「その指輪、外さないの?」と聞いた私に、彼が3秒黙ってから返した一言
「これは、外せないんだ」から先を、彼は足しませんでした
付き合って半年になる彼は、夕食の皿を洗うのが習慣になっていました。細い銀色の指輪は、出会ったときから左手の薬指にあります。シャワーのときも外さない。気にならないと言えば嘘になりました。
「その指輪、外さないの?」
軽く聞いたつもりでした。返事が来るまでに、たっぷり3秒ありました。彼は蛇口を止めて、指輪をはめた左手を先にタオルで拭きました。
「これは、外せないんだ」
「誰かにもらったの?」
「昔の話だよ」
それ以上、彼は何も言いませんでした。私もそこで引き下がりました。
3年前の写真にも、同じ指輪が写っていました
引き下がったのは、その場だけでした。彼が帰ったあと、私は彼のSNSをさかのぼりました。2年前の投稿にも、同じ指輪が写っています。相手は写っていません。写っていないぶん、私の想像だけが増えました。
それからの私は、彼の言葉尻を数える人になりました。友人の名前が出れば男か女かを確かめて、見せられた写真は端のほうを拡大して。安い銀色の指輪を買って、自分の左手の薬指にはめて見せたこともあります。彼は「似合うね」とだけ言いました。
そんな聞き方を2週間ほど続けたころ、私の口から用意していない言葉が出ました。
「外して。無理なら、理由を聞かせて」
「そこまで口出しされること?」
先に返ってきたのはそれでした。
未練じゃないならいい、とは思えませんでした
そのあと彼は指輪を抜いて、テーブルに置きました。
「3年前に、ペアで2つ買ったんだ。片方は渡せないまま、今も引き出しに残ってる」
当時付き合っていた人に渡すつもりで、彼が1人で選んだものだそうです。重いと思われるのが怖くて渡す日を延ばしているうちに、関係が終わった。渡せなかった片方は箱のまま引き出しにしまい、関係が終わったあとに自分用のほうだけを指にはめ、次は言い出す前に諦めないための戒めにしていたと言いました。
未練ではなかった。それでも、私が言ったのはこれでした。
「未練じゃないならいい、とは思えない」
「俺にとっては、もう元恋人の物じゃない」
「でも、その意味を決めたのはあなただけでしょ」
彼にとっては自分への戒めでも、私から見れば元恋人とペアになるはずだった指輪です。同じ1つの指輪の意味が、私たちの間で最後まで揃いませんでした。
そして...
「捨てなくていい。でも、今付き合っている私の前で左手につけ続けるのは嫌」
私がそう言うと、彼はしばらく指輪を見ていました。
「そこは分けて考えてなかった」
指輪は今も彼の引き出しにあります。ただ、左手の薬指にはもうありません。処分してほしいとまでは言いませんでした。そこまで求めるのは違う気がしたからです。
引き出しにあると知っていて平気かというと、平気ではありません。それでも、平気ではないと口に出せたぶんだけ、前より楽になりました。
(20代女性・事務職)
本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。
(ハウコレ編集部)
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