「べらぼう」演出、吉原の光と闇を描くこだわり 蔦重がこれまでの大河主人公と違う点とは【深川貴志ディレクターインタビュー前編】
2025.02.15 14:00
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俳優の横浜流星が主演を務める大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合テレビ、毎週日曜午後8時~/BS・BSP4K、毎週日曜午後6時~/BSP4K、毎週日曜午後0時15分~)の第7回が16日に放送される。演出を手掛ける1人・深川貴志ディレクター(第4回、第6回、第7回などを担当)がモデルプレスらの合同インタビューに応じた。前編では、初回から話題になった吉原の光と闇の演出へのこだわり、主人公・蔦重を描く上での演出陣の共通認識などを聞いた。【前編】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
本作は“江戸のメディア王”として時代の寵児になった快男児・蔦屋重三郎(横浜)が主人公。森下佳子氏の脚本で、笑いと涙と謎に満ちた“痛快”エンターテインメントドラマを描く。吉原の“伝説の花魁”・花の井(五代目瀬川)役を小芝風花、幕府“新時代”を目指す改革者・田沼意次役を渡辺謙が演じる。なお、15日から16日にかけて、第1回から第6回が一挙再放送。NHKプラスで一気見もできる。
演出・深川貴志「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の面白さとは
― 大河ドラマでも扱うことが珍しい江戸中期を描くことについて、面白さや大変さについて教えてください。深川:江戸中期という時代は、僕自身も初めて取り組む時代です。これまで戦国時代や幕末を描いたことはありましたが、江戸中期はまったくの新しい挑戦でした。チーフ演出が担当したドラマ10「大奥」(2023)を観て学んだ部分もありますが、あの作品は男女逆転の設定だったこともあり、また違う視点からの学びがありました。
江戸中期というのは、儀礼がしっかりしていて幕府の統制が強く格式が求められる時代です。一方で、娘が持っている教材でも読んだのですが、庶民の文化に目を向けるととても華やかで自由な雰囲気があります。特に寛政の改革以前は町民文化が花開いた時代だったので、色鮮やかに感じられました。それでどんどん知りたいと思ってその背景を深く知っていくと、戦国時代とも幕末とも違って町の人々が生き生きとしていて、庶民が本当ににこやかに暮らしている時代という印象を受けました。ただ、その裏では武士の給料が上がらず、「ベースアップが進まない社会」という現代と共通するような状況がありました。また、テレビもパソコンもYouTubeもない時代、本や浮世絵が人々の娯楽だったわけですが、そうした文化を深く見つめていくとその中に生きる町民の気持ちが見えてきて、とてもワクワクする時代だと感じたので、そのワクワク感をドラマの中でどう表現するか常に苦心しています。
「べらぼう」吉原の光と闇へのこだわり
― 今回の作品では、吉原の闇の部分もしっかり描かれているという点が話題になっていますが、表現のバランスについてどのように考えていますか?深川:そうですね。チーフ演出ともよく話しますが、何事も必ず二面性があり、光があれば闇もある。闇の部分を描かないと光も見えないし逆もまたしかりなので、きちんとやることで表現ができると話しています。例えば、あるシーンを撮る際に「ただ楽しいだけでいいのか」、または「背景にある苦しみや困難を描くべきか」など、細かい部分まで考えながら調整しています。
― 第6回や第7回でその点に関して特に意識したことはありますか?
深川:蔦重の根本には「吉原」という存在があります。彼が青本を作りたいと思う理由や、吉原細見に関わる理由もすべて吉原が彼の原点にあるからなので、その点を意識して描いています。光の部分で言うと、蔦重が前向きに物事に取り組みどんどん仕掛けていくシーンがそれにあたるでしょうし、一方で影の部分は、彼が感じる苦しみや挫折など。蔦重自身が「本作りは楽しいものだ」と思っていて、関わる人々を大切に思っているからこそ、時には裏切りのような出来事が彼を大きく傷つけることもあって相当へこたれるんですけど、壁をどう乗り越えていくかが第7回の大きなテーマになっています。
「べらぼう」演出陣も感動した視聴者の反響
― 深川さん演出では第4回が放送されましたが、視聴者の反響について意外だったことや嬉しかったことは?深川:まず昔と違って今はSNSですぐに感想が聞けるのが嬉しいです。視聴する皆さんが思ったことをそのままSNSに書いてくださるので、面白かったも、面白くなかったもすべてダイレクトに伝わってきて、なるべく目を通して読んでいます。本当にありがた山だと感じています。
僕たちが吉原という場所について真剣に考えながら作品を作っているのと同じように視聴者の皆さんも考えてくださっているんだなと感じます。戦いが好きな方などにとっては、出版業界の話は興味を持たれにくいのではと少し不安もあったのですが、そんなことはなく皆さん楽しんでくれているようで細かいところまでしっかり観てくださっているのが伝わってきます。また「雛形若菜」というものは実際に存在していたのですが、作品内で描かれる絵の発色の良さに気付いている方もいました。現存しているものはどうしても経年劣化で色が退色していますが、当時の色を再現するために美術チームが専門家と連携して色を復元しています。視聴する皆さんの細やかな視点に触れるとこちらも背筋が伸びますし、「どこを見ても面白いと言われる作品を作ろう」という決意がより強くなりますね。
「べらぼう」演出陣が蔦重を描く上での共通認識とは
― 演出担当の中で共通認識として「こういう風に描こう」と決めている部分はありますか?深川:演出時に話し合うことはあります。常に一緒に考えているというよりはそれぞれが台本を基に作り上げていくという形なので、撮影時に他の人の演出を見ながらどう描くかを考えています。共通認識として大きいのは、「主人公はスーパーマンではない」という点。何でも解決できる特殊能力を持っているわけではなく、何も持っていない普通の人間だと思っていて、彼は吉原で生まれその土地の苦しみを背負いながら、それをより良いものにしていこうとする気持ちが根底にある。何かを成し遂げる際に、特殊能力ではなく周囲の人々の助けを借りることが多いという人間らしさを大切にしています。彼の行動は一見すると主人公らしくない部分もありますが、彼の正義においては正しい選択です。台本の中で彼の人物像が膨らんだり、色々な方向に進んだりしますが、僕としてはその変化を楽しみながら、「今回はこう進むのか」と楽しみながらやっています。
― これまでの大河ドラマの主人公と比べると、蔦重は非常にエネルギッシュで若々しく生き生きとしている印象があります。先ほど「普通の人」として描くというお話がありましたが、彼のキャラクターについて演出陣で決めている方向性は?
深川:これまでの大河ドラマの主人公と比較すると、蔦重は「最も多くの人と会っている主人公」だと思っています。戦国時代の主人公は、基本的に自分の藩や領地内の人物と関わることが多く、ステージが変わっても限られた人々との交流が中心になると思います。それに対して蔦重の場合は、吉原には約1万人が暮らしていたと言われるので、その人々と日常的に関わる機会があるし市中の人々とも接点があり、台本の中ではひょんなことから田沼意次と会うなど偶然の出会いから関係が広がっていくことが多く、身分の違いに関係なくものすごい人数と会っている。自ら積極的に関係を築いていくことで周囲の人々も蔦重に期待し影響を受けていく、そういったエネルギッシュな部分は演出陣でも意識して描いています。それだけの人々と関わっていける彼のバイタリティーについて横浜さんは最初から理解されていて、これまでの大河ドラマの主人公とは違う一面が見えているのではないかと感じています。
★中編、後編に続く
(modelpress編集部)
「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第7回 好機到来『籬(まがき)の花』あらすじ
蔦重(横浜流星)は今の倍売れる細見を作れば、地本問屋仲間に参入できる約束を取り付ける。しかし西村屋(西村まさ彦)と小泉忠五郎(芹澤興人)が反発し、阻もうとする。
【Not Sponsored 記事】
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