序盤はじっくりとした攻防。けっして地味に映らず、華があるのが女子プロレスならでは、である

東京ドームの裏で起きていた“本当の熱狂” 東京女子プロレス「もうひとつのイッテンヨン」が世界を唸らせた

2026.01.09 20:03
提供:ENTAME next

2026年1月4日。東京ドームに超満員札止めの観衆を集めた『棚橋弘至引退試合』でプロレスが最高に盛り上がったが、その日の昼間、東京ドームのすぐ横にある後楽園ホールもまた熱狂の渦に包まれていた。東京女子プロレスが華麗かつ激しく魅せた「もうひとつのイッテンヨン」。長年、東京女子プロレスを取材してきた元・週刊プロレス記者の小島和宏は「これはひとつの完成形」とメインイベントを大絶賛した。

 東京女子プロレスが1月4日に後楽園ホール大会を開催するのは、今年に限った話ではなく、もう何年も続いている恒例行事。ドーム観戦のために日本中、いや世界各国から水道橋に集まったプロレスファンが「せっかくだから、こっちも観ていこう」と足を運ぶため、毎年、たくさんの観客で賑わうのだが、今年は前売りの段階でチケットが完売し、急きょ、立見席が販売されるほどの大盛況ぶり。毎年、コツコツと積み重ねてきた「東京女子のイッテンヨンにハズレなし」という実績が実った形となった。

新人のデビュー戦にはじまり、アジャコングなどのゲストを迎えてのお正月らしいお祭りマッチメイクを経て、3大タイトルマッチで締める、という強力なラインナップ。さらには元モーニング娘。の矢口真里からのビデオメッセージが上映される(ミニモニ。の公式キャラクター、ミニモちゃんが3.29両国国技館でプロレスデビューが決まったため。矢口真里も当日の来場をVTRで予告!)という、まるでおせち料理のような彩りの大会のメインイベントは王者・渡辺未詩に鈴芽がチャレンジするプリンセス・オブ・プリンセス選手権試合。

正直な話、勝敗の妙味という意味ではなかなか難しい一戦ではあった。防衛戦を重ねるたびに強くなっていく渡辺未詩。対するチャレンジャーの鈴芽は昨年のイッテンヨンでインターナショナル王座を獲得するなど2025年に飛躍した選手なのだが、体格的にかなり小柄なため、どれだけ渡辺のパワーに対抗できるのか、という部分で不安が残る。スピードでかき乱しても、最終的に力づくで渡辺に押しつぶされてしまうのではないか、と。

しかし、その不安要素は試合が進むにつれ、どんどん薄まっていき「これ、鈴芽が勝っちゃうのでは?」という空気が後楽園ホールの客席を支配した。渡辺が仕掛ける大技を鈴芽が奇想天外な切り返し方で反撃していく。そのどれもが想像の斜め上を行く攻防なので観客がびっくりするのはもちろん、誰よりも渡辺未詩が困惑したはず。完璧な入り方をした技がクルッと切り返される。計算通りに攻めまくっているはずなのに、決定打だけが決まらない。これではペースを崩されても致し方ない。

これらの攻防はSNSなどで「いったい、これはなんだ?!」とバズった。それも発信源は海外が多い(海外からでも配信で観戦可能)。世界中が「おおーっ」と唸る女子プロレス、それこそが「もうひとつのイッテンヨン」のクライマックスだった。

東京女子プロレスにはベビーフェイス(善玉)vsヒール(悪役)という概念がそもそも存在しないし、いわゆるユニット別の抗争劇も基本的にはない。それを「ちょっとわかりにくい」「没頭しにくい」と指摘するプロレスファンは少なくないし、たしかに熱狂への近道を塞いでいることは事実である。

悪役がいないから、そこに遺恨もなければ、憎しみだって生まれない。しかし、お互いに大きなリスペクトは生まれる。だから、とことん対戦相手を研究する。結果、この日のメインイベントのような超展開が飛び出すのだ。今回は渡辺未詩も鈴芽も対戦を熱望していた相思相愛の関係だったからこそ、より、そういった側面が強調されたが、東京女子プロレス的な世界観を突き詰めた先にある、ひとつの完成形を見せつけられたような気がする。結果、後楽園ホールは興奮の坩堝と化し、世界中のプロレスファンがその動画に熱狂した。信じた道を究めると、それは世界標準となるのだ。

敗れた鈴芽はこの一戦で「ベルトにいちばん近い女」として評価が爆上がりした。早くも「今年のベストバウト候補」と大絶賛された試合は、やはり鈴芽の大健闘があってこそ。的確なテクニックとスピード、そして素早く回るプロレス頭があれば、体の小ささはカバーできることを証明してみせたことで、2026年のさらなる飛躍に期待がかかる。

ベルトを守り抜いた渡辺未詩は、これでチャンピオンとして3月29日の両国国技館でメインイベンターを務めることが確定。春のプリンセス候補に一番乗りしてみせた。「とにかく強い相手と闘いたい」という渡辺への挑戦者は、1月10日の新宿FACE大会で行なわれる東京女子プロレスの“6強”が直接対決する形での決定戦を勝ち抜いた選手となる。イッテンヨンのベストバウトでいささかハードルは上がってしまったが、誰が挑戦者となっても好勝負は必至。イッテンヨンで魅せた完成形が、両国国技館という大舞台で次なるフェーズへと進化することに期待したい。

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