゆえに、ルールがあるように見える。ルールを壊せば、そこに未開の地が広がるはず。「ワクワクしますね。まだまだここから、マヂカルラブリーなんか比じゃないくらい変な漫才出てきますよ」と予言する。

では、なにもかもぶち壊した漫才がいいのか。スタジオでは劇団ひとりが「壊すために壊すのは違う」と語る。

「自分がただ自然に面白いものをやろうとした結果、“壊れてた”というのが正解だと思っていて。それはたぶん、ダウンタウンさんもツービートも絶対そうだったと思うんですね。壊そうと思ってるんじゃなくて、これを追求していったらそうなっちゃうスタイル」

それぞれの漫才論が呼応して、多面体として輝く。38分では全然足りない。VTRでも、スタジオでも、放送に乗らなかった言葉たちを知りたい。メンバーを変えれば、また新たな証言が生まれるだろう。「笑いの正体」は語り手の数だけ存在し、だからこそ深い。

文=井上マサキ

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