「面接、どうだった?」と妻から届いた問いに、俺が言葉より先に送った求人票の勤務地
通知を切り忘れたまま、俺は家を出ました
求人票を見つけたのは2か月前でした。妻の実家がある町の会社で、営業の枠が1つ空いていました。店を畳んでから2人で暮らす義父母のことを、妻はときどき口にしていました。もっと帰れたらいいのに、という言葉を聞くたび、俺は返す文句を持っていませんでした。応募したことは誰にも言わず、面接の日は休みを取り、いつもの背広で家を出ました。カレンダーの通知を切るのを忘れていたことに気づいたのは、電車に乗ってからです。妻が見たかどうかはわかりませんでした。玄関での「いってきます」に返ってきた声は、いつもと同じに聞こえました。
駅のベンチで、既読をつけられませんでした
「今日、帰りは何時くらい?」には、面接の前に「少し遅くなるかも」と返しました。そこまでは嘘をつく必要がありませんでした。面接のあと、通知に浮かんでいたのは「お疲れさま。今どこ?」でした。開けば既読がつき、そこから先は本当のことを書くしかなくなるはずでした。俺は駅のベンチに座ったまま、何本も電車を見送りました。今頃、妻は職場でスマホを伏せているのだろうか。それとも、もう気づいていて、返事を待っているのだろうか。開いたのは、帰りの電車の中でした。既読がついてすぐ、「面接、どうだった?」が届きました。妻は知っていました。
求人票の写真を、言葉より先に送りました
言い訳の文を何度も書いては、送らずに消しました。入力中の表示が向こうに見えているだろうと思うと、消す指がよけいに早くなりました。送ったのは「見たんだ」の最初のメッセージと、「隠しててごめん。帰ってから話す」の続きだけです。「今、教えて」と返ってきました。俺は求人票の写真を送り、「勤務地のところ、見て」と添えました。町の名前を妻がどう読んだのかは、画面からはわかりません。既読だけがついて、返事は来ませんでした。俺は「お義父さんとお義母さんの近くに住めたらと思って」と打ちました。届いたのは「帰ってきてから聞く」のメッセージでした。
そして...
玄関で靴を脱いでいるところに、妻は、なぜ話してくれなかったのかと聞きました。俺は「言ったら、無理しなくていいって言われる気がして」と答えました。それだけでは足りない気がして、「言ってくれるのがわかってたから、逃げ道にしそうで」と続けました。妻の優しさをわかっていたから使わずにいた、と言えば聞こえはいいですが、本当は断られるのも、許されるのも怖かっただけです。妻は「私にも、選ばせてほしかった」と言いました。通知を見たのはシャワーの間だったことも、その場で聞きました。結果は来週です。俺は今、同じ町の別の求人も並べた一覧を作り、今度は先に妻へ送るつもりでいます。10年いた会社を辞めることが正しいのかは、まだわかっていません。
(30代男性・営業職)
本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。
(ハウコレ編集部)
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