

<カムカム>松重豊、演出を「超えた」名演 “虚無蔵”に説得力を与えたアグレッシブさとユーモア

“朝ドラ”こと連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか※土曜は月~金曜の振り返り)は、いよいよあと2週間を残すのみ。第21週(3/21-25)では、1999年“恐怖の大王”は降臨しないまま過ぎ2001年になった。ハリウッドから映画クルーがやって来て「サムライ・ベースボール」の制作がはじまる。日本人俳優も出演できるということで、ひなた(川栄李奈)は伴虚無蔵(松重豊)に出てほしいと願うが…という展開が描かれた。侍の精神を持ち続ける人物・虚無蔵を演じた松重豊について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(以下、一部ネタバレが含まれます)
最初は“名前”なし「斬られる侍」として登場
「日々鍛錬し、いつ来るともわからぬ機会に備えよ」
永遠の斬られ役俳優・伴虚無蔵の含蓄あふれる名セリフである。虚無蔵が登場したときはこれほどまでに「カムカム」で重要人物になるとは思ってもみなかった。が、名優・松重豊が演じているのだからさもありなん。
虚無蔵の初登場は第42回(るい編)。劇中時代劇映画に出てくる斬られ役としてだった。だからこの回のクレジットは「斬られる侍」で正式役名では紹介されていない。
その後も映画の“中の人”として存在し、ようやく実体として出てきたのは第66回。ひなたが子供のとき出かけた憧れのモモケン(尾上菊之助)のサイン会のちょっとした寸劇にやっぱり斬られる役として登場した。
そのとき、子ひなた(新津ちせ)のほうに倒れこむように近づいているものの子ひなたはモモケンに夢中でまったく虚無蔵を意識していない。
松重豊がこれほどまでにちょっとのシーンに誠実に出演していることが尊いと思う。
無論、後々、重要な役で出番が増えるとはいえ。むしろそれまでちょっとしか出ないこともきっと楽しんで演じていたのではないだろうか。
演出を「超えた」芝居
ひなたが川栄李奈になると、虚無蔵は彼女に時代劇を救ってほしいと頼む。そこからはようやく伴虚無蔵の物語も描かれていく。彼がなぜ20年も脇役(斬られ役)専門でやり続けたのか彼の心情が描かれた第83話は重厚だった。
この回の演出を担当した石川慎一郎さんは筆者のYahooニュース個人のインタビューでこう語っている。
「虚無蔵が最後、笑顔で去っていくところはある種、虚無蔵とモモケンの物語が完結するところだったので撮っていて楽しかったです。虚無蔵とモモケンの物語ではあるけれど、ひなたもそこで救われるといいなと思って、松重さんにもうちょっと笑顔の塩梅をあげてもいいんじゃないかと相談しました。本番、振り返った虚無蔵さんの表情をみて、胸が熱くなりました。モモケンと虚無蔵のこれまでのわだかまりがスっと解けていく感覚。自分の想像を超えたお芝居のおかげで、そのあとのひなたの笑顔もより一層、味わい深いものになったと感じました」(※2022/3/1配信「〈カムカムエヴリバディ〉算太、モモケン、虚無蔵 おじさまたちが大活躍で、ヒロインひなたはどうなる?」より)
このときの松重はとても繊細に表情を作っていた。そこから虚無蔵の様々な心情が想像できた。
若い頃は大志を抱いて俳優活動をはじめただろう。やっと大役に抜擢された映画が大コケし、以後なぜかずっと活躍の場が与えられないまま、それでも諦めることなく鍛錬を続けた。
ようやく20年のわだかまりが溶けたものの簡単なハッピーエンドではなく、役はもらえないし、年齢的にもアクションをする俳優としてのピークを過ぎている。それでも時代劇が好きで、そのためになにかしたいと思っている人物を松重豊のゴツゴツした枯れ木のような身体が表現していた。
虚無蔵は、実在するある俳優に少し似て見える。斬られ一筋に生き、2021年に亡くなった福本清三である。撮影所所属の俳優として、また、名斬られ役として活躍し、ハリウッド映画「ラストサムライ」(2002年)にも抜擢されて注目された。
彼の唯一の主演映画はまさしく斬られ役の人生を描いた「太秦ライムライト」(2014年)である。その映画の福本の首筋から肩にかけての痩せ具合と虚無蔵の後ろ姿はとても似ているような気がするのだ。
また、虚無蔵が斬られて仰向けに倒れる動きも、福本ほどケレン味は抑えめだが、仰向けとその形相が重なって見える。あくまで推測でしかないが、松重は意識して演じているのではないだろうか。
松重のアグレッシブさとユーモアが虚無蔵に説得力
松重豊はその特徴的な身体から一度見たら忘れられない俳優だ。だが、その見た目に頼りすぎていることは決してない。
例えば、「カムカム」第74回で、大月家に現れたとき、商店街、回転焼き屋というシュチュエーションで彼の代表作「孤独のグルメ」の井之頭五郎のようだとSNSで話題になったが、実際のところ、虚無蔵には井之頭五郎の気配は微塵もない。輸入雑貨商の身体と、大部屋俳優の心持ちや身体は違う。
松重は何をやっても松重豊ではなく、役によって全く違った表情を見せる、むしろ工夫する俳優だ。
ドラマ「アンナチュラル」のときは白髪が印象的だった。また、先日のヨージ・ヤマモトのファッションショーではぞくりとするほど色気のあるかっこよさがあった。
彼がまだ若い頃、蜷川幸雄の主宰する無名の俳優たちによる演劇集団ニナガワスタジオに所属してそれこそ鍛錬していた時代、「テンペスト」(1987年)で松重は鯉のぼりを衣裳として身につけ注目された。
常にいまの自分を疑ってアップデートしていくように語り続けたていた蜷川のもとで芝居をした俳優には、自分が演じる意味や必然性を深く考えるようになる人物が少なくない。
松重は早い時期にスタジオを辞め、紆余曲折を経ながら、常にアグレッシブさやユーモアをもって役に工夫していく(もちろん台本を読み込んだうえの必然として)俳優となっていった。だからこそ、虚無蔵は説得力を持ったのだろう。
「カムカム」第102回ではハリウッド大作「サムライベースボール」のオーディションを受けない意思を見せるが、長年時代劇をやってきて誰よりも時代劇を大事にしている虚無蔵がこの映画に出ることこそ時代劇の未来につながるはずなのだ。虚無蔵も遠慮しないでひと花咲かせてほしい。
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