【BTSデビュー7周年】世界的飛躍支える“翻訳家ARMY”の活躍「号泣しながら訳すことも」
2020.06.13 10:50
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6月13日にデビュー7周年を迎えたBTS。彼らの世界的な飛躍の裏には、ARMYと呼ばれるファンたちの強固な応援があることはよく知られている。特に海外ファンにとって、彼らの発言や歌詞をソーシャルメディア上で自主的に翻訳しているARMYの存在はとても大きい。今回、Twitterフォロワー16万人以上を有するBangtan Lab(@bangtan_lab)を運営するフリーランスの翻訳家・韓国語講座教師のヨンファ氏に、どのような思いで翻訳を行っているのかを聞いた。
アーティストの世界進出を支えるファンの力 “翻訳”の視点から
BTSの最大の特徴の1つは、自分たちが作った楽曲で、自分たちの言葉で、自分たちがそのとき伝えたいことを伝えるという点だろう。だからこそ、世界中の人々に共鳴し、嘘のない音楽として世界的に認められるようになった。しかし彼らの言葉が海外ファンに伝わるためには、翻訳が不可欠だ。K-POPのファンダムには、彼らの膨大な楽曲、コンテンツを自主的に訳し、情報を共有するファンが数多く存在する。特にBTSの人気につながってきた1つの要素でもあるYouTube上の動画コンテンツ等は、今年に入り各国語への自動翻訳機能が付き始めたものの、長い間韓国語のみで提供されていた。その環境でもファンの力の重なり合いで、彼らの魅力が世界中に届いていたことを考えると、BTS×ARMYの持つ建設的なパワーを改めて実感させられる。
“翻訳家ARMY“の1人であるヨンファ氏は日本に生まれ、韓国留学にて韓国語を取得。長年ソウルに住み、これまでに通訳・翻訳・メディア向けの現地コーディネーター等、多岐にわたり活躍している。現在は韓国語講座の先生でもあり、多忙のなか韓国からリモートインタビューに応じてもらった。
“MV考察を日本ファンにも紹介” アカウント開設のきっかけ
― まず初めに、BTSを好きになったきっかけを教えて下さい。私はアイドルの曲をそれまであまり聞いてこなかったのですが、LAに住んでいる妹が音楽に詳しく、K-POPにもとても詳しかったんです。妹のアンテナにBTSが引っかかったようで、当時韓国に来たときには、『花様年華』シリーズをとにかくずっと聴いていました。そして私もだんだん曲に惹かれて、次はMVを見て『花様年華』シリーズの怪しげで謎が多い世界観※にとても興味を持ちました。でもそのときは今のように本格的なファン活動はしていませんでした。というのもあの頃は韓国が政治的に不安定で、友人と会っても政治の話しかしないような時期だったので。
※3rdミニアルバム「花様年華 Pt.1」から続くBTSメンバーを投影した壮大な青春ストーリー。これらと繋がる“BU”(BTS Universe)の世界観はウェブコミック化、書籍化もされているが、未だ明かされていない謎も多い。
― なるほど。2017年にブログとTwitterを始められたと思うのですが、そのきっかけは?
政権問題が落ち着いてきたとき、自分の中で少しゆとりができました。当時は『花様年華』や、それに続く『WINGS』シリーズのMVもすごく謎が多く、色々な考察を読んだりしている中、日本のブログも見たりしていて…私も考察を含めBTSを紹介したいなと。それで何気なくブログを始めたんです。
Twitterは、そのブログを紹介するためと、やはり毎日膨大なコンテンツが降って来るBTSはTwitterが一番追いかけやすいということもあり、同時に始めました。今では時間的にブログで長々と真摯に語るというのが難しい面もあるので、Twitterの方がメインになっています。最近は何かを話したいときは、時代の流れでYouTubeライブもしています。
膨大なコンテンツをどんな思いで訳しているか
― 今ではフォロワーが16万人以上となり、ヨンファさんのアカウントで情報を得ているファンも多いと思います。ですが翻訳に関しては、ボランティアというよりも趣味という感覚だとおっしゃられていました。
私は自分のことを情報アカウントや翻訳アカウントだとは思っていません。ただ自分も知っておきたい情報に関しては共有するようにしています。日本のARMYさんへ共有するために、日本語になっていないものがあれば翻訳したり、他の方が翻訳したものをRTしたりすることもあります。
それこそ毎年恒例のFESTA※の時期は、コンテンツにちゃんとした日本語字幕が入っていないので翻訳しますが、私よりもっと早く沢山のARMYさんが翻訳されています。今年はとても忙しく、あまりできていない方です。
※6月初め~6月13日のデビュー日まで行われるBTSのデビューを祝う期間。ほぼ毎日新たなコンテンツがSNSやYouTubeで続々公開される。
― と言いつつ、今回のFESTAでも動画コンテンツなどを自主的にすぐに訳していて本当にすごいと思いました。BTSは毎日相当な量のコンテンツが配信されますよね。日々お忙しいと思いますが、訳すものを選ぶ基準はあるのでしょうか。
基本的には自分が「これは訳したい」と思ったものを翻訳するようにしています。以前は完璧主義な部分があって、FESTAの時期等は自分で全部訳さないと気が済まなかったのですが、時間的に難しい部分もありますし、コンテンツが多過ぎて全てを訳すのは不可能です(笑)。他にも多くの方が訳して下さっているので、できないものはRTしたり…。でもありがたいことに私の訳で見たいと待っていて下さる方が沢山いらっしゃるので、なるべく応えたいといつも思っています。
翻訳で気をつけていることは?“歌詞”を訳すことの難しさ
― 翻訳で気をつけていることはどのようなところでしょうか。
翻訳で一番神経を使うところはやはり誤訳です。特にTwitterは修正ができないですし、一箇所でも間違いがあると、とても落ち込みます。誤訳したものでそのまま残して置きたくないのは消す事もありますし(笑)、 私はもともとすごくおっちょこちょいで、天性のせっかちなので、なにかしらミスしてしまうことも多くて。ここまでフォロワーが多いと、一瞬で何百もの人の目に入りますし、拡散速度が早いので怖いですね。だから自分自身にいつも「慎重にアップしなさい」と言い聞かせてはいるのですが、それがなかなか難しいんです。この場をお借りして大目に見て頂けるとありがたいです(笑)。
あとは、訳したときに日本人の方にすんなり入ってくる言葉を選ぶようにしています。私は日本語のネイティブスピーカーですが、長いこと韓国にいるので、今どきの日本語が出てこないときがあります。メンバーが話している言葉を、今どきの若者言葉に書き換えるのが難しいですね。
― 曲の歌詞の翻訳もよくされていると思います。ファンにとって歌詞の意味は特に知りたいものでもありますが、言葉に内包された意味合いも多様で、普通の文章より訳すのが難しいのではないでしょうか。
その通りで、私が一番翻訳したくないコンテンツは歌詞なんです(笑)。私は歌詞に関してはパッと訳してパッとアップすることができません。一部分だけ直ぐに訳すことはありますが、全体の訳は自分の中で曲に込められた感情や意味を理解したり消化してからでないと不可能です。じっくりと聴いて、事務所側が出すアルバムの解説や資料等を読んだり、本来ならばメンバー自身の解説を聞いた上で訳したいと常に思っています。なので他のコンテンツより、歌詞の翻訳はとても時間がかかる方です。
特に歌詞は、メンバー達の大切な創作作品だと思っています。彼らが苦労して絞り出して制作した分、歌詞を通じて私達へ伝えたいことも多いと思いますし、それを短時間で全部読み取ることは難しいことですが、なるべく本来彼らが伝えたかった言葉に近い訳ができるようになりたいと思っています。
― BTSの歌詞は様々なメタファーや、哲学的な意味が含まれていたり、BTSの歴史を知らなくては分からないものも多いと思います。それを彼らが自分の言葉で綴っているからこそ、慎重に意味を考えられているのですね。
おっしゃる通り、中にはBTSの過去の出来事や背景を知らないと完全に理解できない歌詞もあります。例えば「The Truth Untold(feat. Steve Aoki)」の歌詞は“Smeraldoの伝説”(2018年夏、突如出現した架空の花屋のブログで語られたスメラルドという花の伝説)を知らないと理解できないものでしたし、「LOVE YOURSELF 承‘Her’」の隠しトラックであるRMの「Sea」も、彼がデビュー前に書いていた「2 COOL 4 SKOOL」の隠しトラック「Skit:On The Start Line」や「Path」と繋がっている曲です。
RMが語るように、彼らの曲は有機的に連結されているんです。曲と曲が結びついているものもあるし、互いに影響を与え合っている曲もある。私は彼らの楽曲1つ1つが星のようだと思っています。その星達が集まってできたアルバムは星座のようであり、アルバムが増えるたびに彼らの宇宙に星座が増えていく。そうしてできたBTSという小宇宙の中にARMYがいて、紫色の光を放っている…というイメージが“BU(BTS Universe)”のコンセプトにもつながっているのではないかなと思います※。
※紫色
BTSとARMYの絆を象徴するカラー。紫が虹の中で最後の色であることに由来し、メンバー・Vのファンミーティングでの発言から波及したとされている。
※BU(BTS Universe)
『花様年華』シリーズから繋がる、BTSメンバーが投影されたパラレルワールド的な架空の物語世界(=BTS Universe)。7人の主人公たちの繊細な青春時代を描き、時空を超えるSF的要素も含まれる。楽曲MV、ティーザーフィルムほか、電子コミックスや書籍に展開されている。
印象に残った翻訳「内容が全て頭の中に入っている」
― ヨンファさんが今まで訳した中で、一番難しかったものを挙げるとしたらなんでしょうか。
昔は方言だったりしましたが、最近思ったのはスラングですね。韓国語のスラングは、かなり日本語に訳すのが難しいです。主にスラングを歌詞で使うメンバーは限定されていますが(笑)。あとは新造語と呼ばれる最近のSNS用語も難しいです。
― たしかにスラング等は韓国語や韓国文化を理解していなければニュアンスが伝わらない部分ですよね。
そうですね。結局一番いいのは、直接ストレートに彼らの言葉が分かるようになることだと思います。これまで沢山のフォロワーさんより「どうすれば韓国語が理解できるようになるか?」「自分で直接彼らの言葉を聞き取りたい」という切実なお声を頂きました。そのような方々が楽しく学べるきっかけを作れればと思ったことが韓国語講座を始めた理由です。
― 歌詞のほかに、これまで翻訳した中で印象に残っているコンテンツを教えて下さい。
1つに絞ることは難しいですが、2018年のFESTAで公開された「防弾会食」の動画は非常に印象深いです。あれは彼らがすごく辛かった時期の後に収録された会話なので、約一時間ある長尺ですが、当時死ぬほどの思いで字幕を付けました(笑)。ですので会話全てが頭の中に入っているくらい記憶に残っています。他にも「WINGS FINAL(2017 BTS LIVE TRILOGY EPISODE III THE WINGS TOUR THE FINAL)」最終日のRMを始めとしたメンバーみんなのスピーチや、2018年の「MAMA(Mnet Asian Music Awards)」の受賞スピーチでしょうか。どれも号泣しながら訳していました。
SNS上でのトラブル防止の意識も
― 多くのフォロワーを抱える中で、SNS上のトラブル防止のため意識していることはありますか?フォロワーの中には親子ARMYさんも多く、お子さんと一緒に見ている方もいらっしゃるため、できるだけ過激な内容や下品なツイートはしないように心がけています。また日本語でも韓国語でも汚い表現は使わないようにしている方です。基本的に読んで不快感を与えることはできるだけ呟かないよう気をつけていますが、たまに素っ頓狂なツイートをする事もあるかもしれません(笑)。SNS上には色々な方がおられるので、日頃から怖い場所だとも反面では感じていて…実際にはもっと楽に呟きたいと思う事も多々ありますね。
後はTwitterの基本ルール以外に自分なりのルールもあり、ソースが不明な情報や、ネタバレになる記事(特にセットリスト等)、メンバーのプライベートを侵害するような情報記事、メンバー同士を比較したランキング記事等は好きではないので共有しません。また拡散の依頼や個人的な翻訳の依頼も基本的にお断りしています。
BTS成功の理由を考える「すごいところは“伝える能力”」
― ヨンファさんは長い間韓国にいて、自然に音楽にも触れられてきたと思います。BTSが韓国の音楽界から世界的な成功を収められた理由について感じることはありますか?当初韓国に留学した時は、あまり韓国の曲を知らなくて、カラオケに行っても日本の曲を歌っていた程です。でも色々な名曲やアーティストを後に知って、どんどん韓国音楽に目覚めて行きました。私はもともと、いわゆるアーティストと呼ばれる自分達で作詞作曲をする人の音楽だけをメインに聴いていて、K-POPと呼ばれるジャンルでストリーミングして聴いていたのは唯一BIGBANG位でアイドルには全く興味がなかった方です。最初BTSのことも、妹から教えてもらうまではよくいる普通のアイドルグループだと思っていました。でも違った。蓋を開けたら、ミックステープまで出す凄いアイドル/アーティストでした。
BTSのすごいところは“伝える能力”だと思います。音楽も、パフォーマンスも、メッセージも、仕草や普段話していることさえも、私がファンだから胸に響くのではなく、多分普通の人が聞いてもいつの間にか聞き入ってしまうと思うほど、相手に対して伝える能力が高いと思います。歌やダンスが上手いグループは他にもたくさんいますが、胸に響くか?というと全てがそうじゃない。BTSは相手の心を打つ豊かな表現力を持っていると思いますし、曲の歌詞にも彼らの話す言葉にも「진심/真心や本心」が宿ってると思うのです。だからこそ、ここまで世界中にファンがついたのだと。言語の壁を超えて、彼らの音楽が受け入れられたのは、胸を響かせる何か特別なものが、真心が、沢山の人に伝わったからだと思います。彼らの表現力は、もちろんあれだけ厳しい練習をして培った努力の賜物でもありますが、本来生まれ持ったものでもある気がします。1人1人単体でもすごく自分を表現する事ができるアーティストであり、それが7人になったとき、 7倍以上の相乗効果になる。それがBTSのすごいところです。
それにプラスして、かっこよくて、可愛くて、誠実で、面白い。またこんなに面白いグループいるの?というくらい面白くて、いつも予想を越えてくるんですよね(笑)。私の中では唯一無二で奇跡の7人です。
― 彼らの世界的な成功は、彼らが伝えたことを翻訳してくれるARMYさんがいるからこそだとも思います。
私も昔は韓国語ができませんでした。初めて韓国に留学に来たとき、親戚の家にホームステイをして、そこにいるいとこたちと全然コミュニケーションがとれなかったんです。韓国語を話せない歯がゆさ、聞き取れない歯がゆさを知っているので、日本のARMYさんたちが、今BTSが何をしゃべっているか分からないというもどかしさが少しは理解できます。だからこそメンバーの言葉を共有して、一緒に楽しみたいと思うんです。私が共有することで、皆さんが喜んでくれたら私も同時に嬉しいんです。
そして翻訳する事はただARMYである私個人の趣味です。BTSが好きで訳しがいのある言葉を発信してくれるからこそ、ここまで続けてやれていると思います。勿論限界もありますが、「これは絶対訳さなきゃ」と思うものがあれば、寝ていてもパソコンの前に向うほどです。
― 落ち込むことや、忙しさの中で様々なジレンマもあると思いますが、一番やりがいを感じるのはどんなときでしょうか。
私の翻訳を通じてBTSをもっと好きになってくれたり、一緒に楽しんで頂ける事がもちろん励みになって嬉しいです。それに加えて今一番のやりがいになっているのは、韓国語を勉強したいという人が、増えてくれていることです。少し前まで全くハングルを知らなかった私の生徒さんが韓国語でファンレターを書いたり、彼らの言葉が読めたり、聞き取れるようになったというお声が今私の一番の原動力になっています。
― 最後に難しい質問かもしれませんが、7周年記念にこそ聞きたいBTSの曲を選ぶとしたら何を選びますか?
なんだろう…思い出の曲がありすぎます…。やっぱり初期の「Path」や「Born Singer」が、未だに私の中では特別な曲です。ただこの2曲はWINGS FINALで歌ったのが最後で、もう彼らもあの頃のBTSとは決別したとも思います。だから今選ぶとしたら「We are Bulletproof : the Eternal」なのかもしれません。この曲を彼らがコンサートで歌っている姿とそこにいるARMYの姿を想像するだけで涙腺が崩壊しています。
― 「Born Singer」「Path」は正式にリリースされていなかったり、隠しトラックのため知る人ぞ知る曲ですが、彼らの“砂漠を海にした”練習生からの道のりと思いを知るのに重要な、まさに有機的に連結した曲ですよね。コンサートで涙ぐみながら歌う姿に胸を打たれたファンも多いと思います。一方「We are Bulletproof:the Eternal」は最新アルバムに収録され、タイトルの通り「僕らは永遠に防弾だ」というメッセージだけでなく、過去曲の歌詞を反映しながら苦しんだこれまでを総括し、改めてファンと共に前進する決意を感じるような曲です。ヨンファさんのご回答に非常に納得しました。本日はありがとうございました。
――――今月7日、BTSが黒人差別抗議運動「Black Lives Matter(BLM)」支援のため100万ドルを寄付したと米大手メディアが報じた。するとすぐに、ARMYたちはBTSと同額の100万ドルを目指し、BLMへの寄付金を募るプロジェクトを開始。翌日にはその額は100万ドルを超えていた。「One In An ARMY」という欧米のファングループが有志で始めたこの活動は、各国のARMYが内容を自国語で説明し、寄付を呼びかけた故にすぐ世界中に広まった。ファンダムの団結が顕著に現れた1つの例と言えよう。しかしARMYたちのボーダーレスな団結は、常日頃から言語を超えて繋がり合っているからこそ、いつもそのために尽力している誰かがいるからこそ瞬時に実現する。
「We are Bulletproof : the Eternal 」は“we are not seven, with you”という非常に象徴的な歌詞で締めくくられる。この“you”は紛れもなくARMYであり、7人とARMYの団結そのものは “永遠なるもの”という言葉がよく似合う。(modelpress編集部)
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