(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会

演技の枠を超えた"習得"…歌舞伎役者ではない吉沢亮と横浜流星が 覚悟と魂で魅せる傑作『国宝』

2025.06.07 13:03
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歌舞伎――日本を代表する伝統芸でありながら、それを真正面から描いた映画やドラマは決して多くない。現代においてはなおさらだ。その理由は明白だろう。まず、演技としての難易度が極めて高く、リスクも伴う。そしてもうひとつ、歌舞伎の裏側に潜む閉ざされた世界は、外部の人間が簡単に触れられる領域ではないからだ。

そんなタブーにも似た題材に挑んだのが、吉田修一による小説『国宝』だ。彼が作家生活20周年を記念して発表したこの作品には、フィクションならではの躍動感と、取材に裏打ちされたリアリティが同居している。実際、吉田は4年にわたり黒衣として舞台裏に身を置き、歌舞伎の“生”を観察してきたという。その経験が物語の骨格となっている。

そして映画『国宝』は、『悪人』『怒り』に続いて吉田作品を映像化してきた李相日監督との3度目のタッグ作となった。実は李監督は『怒り』の公開時点で、女形を主題にした作品を撮りたいと構想を持っていたという。そう考えると、2017年に「国宝」の連載が始まり、それを李監督が手がける未来は、ある種の必然だったのかもしれない。

完成した映画『国宝』は、まさに日本映画史に刻まれるべき一作となった。中でも驚かされたのがキャスティングだ。歌舞伎を題材にしていながら、メインキャストに歌舞伎役者を起用していないのだ。吉沢亮と横浜流星は、代役や吹き替えを一切使わず、自身の身体で歌舞伎の演目を演じきっている。これはもはや演技という枠を超えた“習得”と呼べるもので、その映像を観るだけでも価値がある。

ふたりが演じるのは「二人道成寺」や「二人藤娘」、「関の扉」など、実際に上演されることもある名演目ばかり。彼らの演技には、歌舞伎を知らなくても熱量が伝わる魂のようなものがあり、まさに“本物”として成立している。実際の歌舞伎役者がこの演技をどう受け止めるのか、気になるところだ。

物語は、ふたりの役者の人生をなぞる構成となっている。約3時間という長尺ながら、彼らの芸と生き様を描くには時間が足りないと感じるほどだ。ただ、その時間の制約を補って余りあるのが、俳優たちの演技によって「その年月を確かに生きてきた」と思わせる説得力である。

吉沢亮と横浜流星は共に特撮出身という共通点を持つ。吉沢は『仮面ライダーメテオ』、横浜は『トッキュウジャー』の4号だった。その頃のふたりを見て、これほど深く芸に生きる姿を想像できた人がいただろうか。とくに吉沢亮は、福田雄一監督作『銀魂』や『斉木楠雄のΨ難』でコメディの一面を開花させたあと、『青くて痛くて脆い』などで二面性を武器にしてきた。『国宝』においてもその“表と裏”の演技は存分に活かされており、彼の代表作と呼ぶにふさわしい出来栄えだ。

もちろん主演ふたりだけではない。渡辺謙、田中泯といった大御所の存在感も光るが、特筆すべきは、男社会である歌舞伎界に生きる女性たちの描かれ方だ。セリフが少なく抑えられた構成ながら、寺島しのぶ、高畑充希、見上愛らが静かに、しかし確かな存在として作品を支えている。中でも森七菜の演技は群を抜いており、成長の著しさを感じさせる。6月13日公開の『フロントライン』とあわせて注目したい。

そして映像面にも注目しておきたい。本作の撮影監督には、『アデル、ブルーは熱い色』やApple TV+『パチンコ』を手がけたチュニジア出身のソフィアン・エル・ファニを起用している。彼のレンズを通して映し出された歌舞伎の世界には、どこか海外映画のような空気感が漂う。それもまた、本作を唯一無二の作品たらしめている所以だろう。

伝統を敬いながら、革新を恐れず挑戦する――映画『国宝』は、まさに“今”の日本映画が世界に向けて放つ、魂の一撃である。

▽『国宝』後に国の宝となる男は、任侠の一門に生まれた。この世ならざる美しい顔をもつ喜久雄は、抗争によって父を亡くした後、上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎に引き取られ、歌舞伎の世界へ飛び込む。そこで、半二郎の実の息子として、生まれながらに将来を約束された御曹司・俊介と出会う。正反対の血筋を受け継ぎ、生い立ちも才能も異なる二人。ライバルとして互いに高め合い、芸に青春をささげていくのだが、多くの出会いと別れが、運命の歯車を大きく狂わせてゆく...。誰も見たことのない禁断の「歌舞伎」の世界。血筋と才能、歓喜と絶望、信頼と裏切り。もがき苦しむ壮絶な人生の先にある“感涙”と“熱狂”。何のために芸の世界にしがみつき、激動の時代を生きながら、世界でただ一人の存在“国宝”へと駆けあがるのか?圧巻のクライマックスが、観る者全ての魂を震わせる……。

原作:「国宝」吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)脚本:奥寺佐渡子監督:李相日出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、永瀬正敏、嶋田久作、宮澤エマ、中村鴈治郎、田中泯、渡辺謙ほか製作幹事:MYRIAGON STUDIO制作プロダクション:CREDEUS主題歌:「Luminance」原摩利彦 feat. 井口 理(Sony Music Label Inc.)配給:東宝

2025年6月6日(金)より公開中

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