【何観る週末シネマ】ニコラス・ケイジとアリ・アスターの化学変化『ドリーム・シナリオ』

〇ストーリーごく普通の暮らしをしている大学教授のポール・マシューズ（ニコラス・ケイジ）。ある日、何百万という人々の夢の中に一斉にポールが現れ、一躍有名人に。人々にもてはやされ、メディアの注目を集め、夢だった本の出版まで持ちかけられ、ポールは天にも昇る気持ちだった。しかし、そんな夢のような日々は突然終わりを告げる。夢の中のポールが様々な悪事を働くようになり、現実世界で大炎上。その人気は一転、ポールは一気に嫌われ者になり、悪夢のような日常が始まる。何もしていないのに人気絶頂を迎え、何もしていないのに大炎上したポールの運命はー!?

〇おすすめポイントわざと薬の副作用で病気になることで、承認欲求を満たす主人公の末路を描いた『シック・オブ・マイセルフ』(2022)のクリストファー・ボルグリの最新作にして、『ミッドサマー』(2019)や『ヘリディタリー/継承』(2018)などで知られる変態監督アリ・アスターが製作として参加した作品。ちなみに次回作『THE DRAMA（原題）』でもタッグを組む予定だ。

アリ・アスターは、尖った監督とお友達になることが得意であり、悪趣味×変態の化学変化を次々と起こしてきているが、また新たな化学変化が起きてしまった!!

そして主演を務めるのは、今や100本以上の映画出演という、インドの俳優かと思うほど、作品と作品のスパンが短いニコラス・ケイジだ。

それだけピンキリの様々な映画に出演しているのだから、夢にニコケイが出てきたとしても、不自然ではないと思わせる存在感が、メタ的に機能している部分もあって、今作には、間違いなくうってつけのキャスティングといえるだろう。

ニコケイといえば、一時期は、浪費癖からの多額な借金や結婚生活の失敗が重なったことなどもあり、作品を選んでいられない状態だったなかでも、ギャラの高いディズニー映画『ナショナルト・レジャー3』よりも、コミックオタクとしての精神を貫き『ゴーストライダー2』に出演するなど、どんな作品にも拘りをもって挑む信念の強さをもった俳優でもあるし、何より第68回アカデミー賞では『リービング・ラスベガス』で主演男優賞を受賞している演技派なのだ。

今作でも第81回ゴールデングローブ賞において、21年ぶりにノミネートされるなど、まだまだ現役。『マッシブ・タレント』(2022)、『レンフィールド』(2023)、そして今作と、良い流れが続いているニコケイの今後の活躍に注目だ。

さて作品の方はどうかというと、監督の前作『シック・オブ・マイセルフ』の場合は、SNS社会への痛烈な風刺であったが、今作も同様の社会風刺が強く、ファンタジーやSFのようにコーティングされているものの、本質としては、インターネットやSNSで日々起きていることを現実の生活に置き換えると、いかに滑稽で惨いことなのかを描いている。

本人が実際にどういった人間かも知ろうとしないで、ネットやメディアに浮遊している情報だけで、誰かを絶賛したり、一方では誹謗中傷したりという、SNSで日常的に行われていることを、現実社会で起きたとしたら、それはスリラーなのだ。

今作において”夢”は、SNSのメタファーとなっているが、日々深刻的に加速する現実社会とSNSの距離感を改めて考えてみると、決して今作をフィクションとして突き放すことはできないだろう……。

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〇作品情報監督・脚本:クリストファー・ボルグリ出演:ニコラス・ケイジ、リリー・バード、ジュリアンヌ・ニコルソン、ジェシカ・クレメント、マイケル・セラ ほか配給:クロックワークス公式サイト:https://klockworx-v.com/dream-scenario/11 月 22 日(金)新宿ピカデリーほか全国公開