南久留米『南京千両本家』のラーメン。スープはさほど濁らず、半透明である。撮影/かずあっきぃ

戦前は透明だった? 九州豚骨ラーメンのスープが白濁したのは偶然の産物だった【ラーメン官僚】

2024.10.12 12:03
提供:ENTAME next

日本全国のラーメン店の発掘と紹介をライフワークとし、年間700杯以上のラーメンを食べ続け、生涯実食杯数は20,000杯超という日本屈指のラーメンフリーク、通称「ラーメン官僚」こと、かずあっきぃ氏がラーメンについて語り尽くす短期連載。第2シーズンでは「豚骨ラーメンの今までとこれから」について3回にわけて語ります。(前後編の前編)

世の中の多くの人は「豚骨ラーメン」と聞くと、「博多豚骨ラーメン」を思い浮かべるのではないかと思います。「博多豚骨ラーメン」は、「札幌味噌」「喜多方ラーメン」と並び称される「日本三大ラーメン」のひとつで、全国的にも知名度が高いラーメンです。ですが、「博多豚骨ラーメン」だけが豚骨ラーメンではありません。

「豚骨ラーメン」とは、豚のゲンコツ(大腿骨)やトントウ(頭骨)、セガラ(背骨)など、豚の骨から出汁を採るラーメンの総称です。それ以上でも以下でもないということを、まずは押さえておいてください。白濁したスープを特徴とする「博多豚骨ラーメン」は、星の数ほどある豚骨ラーメンの一部に過ぎません。

例えば、「横浜家系ラーメン」や「二郎系ラーメン」は、れっきとした豚骨ラーメンです。「和歌山ラーメン」、「徳島ラーメン」、「広島中華そば」も豚骨ラーメン。九州に限っても「久留米ラーメン」、「佐賀ラーメン」、「熊本ラーメン」、「宮崎ラーメン」、大分の「佐伯ラーメン」などは、全て豚骨ラーメンです。このように、豚骨ラーメンの種類は非常に多い。このことを前提に置いていただき、まずは九州の豚骨ラーメンについて解説しようと思います。

九州の豚骨ラーメンといえば、豚骨を強火で長時間煮込んでスープを白濁させたラーメンを思い浮かべることでしょう。しかし、スープが完全に白濁したラーメンは、九州全域でみるとそれほど多くありません。博多などの大都市からちょっと離れた郊外や、昔からある老舗で提供されるラーメンは、豚骨出汁ではあるもののスープはやや濁る程度で、驚くほどあっさりしたものが大多数を占めています。元々、戦前の豚骨ラーメンのスープは、透き通っていましたからね。

では、戦前は透明なスープが主流だった豚骨ラーメンが、なぜ白濁したのか。

九州の「豚骨ラーメン」のルーツは、1937年に久留米で創業した『南京千両』まで遡ります。ただ、そこで提供されていたラーメンのスープは清湯。濁っていませんでした。戦後間もない1947年、杉野さんという方が、久留米に『三九』というラーメン屋を創業しました。『三九』も、当初は、スープが透明な豚骨ラーメンを提供していたんです。ところがある日、杉野氏がスープ番を母親に任せて買い出しに出掛けた際、間違えて煮込み過ぎてしまい、スープに豚骨のコラーゲンが溶け出し、白く濁ってしまった。偶然の産物であったものの、そのスープを美味しいと感じた杉野氏は、以後あえて白濁させたスープを店で出すようになり、それが徐々に市民権を獲得していった。これが白濁豚骨ラーメン誕生の経緯です。

1951年、その杉野氏は、常連客だった四ケ所さんに『三九』を譲り、杉野氏ご自身は久留米から北九州の小倉へと移り住み、『来々軒』を開業。『来々軒』も、白濁豚骨ラーメンを出す店として人気を博します。こうして、白濁スープの豚骨ラーメンは、提供される先々で確固たる支持を獲得しながら、大分県日田市を経て大分県全域へと広がっていきました。

他方、久留米で市民権を獲得した白濁豚骨ラーメンは、隣の熊本県や佐賀県にも継承されました。久留米での数年の営業の後、四ケ所氏は佐賀へと移り住み、佐賀のラーメン職人にラーメンの作り方を伝授。そのラーメンが、やがて、甘みがあるあっさりスープにやや太い麺を合わせた「佐賀ラーメン」となります。

熊本県玉名市には『三九』の支店が進出。この『三九』の支店が、現在の「玉名ラーメン」や、マー油を用いることで有名な「熊本ラーメン」のルーツとなりました。「熊本ラーメン」は、宮崎県にも伝播しています。「熊本ラーメン」のパイオニアの一人である『松葉軒』の創業者・木村氏が宮崎市へと移り、『喜夢良』を開業。「宮崎ラーメン」は、マー油の代わりにラード油を用い、現在にまで至っています。九州のご当地麺は、その味や仕様に差異はありながらも、それぞれが密接に関連しているのです。

なお、「鹿児島ラーメン」だけは出自が全く異なります。かつて鹿児島市内にあった人気店で、鹿児島ラーメン発祥の店と言われている『のぼる屋』の創業者・道岡ツナさんが、横浜で看護師をしていた時に、患者の中国人からスープの作り方を教わり、それが後の「鹿児島ラーメン」となりました。なので、「鹿児島ラーメン」は、『三九』の系譜とは無関係です。

ただ、豚骨ラーメンの歴史って、分かっていないこともまだまだ多い。というのも、「博多豚骨ラーメン」の出自は全く別であるという説もあるんです。

博多ラーメンは、『赤のれん』の創業者・津田さんと、『博龍軒』の創業者・山平さんのおふたりがルーツ。戦後、ラーメン屋台を引いていた二人が共同開発。津田さんが中国で食べた豚骨スープをアレンジし、山平さんが台湾で知った麺づくりを実践した結果、「博多ラーメン」の原型ができたとされています。

津田氏の話を少し広げます。「博多ラーメン」のスープは、津田氏が満州に出征した際、現地の食堂で食べた豚骨スープに感銘を受けて持ち帰ったというエピソードがありますが、その食堂で津田氏が食べた豚骨スープは、元々、北海道のアイヌ料理「ソップ」が原型だという説もあります。この「ソップ」云々の話は信ぴょう性に疑問符が付く節もあるのですが、はっきりしていることは、「久留米ラーメン」と「博多ラーメン」とは系統が異なるということ。まさにカオス。これが、九州の豚骨ラーメンの歴史なんです。

ここで、「豚骨ラーメン」の代表的な全国チェーン『一風堂』と『一蘭』について、少し触れておきます。前者(『一風堂』)は1985年、後者(『一蘭』)は1993年の創業です。共に、ご当地麺としての分かりやすさを重視し、豚骨感を強調したラーメンを出しています。おそらく、一般的な方々、特に九州以外の地域の方々が抱く「豚骨ラーメン」のイメージは、これなのではないかと思います。

実は、「博多ラーメン」のお店でよく知られている「替え玉」システムも、九州のごく一部の文化です。「替え玉」が生まれたのは福岡の長浜です。長浜には、海沿いの市場で働く人たちに向けられた、早朝から開いているラーメン屋が数多くあり、忙しい最中、短時間でお腹を満たすことが求められました。「博多ラーメン」の麺量が少ないのも、短時間でサクッと食べられるようにという配慮によるものです。「替え玉」は調整弁ですね。1杯ではちょっと量が少ないという人たちのための。

この「替え玉」が、その他の地域のラーメン文化にはない特徴的なシステムだったことから、「豚骨ラーメンと言えば替え玉」と認知されたわけです。近年、採り入れる店が増えつつあるものの、元々、「久留米ラーメン」や「熊本ラーメン」に「替え玉」の概念はありません。有名な熊本ラーメンチェーンの『桂花』にも「替え玉」はありませんよね。まとめると、多くの方が「豚骨ラーメン」の常識だと思っている「白濁スープ」と「替え玉」は、実は、「豚骨ラーメン」文化の一部に過ぎないのです。

というわけで、「豚骨ラーメン=博多ラーメン」という認識は誤りで「豚骨ラーメン」というジャンルは、想像以上に幅広いということです。例えば、都心部で見かける『北海道ラーメン味源』も、スープは豚骨ベースなので「豚骨ラーメン」です。ちなみに、「家系」や「二郎系」のスープは、醤油ダレの存在を立たせた豚骨ベース。タレに薄口醤油を使えば「博多ラーメン」のスープになります。

殊更豚骨ラーメンだと意識しなくても、豚骨ラーメンを口にしていることもあるのです。 構成/大泉りか

関連リンク

関連記事

  1. SKE48 古畑奈和、「自分は誰かの役に立てている」10年突き進んだ"アイドル"という職業
    SKE48 古畑奈和、「自分は誰かの役に立てている」10年突き進んだ"アイドル"という職業
    ENTAME next
  2. 美女コスプレイヤー・蒼猫いな、フェチ感じる衣装で美スタイル完全解禁【写真10点】
    美女コスプレイヤー・蒼猫いな、フェチ感じる衣装で美スタイル完全解禁【写真10点】
    ENTAME next
  3. 10年ぶりの写真集、中川翔子「過去最大の露出に挑戦したきっかけは江頭2:50さんの一言」
    10年ぶりの写真集、中川翔子「過去最大の露出に挑戦したきっかけは江頭2:50さんの一言」
    ENTAME next
  4. 中川翔子、すべてを出した10年ぶり写真集を語る「血管を褒められる体験は初」
    中川翔子、すべてを出した10年ぶり写真集を語る「血管を褒められる体験は初」
    ENTAME next
  5. 桃月なしこ、話題のフォトスタイルブックからナチュラルな白ランジェリーショット公開
    桃月なしこ、話題のフォトスタイルブックからナチュラルな白ランジェリーショット公開
    ENTAME next
  6. 似鳥沙也加、まん丸バストを置きパイした泡風呂グラビアに「キュンが止まらない」
    似鳥沙也加、まん丸バストを置きパイした泡風呂グラビアに「キュンが止まらない」
    ENTAME next

「音楽」カテゴリーの最新記事

  1. 櫻坂46「不安でいっぱいの時期があった」過去の葛藤語る “肯定してくれた”ファンへの感謝【アンコール挨拶全文】
    櫻坂46「不安でいっぱいの時期があった」過去の葛藤語る “肯定してくれた”ファンへの感謝【アンコール挨拶全文】
    モデルプレス
  2. 櫻坂46、“ZOZOマリン”2DAYSで7万2千人動員 涙で語った4年間の歩みと5年目への覚悟【セットリスト】
    櫻坂46、“ZOZOマリン”2DAYSで7万2千人動員 涙で語った4年間の歩みと5年目への覚悟【セットリスト】
    モデルプレス
  3. JO1 今年初のライブツアーがついにスタート!!初のワールドツアーも来年開催決定【レポート】
    JO1 今年初のライブツアーがついにスタート!!初のワールドツアーも来年開催決定【レポート】
    WWS channel
  4. 「今の私が一番私らしい。」1万字に及ぶロングインタビューで紐解く、乃木坂46・賀喜遥香の心境。B.L.T.1月号の表紙画像を公開!
    「今の私が一番私らしい。」1万字に及ぶロングインタビューで紐解く、乃木坂46・賀喜遥香の心境。B.L.T.1月号の表紙画像を公開!
    WWS channel
  5. WILD BLUE、山下幸輝が凱旋ライブ「人生が本当に変わりました」オープニングアクト登場【第37回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト】
    WILD BLUE、山下幸輝が凱旋ライブ「人生が本当に変わりました」オープニングアクト登場【第37回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト】
    モデルプレス
  6. 「ベストアーティスト2024」出演アーティスト第2弾発表 Hey! Say! JUMP・乃木坂46・&TEAMら
    「ベストアーティスト2024」出演アーティスト第2弾発表 Hey! Say! JUMP・乃木坂46・&TEAMら
    モデルプレス
  7. JO1が初のワールドツアー開催を発表「ここから世界に羽ばたいていきます」アジア、北米を含む6都市へ
    JO1が初のワールドツアー開催を発表「ここから世界に羽ばたいていきます」アジア、北米を含む6都市へ
    WEBザテレビジョン
  8. INIが“FAVORITE ASIAN ARTIST”受賞「僕たちらしく頑張っていきたい」<2024 MAMA AWARDS>
    INIが“FAVORITE ASIAN ARTIST”受賞「僕たちらしく頑張っていきたい」<2024 MAMA AWARDS>
    WEBザテレビジョン
  9. BMSG×ちゃんみなオーディション、5次審査進出者14人決定「日プ女子」出身者は3人とも通過【No No Girls】
    BMSG×ちゃんみなオーディション、5次審査進出者14人決定「日プ女子」出身者は3人とも通過【No No Girls】
    モデルプレス

あなたにおすすめの記事