有村昆 撮影:松山勇樹

ギャンブル依存で大変なアノ方に観てほしい映画を有村昆が厳選「中毒者が陥ってしまう心情がリアル」

2024.06.11 18:37
提供:ENTAME next

野球界を揺るがすスキャンダルとなった、元・通訳、水原一平氏による「違法賭博」疑惑。水原氏ほどのスケールではなくとも、ギャンブルに依存してしまう人は多く存在する。今回、賭け事によって人生を翻弄されてしまった人、またギャンブルの沼から抜け出せない人にむけて、映画評論家の有村昆がおすすめ映画をリコメンド。ぜひ水原一平氏にもご覧いただきたい3本とは…!?

水原一平さんによる「違法賭博」疑惑。いまだのその全容は掴めてないですが、改めてギャンブル依存症の恐ろしさが伝わってくる事件です。仕事も家庭も充実していそうなのにギャンブルにハマり、数十億円というとんでもない金額を賭け続けてしまう。それもビジネスパートナーというか、他人のお金を勝手につぎ込んで、勝ったら自分の財布にいれてしまうという、すごいシステムになっていて…。後先考えずにズルズルと堕ちていく流れは、まさに病的だなと思いますね。

僕自身、賭け事はあまりしないほうです。人生そのものがギャンブルみたいなもので、それでけっこう負けることもありますから(笑)、人のお金まで注ぎ込んでハマってしまう人の気持ちが正直わからない。

それでも、ギャンブルの怖さというのは、映画を通して疑似体験していると思います。そこで、今回はギャンブル依存症に対する理解が深まるような映画を3本選んでみました。

いま裁判が進んでいる、水原一平さんにもぜひ観てもらいたい作品です。

まず1本目は、香取慎吾さんが主演で、監督を白石和彌さんが務めた『凪待ち』という作品です。ギャンブル中毒者が陥ってしまう状況や心情を鋭く描いていて、実際にギャンブル好きな人たちが「あの作品はリアル」「身につまされる」と絶賛しているんですよ。

物語は香取慎吾さんが演じる郁男というギャンブル好きな主人公が、仕事をリストラされて宮城県の石巻に移り住むところから始まります。

何もない漁師町でギャンブルも出来ないから安心だろうと思っていると、スナックの地下とかに悪い連中がいて、テレビ中継を観ながらノミ行為をやってるんです。郁男もダメだと思いながらも軽く賭けてみたら、これが勝っちゃうんですよ。

それでどんどんのめり込んでしまって、すぐに2万、3万とマイナスになっていく。やがて手持ちのお金がなくなると「お兄ちゃん、貸してあげるよ」と、高利貸しが近づいてくるんです。そこから転がるように借金が500万円くらいまで膨らんでしまって、見かねた義理のお父さんが、自分の船を売ってお金を工面して「これでもうやめるんだぞ」と渡してくれる。でも、郁男はその500万をまたギャンブルに突っ込んでしまう…。

この郁男という人物がリアルなのは、ギャンブル好きだけど悪人ではないところなんです。優しいし、情け深いし、常識も分別もある。ただ、賭け事をしていてスイッチが入ると周りが見えなくなってしまう。

今回の事件の水原さんも、すごく優秀だし、コミュニケーション能力の高い好青年に見えたじゃないですか。でも、賭け事に熱中するとおかしくなってしまって、大切な人を裏切ってしまう。

『凪待ち』では、郁男が賭け事に熱くなるとカメラがぐーっと傾いていって、追い詰められた感覚を映像化しているんですが、まさにこのシーンを観て、ギャンブル依存症の人たちは「わかるわかる」と共感するみたいなんですよね。

あと、ギャンブル仲間たちもリアルです。みんな基本的にはいい人たちなんだけど、お金のことになると平気で裏切る。賭けで勝ったお金をロッカーに入れておいたら、すぐに持ち逃げされて行方知れずになるとか、金を借りた男が借用書の紙を飲み込んでバックレようとするとか…。ギャンブルが人を破滅させるという姿がリアルに描写されていて、こういう世界にいたくないなと思わされます。これだけでも、ギャンブルを止めるきっかけになるんじゃないですかね。

僕はちょっと前に、さらば青春の光さんのYouTubeチャンネルに「ついてない男」代表として出演して、競馬をやったことがあるんです。10万円持ってきてくださいって言われれたのでホントに自分のお金を持っていって、生まれて初めて全賭けしたんです。

そしたら当たっちゃって、70万円くらいになった。いわゆるビギナーズラックというやつなんでしょうけど、たいていの人はこれで舞い上がってしまってハマっていくらしいんですよね。でも僕は良かった良かったと、その70万円は普通に貯金しました。やっぱり、ギャンブルに向いてないですよね。カジノにも行ったことがありますけど、何が楽しいのかよくわからなかったし。

でも、そのレースやゲームに自分なりの攻略法を見出したり、試行錯誤するのは面白そうだなとは思います。

そこで、2本目はカジノを舞台にした映画がいいかなと思いまして、『ラスベガスをぶっつぶせ』という作品を選びました。

これは実話が元になっていて、 マサチューセッツ工科大学の学生がブラックジャックの必勝法を編み出し、ラスベガスのカジノで大勝ちするという話です。

その必勝法というのは厳密にはイカサマなんですが、数学的な確率論を踏まえた「カードカウンティング」というテクニックを用いて、仲間同士でサインを送りあって勝たせていくという方法です。

映画のジャンルとしては金庫破りとか泥棒モノのケイパームービーに近いかもしれません。

この作品は、カジノのルールとシステムを解析して、どう崩していくかというのが面白いところなんですが、逆にいえば、このくらいの天才たちが理論を立てて、すこしズルするくらいじゃないと勝てないということでもあります。

ラスベガスのカジノにしても、あんな豪華な内装で、たくさんの人を使って運営ができてるということは、それだけ負けてる人、損してる人がいるからなんです。パチンコだって、駅前の一等地にたくさんありますけど、あの家賃はどのくらいするのかって話ですよ。

ギャンブルというのは、基本的に客側が損するように出来ている。この作品を観て、そのあたりの仕組みを改めて理解すれば、身の丈を超えるようなお金を突っ込むなんてバカバカしいと感じるんじゃないでしょうか。

とはいえ、ギャンブルならではの心理的な駆け引きというのはドラマとして盛り上がるんですよね。『007/カジノ・ロワイヤル』に出てくるポーカー勝負とか、ホントに面白い。そんなギャンブルそのものをテーマにした映画もたくさんあるんですが、邦画でこのジャンルの代表作といえば『カイジ 人生逆転ゲーム』ではないでしょうか。

福本伸行先生の大人気マンガが原作で、あの独特の世界観をどうやって実写化するのかという期待と不安があったんですが、カイジ役の藤原竜也さんがまさかのハマり役なんですよね。いつも以上に芝居が濃いんですけど、「カイジ」のドロドロとしてヒリヒリした世界観に合うんです。

『カイジ』の素晴らしいところは、劇中に出てくるギャンブルが、すべてオリジナルということですよね。「限定ジャンケン」や、皇帝と奴隷のカードで差し合う「eカード」など、ルールも面白いし、心理戦の読みあいもある。

作品内では、お金だけでなく生死も掛かってたりするんですけど、それが無くてもゲームとして楽しめそうなんですよ。

水原さんがのめり込んだのはスポーツ賭博だったみたいですが、別にお金を賭けないで、単純に勝敗を予想するだけでも楽しめなかったのかなとは思います。

いや、お金を賭けないと真剣に予想できないという人がいるなら、それはすでにギャンブル依存症かもしれません。

僕は『カイジ』のような映画を観るだけでもギャンブル気分が味わえるし、自分なりに物語がどうなっていくのか予想するだけでドキドキします。それが健全なのかどうかはわかりませんが、機会があれば今回取り上げたようなギャンブル映画について、ギャンブル好きの方とじっくり話してみたいですね。

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