山下美月が乃木坂46に遺したもの、伝統の“軍団”結成、幻のユニット曲…愛にあふれた卒コン2日間
5月11日、12日の卒業コンサート(東京ドーム)で乃木坂46に別れを告げた山下美月。2日間のライブは、セットリストも大きく変わり、山下のアイデアで笑いと涙にあふれた。そんなライブを、メンバーやファンの琴線に触れただろうシーンを主に振り返ってみたい。
卒業コンサートといえば、メンバーの代表曲をメインに、終盤には別れを想像させる楽曲が続いて、しんみりとした雰囲気で終わることも多い。しかし、山下自らセットリストを組んだ2日間は、感傷にひたるよりもカラッとした晴れやかな気分で彼女を送り出したくなる構成だったかもしれない。
とりわけ、乃木坂46の通常のライブでもなかなか見られない“お祭り感”があったのは11日の中盤、『失恋お掃除人』に始まり、グループ内の軍団の楽曲が続いたところだ。仲がよかったり、趣味の合うメンバーで作られる“軍団”は1、2期生を中心に複数が生まれた。その曲たちとして、まず1曲目が「若様軍団」の『失恋お掃除人』。若月佑美を団長に、若月を慕う3期生の山下と梅澤美波、阪口珠美の4人によるユニットだ。若月から堀未央奈、山下と受け継がれてきた持ちネタ「箸くん」の芸もやり遂げた。
山下は引き続き、「さゆりんご軍団」の『白米様』と、「真夏さんリスペクト軍団」から『二度目のキスから』をメンバーとパフォーマンスする。それぞれ卒業した松村沙友理と秋元真夏を軍団長にしたユニットの曲で、山下本人はメンバーではない上にオリジナルの軍団員は全員卒業してしまっていたが、久々にライブで楽曲を披露した。
こういった軍団の活動は、5年ほど前までは盛んだったがメンバーの卒業で機会が減っていき、新しい軍団の結成も停滞気味。山下がまだ可愛い後輩だった頃の、コミカルな先輩たちの姿を連想させるシーンが続いた。
すると、ライブのその場で山下を軍団長とする「山下軍団」の結成も宣言。賀喜遥香、五百城茉央、川﨑桜、一ノ瀬美空を軍団員に、『遥かなるブータン』を披露する。もとは生田絵梨花のセンター曲だが、曲中のオリエンタルなアイソレーションの振付が得意な山下が、生田から“ブータン選抜”というワードをもらっていた。その時の縁を忘れず、自分の卒業コンサートで披露してみせると、山下軍団の曲として『恋山病(こいざんびょう)』が始まる。
もちろん全く音源化もされていない、この日初めて公になる楽曲ながらしっかり山下が作詞し、「山」にかけたコミカルソングにしてみせた。こんな風に内輪ネタをしっかり昇華して楽しめるのも乃木坂の伝統だ。山下が卒業してからも、4人には軍団員としての絆が残るだろう。かつて若様軍団で後輩ポジションにいた山下が、今度は後輩に慕われる軍団長になってグループを盛り上げてくれているのも、長く乃木坂を応援してきたファンや、ファンとしてそれらを見てきた後輩メンバーにはたまらない。2日目は卒業する山下から、乃木坂46への粋な恩返しのような瞬間が多く見られた。「月」にちなんだ楽曲として、『満月が消えた』『月の大きさ』『届かなくたって…』が続く。『届かなくたって…』は佐藤楓のアンダーセンター曲で、当時アンダーに参加した3期生全員と山下で踊り、佐藤と山下のダブルセンターで3期生ファンを感涙させる。
3期生の絆を感じさせる場面はこの後も梅澤との『ファンタスティック3色パン』、仲の良い伊藤理々杏との『1・2・3』の披露、久保史緒里・与田祐希・(卒業した)大園桃子との4人ユニット曲だった『言霊砲』での久保と与田から山下へのメッセージなど随所で見られる。加入から8年近くになっても、まだ9人が活動を続けるほど絆とグループへの思いが強い3期生だからこそ、MCも3期生曲も見逃せない瞬間が続いた。
そして観客を沸かせたのが、坂道AKBの楽曲『初恋ドア』。前フリの映像で、山下本人も、MV撮影の当日に振り入れをして以来一度もライブで踊っていないと振り返った、スペシャルユニットの曲。5年前の2019年に坂道シリーズとAKB48から若手メンバーが集まったユニットの中で、この曲のセンターを務めたのが山下。5年を経て卒業したメンバーも多く、グループも別々なので、もし披露できるならセンターの山下が去るこのタイミングでしか…と考えられなかったところでファンのひそかな期待に応えた。
メンバーには弓木奈於・林瑠奈・佐藤璃果・黒見明香・松尾美佑を選んだが、6年前の坂道合同オーディションから研修生を経て、4期生に合流した5人だ。それぞれに苦労はあったが、バラエティやスポーツ、アンダーライブでの活躍と着実に乃木坂の要になっている彼女たちへの山下からのメッセージにもなった。同時に、48グループとのコラボユニットという経験も、山下のキャリアに確かに刻まれていることをファンに伝えるという、気遣いたっぷりの演出でもあった。
卒業するメンバーが、各期の楽曲でコラボするシーンも卒業ライブで定着してきたが、2日目の山下は5期生とは『心にもないこと』、4期生とは『図書室の君へ』を選んだ。前者はこの5月12日に誕生日だった池田瑛紗で、ステージ上で山下が池田のバースデーを祝ってくれた。池田とファンにとっては忘れられない24歳のバースデーになったことだろう。『図書室の君へ』では大阪で舞台出演していた柴田柚菜が関西からかけつけ、4期生と山下で休業中の掛橋沙耶香のセンター曲を披露し、あたたかさを感じる瞬間になった。
2日目アンコールのラストは、1日目オープニングと同じ『チャンスは平等』。1日目にこの曲で月のセットに乗って降りてきた山下が、2日目には月に乗って上がっていき幕が降りる。もちろん自身の名前にかけているが、かつてミュージカル『美少女戦士セーラームーン』で月野うさぎ/セーラームーンを演じたことも連想したくなる。そして『チャンスは平等』は、ディスコサウンドにのせたグルーヴィーな曲で、乃木坂46に合格するまでアイドルのオーディションに落ちてきた山下からの、人生の応援歌のような1曲。
3期生オーディションに落ちたら、大学受験に専念してアイドルは諦めるつもりだったという山下。グループアイドルだからこそ、誰もがスポットを浴びるライブに。乃木坂らしさのバトンを後輩につなぎ、小さなエピソードでもライブの演出に活かす――最後のチャンスで夢を叶えてくれた乃木坂46とファンへの恩返しが、卒業コンサートに詰め込まれていた。
12年前に、AKB48の前田敦子の卒業コンサートを東京ドームの客席で観ていた少女が、誰からも慕われる存在になって同じ会場でアイドルを全うして去っていった。山下美月の7年8か月の物語の集大成として、東京ドームでの2日間は運命的といってもいい到達点だった。
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