

うっかり感情移入してしまう…「魔改造の夜」が教えてくれたエンジニアの”本気”

扇風機50m走の結果が出たあと、出場した全チームが涙を見せていた。努力が酬われた嬉しさ、思うようなタイムが出なかった悔しさ。喜び、いらだち、悲しみ。あらゆる感情が会場を包み込む。
……いやいやちょっと待ってオリンピックみたいに言ってるけど「扇風機50m走」ってなんなんだという方、これは「魔改造の夜」(8月14日、21日放送、NHK BSプレミアム)の話である。
番組によれば、「魔改造」とは“オモチャや家電のリミッターを外し、えげつないモンスターに改造する行為”のこと。「魔改造の夜」では、精緻な技術を持つ町工場や、日本を代表する自動車メーカーなどがチームを結成。番組が用意したお題をエンジニアたちが魔改造し、その性能をチームで競い合うのだ。過去に第1弾と第2弾が放送されており、昨年6月放送の第1弾はギャラクシー賞月間賞を受賞している。
競い合う種目は毎回異なる。たとえば「トースター高飛び」の回では、ポップアップトースター(パンが焼けると飛び出すアレ)を改造し、パンを飛ばす高さを競い合った。高く飛ばすなら予算内で何をやってもいいが、あくまでトースターなので、「パンは美味しく焼くこと」というルールがある。ちゃんとこんがり焼けるのを待ってから、5m以上パンをぶっ飛ばすという、食べものを大事にしているのかしていないのか分からない狂気の光景が繰り広げられていた。
で、話を最初に戻すと、今回の「魔改造の夜」第3弾の種目のひとつが「扇風機50m走」だったのだ。魔改造に挑むのは3チーム。3Dプリンタを駆使するものづくり企業・Sライズ、金属加工を得意とする老舗メーカー・Nットー、日本三大自動車メーカーのひとつ・N産である(NHKなのでいちおう社名は伏せられているが、入場時の実況では「やっちゃえN産!」というフレーズも出た)。
「扇風機50m走」は扇風機を魔改造し、風の力だけで50mを走らせ、そのタイムを競う。操作はスイッチを1回押すのみ。片道25mを往復するコースのため、いかに自動でスムーズに折り返すかがカギだ。なお、「そよ風で風鈴を30秒以上鳴らしてからスタートすること」というルールも守らねばならない。
大人が本気で挑んでいるからこその感動
3チームが取った戦略はバラバラだった。重心を極力下げ、折り返し地点で前後に首を振って風向きを変える「くるりんぱ」機能を搭載したSライズ。ロマンを追求し、エンジンを搭載してハイリスクハイリターンに賭けたNットー。「興奮をお届けします」と、スタート前に扇風機を無駄にトランスフォームさせるN産。
しかし、レースはただ3台並べてよーいドンではない。試技は2回。1台ずつ走るのだが、スタート前には1ヶ月に及ぶ魔改造の様子に密着したVTRが流れる。試行錯誤を繰り返し、困難をチームで乗り越え、限界まで磨き続ける……そんなドキュメンタリーを見届けたあとに、「スタート!」なのだ。これで感情移入するなというほうがおかしい。
想定以上のタイムを叩き出すマシンもあれば、あんなに頑張ったのに完走できないマシンもある。1回目の結果を受けて、2回目はバラバラになってもいいからと出力をあげたり、今度こそゴールしてくれと祈りながら調整したりする。大人が本気で挑んでいるからこそ、勝ったチームも負けたチームも泣いてしまうし、見ているこちらもその涙にぐっときてしまう……扇風機を走らせているのに!
「魔改造の夜」を盛り上げる“夜”の要素
「魔改造の夜」を盛り上げるもう1つの要素は、「夜」にある。
この企画、「エンジニアが己の技術で戦う」だけを取り出すと、ただのロボコンになってしまうのだ。「魔改造の夜」の舞台は、深夜の廃倉庫。照明は最小限で、画面の大部分は暗がり。行われるのは「魔改造クラブによる宴」であり「ここで見たことは他言無用」なのだ。
お題は魔改造クラブの主催者(声のみ)から発表され、魔改造の対象は「いけにえ」と呼ばれる。いけにえを提供する勇気あるメーカーの人も登場し、「悩みましたが……」と心境を語ってくれる。魔改造したマシンは、悪魔であり、モンスターだ。
こうした徹底した重々しい設定が「いけないことをしている」という気分を無駄に盛り上げる。設定が作る「闇」と、エンジニアが本気で取り組む「光」のギャップが大きければ大きいほど、そこに巨大な影ができ、モンスターたちが生き生きと暴れ回ることができる。
その「影」の効力が最も発揮されるのが、動物がモデルになったお題だろう。過去、ヨチヨチ歩く犬のオモチャを魔改造した「ワンちゃん25m走」では、自動車メーカーT社が生み出したモンスターに会場がどよめいた。試作用にもらったワンチャン4匹の首を全てくくりつけ、グロテスクなフォルムになっていたのだ。開発者の「4匹みんなを走らせてあげたかった」というあどけないコメントは、完全にマッドサイエンティストの発言であった(8月27日にNHK総合で再放送があるので、ぜひその姿をお確かめてほしい)。
そして、その人形お題が今回の第3弾でもあったのだ。「赤ちゃん人形 綱登り」である。
「赤ちゃん人形 綱登り」のルールはシンプル。天井から垂れ下がった8mのロープを、赤ちゃん人形に最も速く登らせたチームの勝利である。いけにえとなる赤ちゃん人形は、動力もない普通のお人形で、そのままではロープをつかむことすらできない。嫌な予感がしたのだろうか、ルールには「芽生える優しさと、思いやりをこめること」という一文が付け加えられていた。
Sライズは当初、腕を高速ピストンで動かそうと考えた。まるでポケモンのイシツブテのような、赤ちゃんの頭と巨大な両手が合わさったモンスターが誕生したが、この方式だとロープが激しく揺れてうまく動かない。「ロープが固定されていない」のが、この競技の肝なのだ。Sライズは方向転換し、昆虫のような細長い足をマジックハンドのように動かして登らせる。
Nットーが生み出したモンスターは、イモムシの形をしていた。「絵本『はらぺこあおむし』の着ぐるみを着ている」という設定なのだが、人形を提供したメーカーの女性は渋い顔。しかし、実際に登らせてみると、しゃくとり虫のように足を伸び縮みさせて登る姿はけなげで、会場全員が笑顔に……! 動きで「芽生える優しさと思いやり」が表現されていた。
最後のN産は、「人がロープを登る動き」にこだわった。身体を軸に、手足が扇状に上下する動きを再現し、100以上のパーツを組み合わせたメカボディが完成。頭には、天井にぶつかったときに動きを止める「安全装置」を付けたのだが……1回目の試技でこの安全装置がロープにあたり、途中で動きが止まってしまった。それでもN産は、2回目の試技でスイッチの位置をずらしただけで、機能そのものを外さない。自動車メーカーとして「安全をないがしろにしない」というプライドを見た。さて勝負の行方は……。
「これからもチャレンジしていこうと思います」
今後再放送があるかもしれないので、どのチームが勝ったのか明言はしないが、どのエンジニアも「うちの子」を見つめる目は愛情にあふれていた。拳を握り、声援を送り、その頑張りを讃えた。そして、思うような結果が出なかったチームもあった。うなだれるメンバーに「みんな頑張ったんで、胸を張って帰りたい」と涙声で語りかけながら、そのチームを率いたリーダーは言うのだ。
「チャレンジすることを忘れたら、今後の仕事とかもうまくいかないと思うんで。これからもチャレンジしていこうと思います」
「魔改造の夜」の各種目のルールには、最後に「失敗してもかまわない」と記されている。エンジニアリングの歴史は、失敗と成功がいくつも積み重なってできている。生み出されたモンスターも、その1ページであることを「魔改造の夜」は教えてくれる。
宴の夜はやがて明け、エンジニアたちの日々は続く。
文=井上マサキ
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