齊藤京子が圧巻の演技 「恋愛禁止」は誰のためのルールなのか、映画『恋愛裁判』が切り込むアイドルの人権
「恋愛禁止」をルールとするアイドル、アイドルグループは決して珍しくない。近年では恋人の存在を公にするアイドルも現れてきたが、昭和から平成にかけては、表に出さずとも「暗黙の了解」として恋愛を慎む空気が当たり前のように存在していた。
そもそもアイドルとは夢を売る存在であり、極端に言えば人間味を感じさせてはいけない“商品”として扱われてきた歴史がある。企業はキャラクターやイメージを売り出し、神格化された偶像として消費する。その延長線上に「恋愛禁止」というルールがあった。
しかし2000年代後半、AKBグループを筆頭に「会いに行けるアイドル」が台頭する。メジャーからインディーズ、さらにはアングラ系まで、アイドルは大量生産の時代に突入。昭和や平成初期のアイドルに比べて距離は近づき、親しみやすくなった一方で、疑似恋愛のハードルが下がり、アイドルは“夢と現実の中間”という、より不安定でデリケートな存在になっていった。
一方で、もともとバンドやアーティストとして活動していた者たちが、契約やプロモーションを経て、結果的にアイドル的な存在へと変化していくケースもある。ただし、メンバー全員が同じ覚悟や価値観を共有しているとは限らず、内部にズレが生じることも少なくない。本作に登場するアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」も、企業主導で生まれたグループでありながら、そうした歪みを内包しているように映る。
企業のコンセプトとして「恋愛禁止」がルールにあるとしたら、それを承諾して参加したことになる。しかしそのルール自体が、人間を商品として扱う象徴的な制度であることも否定できない。長年黙認されてきたこの問題を、真正面から法廷に持ち出したのが、本作『恋愛裁判』の核心だ。アイドルは商品なのか、それとも人間なのか――この問いを、現代に突きつけている。
犯罪行為を除き、人の行動を制限することは本来人権の観点から問題視されるべきものだ。実際、一般企業が社員に「恋愛禁止」を課せば、雇用契約に含まれていたとしても争点になり得る。しかしアイドルという職業においては、「そういうものだ」という曖昧な共通認識が、法の場においてすら通用してしまう現実がある。
さらに恋愛による“損害”が発生した場合、人権よりも収益や契約違反が前面に出てしまう。結果として「恋愛禁止」は合理的なルールとして正当化され続けてきた。そこに本作は鋭く切り込む。
裁判とは、信念と社会がどこまで折り合えるのかを測る場でもある。しかし本作は、派手な逆転劇やセンセーショナルな演出に頼ることなく、実際の法廷に漂う湿度の高い空気を丁寧にすくい取っていく。『よこがお』(2019)、『LOVE LIFE』(2022)で知られる深田晃司監督・脚本の作家性が色濃く反映された、正真正銘の裁判映画だ。
裁判シーン自体は決して多くない。それでも短いからこそ、リアリティが凝縮され、観る側に重くのしかかる構成になっている点は見事だ。
そして主演の齊藤京子が圧巻である。元アイドルという立場のリアリティに加え、近作ドラマでも見せてきたような、どこか目から光が消えた人物像を巧みに体現する。一方で別作品では全く異なる表情を見せており、その振り幅の大きさからも、今後ますます注目される俳優であることは間違いない。
【ストーリー】人気急上昇中のアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」でセンターを務める山岡真衣は、中学時代の同級生・間山敬と偶然再会し、恋に落ちる。アイドルとして背負う「恋愛禁止ルール」と、抑えきれない自身の感情との間で葛藤する真衣。しかし、ある事件をきっかけに、彼女は衝動的に敬のもとへと駆け寄る。その8カ月後、事態は一変。所属事務所から「恋愛禁止条項違反」で訴えられた真衣は、事務所社長の吉田光一、チーフマネージャーの矢吹早耶らによって、法廷で厳しく追及されることとなる。
▼作品情報『恋愛裁判』(英題:LOVE ON TRIAL)企画・脚本・監督:深田晃司共同脚本:三谷伸太朗音楽:agehasprings主題歌:「Dawn」 yama (Sony Music Labels Inc.)出演:齊藤京子、倉悠貴、仲村悠菜、小川未祐、今村美月、桜ひなの、唐田えりか、津田健次郎など製作:「恋愛裁判」製作委員会製作幹事・配給:東宝制作プロダクション:ノックオンウッド、TOHOスタジオ公式HP: https://renai-saiban.toho.co.jp/1月23日(金)~公開中
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