

あなたの”人をどう見る”かが試される、緊張感MAXな没入体験『入国審査』
この週末、何を観よう……。映画ライターのバフィー吉川が推したい1本をピックアップ。おすすめポイントともにご紹介します。今回ご紹介するのは、『入国審査』。気になった方はぜひ劇場へ。
〇ストーリー舞台はNYの空港、入国審査を待つ幸せなカップル。移住のビザも取得し、新天地で暮らす準備は万全だったはずが、説明もなく別室に連行され、密室での不可解な尋問が始まる。なぜ二人は止められたのか? 審査官は何かを知っているのか? 予想外の質問が次々と浴びせられる中、やがてある疑念が二人の間に沸き起こり……。
〇おすすめポイント 税関や入国審査というのは、ルールでガチガチになっていると思うかもしれないが、実はアンバランスな部分が多く、国や空港、そして審査官によって対応が違う。ただでさえそんな状況。とくに今作で扱われている”トランプの壁”やテロ警戒時、日本でも3.11の後は、過剰なまでに放射能汚染を検査されたように、対応が定まっておらず、手探り状態で結局のところ審査官個人の独断に頼っている部分もあったりする。
だからこそ、何も悪いことをしていなかったとしても、終始不安と緊張感が付きまとう。そんな入国審査という場を題材に選んだのは、今作の監督が実際にベネズエラのパスポートでアメリカに入国しようとした際に入国審査に引っかかった実体験からなのだ。
そこで実際に監督・脚本を務めた、アレハンドロ・ロハス氏とフアン・セバスチャン・バスケス氏のインタビューを交えながら作品を紹介していこう。
まず今作で気になったことは、冒頭とエンディングでケヴィン・モービーの名曲「コングラチュレーションズ」が使用されている点だ。ほかに曲が使用されていないため、より印象的に感じた。タイトルだけ聞くとハッピーな曲かと思うかもしれないが、実は謝罪の歌。
つまり今作の印象が観る前後では、大きく変化するという点で、この曲が選ばれたのではないかという疑問に対して、「まさにその通りです。今作にスコアが使用されていません。そこはプロデューサー陣とも意見が対立した部分でもありますが、この曲だけを入れました。曲自体は変わっていないのに、はじめと終わりで印象が変わってしまう。それは観客が主人公ふたりに対する印象の変化と共通しています。ちなみに提案したのはアレハンドロ(ディエゴ役)です」(フアン・セバスチャン・バスケス氏)と回答してくれた。
また、少ない登場人物のなかで強烈な印象を残したのは、主人公カップルを追い詰めていくバスケス審査官の存在。過去にもパートナーに入国理由として利用された人たちを多く見てきたようなバックストーリーを感じさせるほど深い造形のキャラクターであった。作中では語られないバスケスの背景や演じていたローラ・ゴメスについても聞いてみた。
「バスケス審査官は、友人のように接しているような部分もありますが、バレット審査官がダンサーのエレナに対して”踊れ”という過剰な要求をしていた際に、それを止めようとはしていませんでした。つまりやり方が違うだけで、バスケスは決して味方ではないと明らかになるのです。バックストーリーとしては、南米系の名前なので何代目かの移民家系のようであるにも関わらず、国際主義的なアメリカ人のように振舞っている。移民としてアメリカで生きていくために、そしてレイシストな同僚からリスペクトされるようになるには、厳しい言葉使いや行動で示していくしかなかったのではないかと想像しました。そしてローラに関してですが、実はいとこが実際に入国審査官をしていて、いとこをモデルに役作りをしており、脚本を読んだ時点で、キャラクターのバックボーンを理解してくれました」
この回答から、バスケスというキャラクターの深みがどこからきているのかが、より理解できるのではないだろうか。またバスケスの視点でなくても、今作の中には、行動をあえて怪しませるようなギミックが複数仕掛けられている。
「あえて観客を疑わせるミスリードを複数入れています。その疑いの目自体が、今作の主張したい部分でもあって、この人は怪しい、何か裏があるのではないか、と思ってしまうと、その理由を探してしまう。国籍、ルックス、セクシャリティなどからも探りを入れてしまって、結果的にそれがレイシズム的な方向に向かうこともあります。」
はじめは主人公カップルの目線で観ていたはずが、いつしか審査官寄りの疑いの目線に変わってしまったという人もいるはずだ。それこそが今作の本質。”人を見る”ということをシンプル構造のなかに多角的に詰め込んだ作品なのだ。
▽作品情報監督・脚本:アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスチャン・バスケス出演:アルベルト・アンマン、ブルーナ・クッシほか2023年|スペイン|スペイン語、英語、カタルーニャ語|77分|ビスタ|カラー|5.1ch原題UPON ENTRY|日本語字幕 杉田洋子配給:松竹後援:在日スペイン大使館8月1日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
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