『国宝』が証明した“口コミ時代” 実写映画がアニメに対抗する新たな勝ち筋
ヒットするのはアニメ映画ばかり。日本の実写映画は長らく低迷が続いている……。ここ数年、そんな意見をよく目にするようになった。もちろん否定できない部分はあるのかもしれないが、世界で高い評価を受ける作品が生まれているのもまた事実だ。いま邦画業界は、緩やかな変化の中にあるのかもしれない。
まず興行収入という観点で見れば、確かにアニメ映画は強い。歴代ランキングのトップ3には劇場版『鬼滅の刃』と『千と千尋の神隠し』が君臨し、最近も『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』や『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』が着実に興収を伸ばしている。
ビジネス面においては、どうしても実写映画よりアニメ映画に分があると言わざるを得ない。ただし、"賞の獲得"という面で見ると、実写映画もアニメ映画と拮抗、あるいはそれ以上の成果を上げているのだ。
例えば2023年に公開された山崎貴監督作『ゴジラ-1.0』は、VFXなどの映像表現が高く評価され、第96回アカデミー賞で「視覚効果賞」を獲得。アカデミー賞の長い歴史を振り返っても、同賞を邦画・アジア映画が受賞した例はなく、史上初の快挙として大きな話題を呼んだ。
また同年のベネチア国際映画祭では、濱口竜介監督の『悪は存在しない』が銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞している。ベネチア国際映画祭といえば、カンヌ国際映画祭、ベルリン国際映画祭に並ぶ世界三大映画祭の1つ。つまり銀獅子賞は、その年に公開された世界の映画の上位数本に入るレベルの評価といって差し支えないだろう。
ちなみに濱口監督は、村上春樹の短編小説を原作とする『ドライブ・マイ・カー』で監督・脚本を務めたことでも知られている。こちらはカンヌ国際映画祭に出品され、日本映画史初となる脚本賞に加え、国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞、エキュメニカル審査員賞の計4冠を達成。第94回アカデミー賞においても4部門にノミネートされるなど、世界的な評価を確立した。
このように近年を振り返るだけでも、日本映画が海外で高く評価されていることがうかがえる。さらにさかのぼればカンヌで最高賞のパルムドールを獲った『万引き家族』や、日本映画としては初となるアカデミー賞外国語映画賞を獲得した『おくりびと』なども印象深い。ところで映画に対する評価は、大きく分けると「マス市場(大衆向け市場/ハリウッド型)」「フェス(映画祭)」「批評市場(作家型)」といった3つの軸で捉えられるとされる。
これに照らし合わせると、日本の実写映画が強みを発揮しやすいのは「マス市場」以外の2つ。つまり作家の"色"を前面に押し出した芸術性の高い作品を生み出し、国内外の映画賞で評価を獲得することが、国産実写映画における王道の成功パターンといえる。
とはいえ映画賞は狙って獲得できるものではなく、そのような作品はごく一部に限られる。実写映画が依然として厳しい状況に置かれている点は否めないだろう。ただその一方で、映像芸術としてもエンタメ業としても成功した実写映画が近年登場した。2025年に公開された『国宝』だ。
同作は"歌舞伎"という比較的ニッチな題材を扱いながらも、歴代興行収入ランキングでトップ10に入るほどの大ヒットを記録。興収は200億円をゆうに超え、国内の実写映画に限れば断トツの1位である。
『国宝』がここまでの成功を収めた背景には、SNSを中心とした口コミの拡散がある。「売れた」というよりも「バズった」と表現するほうが実態に近いかもしれない。このような現象は近年、Netflixの実写シリーズでも顕著に見られ、『サンクチュアリ -聖域-』や『地面師たち』もネットの口コミによって話題を広げていった例だ。
なお、この“口コミ拡散型”のヒットは、もともと『名探偵コナン』や『鬼滅の刃』などのアニメ映画で頻繁に見られてきたもの。アニメ映画が強さを発揮してきた一因でもある。そうした中で『国宝』が同様の広がりを見せたことは、実写映画でも同じ土俵で勝負できることを示した好例ともいえる。
つまり、時代の変化に伴い、求められる作品のカタチが変わったにすぎず、実写映画そのものが低迷しているとは一概にはいえない。今後はこうした潮流を踏まえた作品づくりが求められることになりそうだ。
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