錦鯉・渡辺隆 撮影/松山勇樹

M-1決勝進出・錦鯉 渡辺隆が明かす自意識過剰だった若手時代「なんで俺の面白さに気づかない?」

2021.12.11 06:03
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ハイテンションなボケを炸裂する長谷川雅紀と、隣で冷静にツッコむ渡辺隆のコンビ、錦鯉。「遅咲きの実力派」として、現在バラエティ番組に引っ張りだこで、“おじさん2人” の波乱の人生が赤裸々に描かれている初の自叙伝『くすぶり中年の逆襲』(新潮社)も現在絶賛発売中だ。今回、ツッコミ担当の渡辺隆に、相方・長谷川の特異性について語ってもらった。まったく違う2人だからこそ引き出せるお互いの持ち味とは?(前中後編の前編)

錦鯉のネタは2人でなんとなく話し合いながら決めていますね。それも綿密な打ち合わせというよりは、軽い雑談みたいな感じで。パチンコのネタ(CRまさのり)に関しては、「ちょっとパチンコ台の真似してみて」って会話の中で始めた(長谷川)雅紀さんの動きがあまりにも変だった。それで僕がゲラゲラ笑いながら「これ、やろうよ」って決まったんです。だから錦鯉は台本らしい台本もないんですよ。芸人としては、かなり特殊なケースかもしれません。

そもそも僕がお笑いを始めたきっかけは「ダウンタウンさんみたいになりたい!」という純粋な想いだったんですけど、NSC(東京校)に入ったら「もうダウンタウンはいらないから」っていきなり言われたんです。NSCのポスターには「君もダウンタウンになれる!」って書かれていたのに(笑)。

やっぱり若い頃っていうのは自分が一番面白いと信じて疑わないわけです。「なんで俺の面白さに気づかない?今日も客が悪いな」くらいに盛大な勘違いをしていました。だけど30代に突入するあたりで「あれ?」と気づくわけですね。「俺、お笑い芸人とか言ってるけど、お客さんを笑わせていないんだから詐欺じゃねぇか」って。そこでようやくお客さんの反応だったり、お客さんに伝えることを意識するようになるんですけど……話していて自分でも呆れますが、そこにたどり着くのが遅すぎますよね(苦笑)。

結局、若い頃は自意識過剰だったんだと思う。どこかでカッコつけていた。今は、自分が面白いなんてまったく思っていないです。もうすべてをさらけ出して、舞台に立つしかないと考えています。やっぱり単純に笑ってもらえたほうが、舞台に立つ側としても気持ちいいんですよ。だから自分がやりたいことよりも、お客さんの反応を第一に考えるようになりました。それは徐々に変わっていった感じかな。

僕らはまったく芽が出ない潜伏期間が長かったから、最近では「中年の星」とか「遅咲きの花」とか言われることも増えてきたんです。でも、実際はそんな美談では決してないんですよ(笑)。「石にかじりついてでも芸人を続ける!」みたいな覚悟なんて一切なく、単純に辞める勇気が持てないままダラダラ続けたらこの体たらくになっただけで(笑)。

20代の頃なんて当時つき合っていた彼女から毎日500円ずつもらうと、そのお金でタバコとワンカップの日本酒を購入。それで近所の河川敷で寝転がりながら、中学生が野球やっているところをぼやーっと眺めていて……。それでも何の焦りもなかった。

雅紀さんだって、僕以外と組んでいたらもっと早く売れていた気もするんですよ。もっと要領よく、段取りをキチっと決めてやっていたら、あのポテンシャルを活かせたんじゃないかなって。こればかりは、わからないですけどね。

僕らはキャリア的にはベテランの枠に入るんだろうけど、いかんせん世に出たのが遅かったから、今でも戸惑うことばかりです。特にテレビのバラエティとかトーク番組は完全アウェイだし、緊張感もハンパじゃない。テレビの仕事はどこまで自分が裸になれるかが勝負所だから、漫才で舞台に立つのとは違う筋肉が要求されるんですよ。「そんな脱ぎ方があるの!?」って他の出演者を見ながら勉強させられることもたくさんありますし。

全部が手探りというか、感覚としては完全な新人ですね。43歳と50歳の遅れてきた新人ですよ。(中編につづく)

▽錦鯉の自叙伝『くすぶり中年の逆襲』が新潮社より発売中1,430円(税込)

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